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電影のホムンクルス  作者: 宮前タツアキ
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火蓋(中編)

 ネストボックス・リーブスチームとチューズデイの混成部隊は、偽装されていたアジトに電撃的な急襲をかけた。施設の罠や警報を無効化して侵攻し、抵抗の暇も与えずに制圧する。

 しかし、犯罪ギルド側の構成員をほとんど捕縛し終わった時、異様なモンスターが地下から現れた。表示されるモンスター名からは、ネームド・モンスターらしいのだが、既に知られていたその性質とは様々な点が異なっていた。散々手を焼いて、なんとか倒した所で現れたのは、ゲームジャンルを無視しているかのようなアンドロイドが一体。「我が主のために」と口走って、天空から巨大な機動兵器を呼び出して合体し襲いかかって来るという、想像の斜め上を行くサービスっぷりである。

 デリラの的確な指示で、なんとか損害を出さずに倒しきったが……さすがに「もうお腹いっぱい」という厭戦気分がにじんでいた。


「ユーリ!」


 休憩エリアにエルムが駆けて来た。二人、笑顔でハイタッチを交わし合う。散開していたプレーヤーが徐々に集まってきた。


「ふぃー、お疲れ」

「お疲れー。でもさ、これって首領AIってやつじゃないね?」

「残念ながら、そのようね。フォースターまで進んでいたプレーヤーの間で、噂になっていたキャラじゃないかな」

「『さまよう機械人間』ってやつ? なかなか情報が流れてこなかったけど」

「そりゃーイベントの起点になりそうな情報はなー。しかし、こんな始末になるなんて、シナリオ的にどうなんのよ?」

「…………」


 勝利の余韻に緊張がとけ、やや多弁になっているプレーヤーの中で、デリラは一人厳しい表情をしている。ここで決着をつけると意気込んで仕掛けたのに、本命を逃してしまったとは……

 傍らに立ち、ノブヤは畏敬の眼差しをデリラに向けていた。頭のキレで自分が劣っているとは思わないが、一瞬の判断の速さと幾重にも用意した予備手段、何より「絶対に息の根を止める」と言わんばかりの容赦ない戦術に、ゲームとはいえ「器が違う」人物はいるものだとの感慨を抱く。「軍師」と呼ばれる高名プレーヤーとは聞いていたが……

 或る者は今の戦闘を、また或る者はこれからどうすべきか論じている中、唐突に幼い感じの声が響いてきた。


「ねえ、キミ。それは何? 僕に、くれないかな?」


 瞬間、ユーリは身を翻して抜刀し、エルムの背後の空間をなぎ払った。途端に空間が、まるでシャボン玉が割れるように弾けて、バック転で剣をかわした何者かが地面に降り立つ。


「ご挨拶だねぇ、キミ。僕が種明かしするのくらい、待ったらどう?」


 小首を傾げて天使のような笑みとともに、ユーリに声を掛ける子供。人工物のように整った顔立ちと、中性的に華奢な肢体。外見的な年齢は、十歳をあまり越えていないように見える。


「ああっ! テメーはぁっ!」

「なにっ! こんな距離まで気づけなかっただと?!」

「えっ! あれって、ガートさんのチートシェルター?」

「囲んで! エルムに近づけないで!」


 あたりは一瞬、混乱に陥りかけたが、そこは選び抜かれたプレーヤーたちである。盾職が一番近い位置に、その背後には物理アタッカー、距離を置いて後衛職が布陣する。ものの数秒で包囲陣がしかれた。

 「少年」の正面に盾を構えたユーリが立ち、エルムとの間を遮っていた。ユーリは滅多に見せない憤怒の表情で、呼気もかすかに震えている。しぼり出すように、目の前の子に問うた。


「エルムに……何をやろうとした……!」

「ユーリ……?」

「は? ちょっとサプライズ混じりの挨拶しただけじゃん。なに、テンパってんのさ?」


 ユーリの怒気にエルムも驚いている。普段の彼は、例え相手が首領AIであっても、話し合いでなんとかならないか試すというのに。


「とぼけるな! 君は……エルムに……殺すよりもひどい事をしようとした!」


 それは、彼の〝感覚センス〟がつかんだ印象をそのまま言葉にしたもので、ユーリ自身にも具体的な意味は分かっていない。しかしその言葉に、数秒ぽかんとした表情を浮かべ、


「あっはっはっ! そうか、そういう事か! ナイスヒントだ!」


突然、「彼」は笑い出した。

 チューズデイの剣士プレーヤーが、スキありとばかりに突きかかった。空気を読まない行動だが、実戦的という意味では間違っていない。が、


「ぐわっ! なん……これっ!」


苦鳴を口走りつつ大きく後ずさって胸元を押さえた。攻撃した側なのに、ダメージエフェクトが表示されている。そして攻撃された「彼」の側には、背中に七枚の光る翼が浮かんでいた。外見だけからいえば、本当に天使じみて見える。


「ダメージ反射だと?!」

「うかつに仕掛けるな!」


 周りで言い交わす声を一切無視して、「彼」は上機嫌でユーリとエルムに語りかけた。


「用語検索してみたら『殺すよりもひどい事』の最多数解釈は、『人間の尊厳を冒す事』だって。それでようやく分かったよ。エルム、君は、人間由来の人工人格だって話だね? つまり君の〝輝き〟は、『人間の本質』『コア』とでも呼ぶべき部分なんだ? 道理で、僕たちにはないはずだよ」

「訳わかんないこと言って、一人で納得しないでくれるかなあ?」


 矢をつがえつつ言い返すエルム。この子が事実、ゲーム上のボスクラスしか持っていないはずのダメージ反射能力を身につけているなら、うかつに攻撃できない。


「訳がわからない、か。まあ仕方ないよね。くれと言ってもらえるようなモノじゃないし、僕としちゃぁ、やる事は一つしかない」

「エルム、下がって! そいつはおそらく『強奪』スキルもちの首領AIよ! あなたから何かを奪おうとしている!」


 デリラの声に、辺りに更なる緊張が走った。「彼」はチラリと一瞥を走らせ、言葉を継ぐ。


「ふーん、僕の力を分析してたわけね。まあ正式に挨拶しておこうか。僕の名はシン。わかってるとは思うけど、カエルムエリアの首領AI。正直、僕にとって、管理者の指令なんてどうでもいいんだけどさ、僕は……エルム、君のその〝輝き〟が欲しい。だから、君を殺さなくちゃいけない。そうしないと、その〝輝き〟は奪えないんだ。ごめんね?」


 二人に向ける笑みはあくまで無邪気で、光りを帯びているようにさえ見える。しかし言っている事は、どこまでも身勝手極まりない。


「そんなこと……!」

「ユーリ、下がってエルムのそばに」

「すまねえ、ここは譲ってくれ。あの野郎に貸しがあるんだよ」


 シンの台詞を聞き、更に感情を高ぶらせたユーリをさえぎり、チューズデイの面々が前線に立つ。剣士プレーヤーはまなじりを釣り上げ、なにやら因縁があるらしい。


「よう、久しぶりだな。お前、AIだってんなら、オレを忘れてねーだろう?」

「んー? 忘れるよー、僕たちでも。メモリーは有限だし、優先度低い情報は残しておく意味ないしね。でも君は覚えているな。『破山剣』なんてガッカリアイテム掴ませてくれたヌケサクじゃん」

「くっ、テメエ……!」

「冷静になれ。こっちが熱くなってどうする」


 全身鎧の騎士が、抑制の利いた声音で剣士プレーヤーをたしなめる。熱くなりかけた頭を冷やし、剣士プレーヤーは直剣とマンゴーシュを構え、シンに呼びかけた。


「よう、シンとか言ったな。お前、男か? 女なのか? 分からねえと落ち着かねえぜ」


 現実世界で発したら顰蹙ものの質問だが、そう問いたくなる気持ちはわかる。シンと名乗った首領AI、外見から性別がまるで判別できない。例えばエルムも年齢のわりに発育は控えめだが、少なくとも性別を間違えない程度の丸みは帯びている。


「ふん、僕らAIには元から性別なんてないんだよ。NPCに性別が与えられているのは、人間社会を模倣するためさ」

「なるほど、見た目は後から与えられただけ、か。そりゃよかった、心おきなくドツけるってもんだ!」


 言葉が終わるのを待たず、上空から十数羽のカラスが飛来した。チューズデイの召喚師の使い魔だ。統制の取れた時間差攻撃でシンに突きかかる。が、しかし、


「おっとっと」


シンは背負った鞘から単鞭を抜き、危なげなくカラスたちを撃ち払った。幼い容姿とギャップが激しい「手練れ」の動き。ダメージ反射が回数制限付きと読み、使いきらせる戦術だったが、逆読みされ潰された形だ。


「くっ……!」

「手を止めないで! あの翼の枚数が残り回数と予測します! 弱攻撃で使い切らせて!」


 一瞬動揺したチューズデイの面々に、デリラが後方から指示を飛ばす。


「ふふん、思い通りにさせるわけないだろ?」


 単鞭を振るって何かの呪言を口ずさむと、シンの周りの空間が三ヵ所、シャボン玉の表面のように歪み、弾けた。中から異形のモンスターが三体、飛び出てきた。チューズデイの戦列が乱れかける。そのスキに、シンの姿が虚空に消えた。


「くそっ! あれは首領AIの異能なのか? チート過ぎだろう!」

「エルガーさん、落ちついて。何でしたっけあの」

「データ書き換えには何らかの制限はあるはずだ! さもなければ総合物理演算管理ユピテルが許可するはずがない!」


 珍しく興奮気味のエルガーを、フリンと共になだめるノブヤ。言いつつも内心、疑心がないではない。順番からいえばエドワードが作ったはずのシンである。何か特別なヒイキをされていないとも限らないのだ。


「エルム……ソールさんに狙いを付けて……今っ!」


 ユーリの指示に、声も返さずエルムは行動した。自分の位置からチューズデイのプレーヤーの方向に矢を向け、放つ。空を走る一箭は、


「あぐっ!」


空間のシャボン玉をはじき飛ばし、中からシンがよろめき落ちた。


「な……!」

「どうやって位置が?!」

「そうか、外部からの攻撃は通っちまう。そこがガートさんのと違うのか!」


 あっけにとられるチューズデイの面々と、驚きの方向がまるで違っているネストボックス関連メンバー。

 シンの顔が苦痛と怒りに歪む。シャボン玉のような光学迷彩空間内にいる間は、ダメージ反射が使えないらしい。


「何なんだろうなあ、君は……! 僕も知らないチートの仕方を知っているとしか思えない。君が現実リアルで使っているツール、奪えるものなら奪ってやりたいよ!」

「……奪えるなら、奪って欲しいよ……」


 怒気とともに吐き捨てられたシンの台詞に、ユーリは苦笑と共に小さく答える。聞こえる距離に仲間はいなかったが、デリラだけは、およその意味を察した。

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