第2話 絶望(トリガー)
PM8時。
「いや〜、疲れた〜。ん、金一から、メールだ。」
明らかに時代遅れなガラケーを開き、時代遅れなメールを開く。
「ん、1時間遅れるのか。打ち上げ楽しそうだな。「了解」と。帰ってオナニーでもするかな〜。」
そう独り言を口ずさみ、バイトの制服を脱ぐ。
「お疲れしたーっ。」
「おー、お疲れーっ。」
暑苦しい男達の声が厨房から聞こえる。
そして、チャリに跨り、激しめのロックを口ずさみながら、チャリを漕ぐ。
「ばあちゃん、おかえり!」
「あら、ただいま、今日は出かけるんだっけろ?」
「うん、10時頃に、」
「大芽くん家ね。」
「さすが笑。シャワー浴びてくんね。」
着替えを取りに2階に向かった。
「やっぱ、かわいいな〜、鳳 凛桜。まだ時間あるし、ちょっとだけ見るか。」
そして、俺は買ったばかりの大人気AV女優のDVDを見ながら、オナニーをした。
その後、シャワーを浴びて、大芽の家に向かった。
「行ってきまーす。」
「気をつけるんだよ。」
「うん!!行ってきます!」
そして、大芽の家に到着。
「あれ、あいつらのチャリねーな、あと5分で10時になるけどな、いつもは遅刻するのは俺なのに大丈夫かなあいつら。それにしても、大芽ん家でけー。」
「あら、飛鳥くん、大芽くんから、聞いてるわ、入っていいわよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「大芽くんが待たせちゃってるみたいでごめんなさいね。乃木くん、大芽くんの部屋に案内してあげて。」
「了解しました。」
(召使いまでいんのかよ。汗。)
「こちらです。」
「ありがとうございます。」
(いつ来ても慣れないな、大芽の部屋。あいつの部屋だけで、俺ん家よりでかいんだもんな。それにしても、あんまじっくり大芽の部屋見た事無かったな、AVどこに隠してんだ。)
「あれ、なんだこれ、家族写真…。あ、大芽かわいいじゃん笑。あれ、この人、お父さんかな、どっかで見た事あるような…?」
「ごめん、遅れた。」
なぜか、とっさに大芽の家族写真を隠した。
「おせーよ。」
「ごめん。」
どこか、いつもよりよそよそしかった。
「どしたんだよ、元気ないじゃん?」
「いや、別に?」
「そかそか、で!例の物は買ってきたかよ?」
「お、おう!もちろん、これだろ?」
金一が粉ミルクをテーブルに置いた。
「おいおい、ふざけんなよ笑笑。」
「笑笑笑笑ごめんって、ちゃんとあるよ笑笑。」
大量の酒とお菓子がテーブルに置かれた。
「さすがだぜ!笑、時間も遅いから早く飲もうぜ!」
「おう!!」
「酒乱だったら、ごめんな?」
飛鳥が軽くボケる。
みんなで大爆笑した。
いつもと少し雰囲気が違かったが、酒への好奇心が勝ち、気にせず、ビールの栓を開けた。
「にげー、全然おいしくねー。」
みんなでこんな事言いながら、高校3年間の思い出を語り合った。
これが青春か。女なんか居なくても、青春は手に入ると思ってた直後の事だった。
「まあ、なんてったって、1番のビックイベントはあれだよなー。」
ルフイが言った。
その瞬間、大芽はトイレに行ってたから、分からなかったが、他の2人の顔が一瞬火照ったように見えた。その時は、酔ってるんだなと俺の脳は処理した。
「なんだよ、ビックイベントって。」
「えー。秘密だから、教えなーい。」
「なんだよ笑笑それ、教えろよ。笑笑」
「じゃあ、ヒントだけね〜。」
そうやって、左のポケットから何かを出そうとした。その時だった、、、
「おい、そっちは!!!」
珍しく、大芽が叫んだ。
「え?」
その瞬間、赤い数字の書いてある箱が落ちた、4人の顔は高校生活3年間で見たことないぐらい青ざめた。一瞬みんな時間が止まったように動かなかったが、しばらくたって、ルフイがその箱をポケットにしまい直した。酔ってて、あんまりはっきり見えなかったが、よく水風船して遊んだからすぐわかった。
「お前、コンドームも買ってきてたのかよ笑笑。久しぶりに遊ぶか笑笑。貸せよ笑笑。」
「いや、ごめん、これはちょっと。」
「笑笑なんでだよ、どうせ使わねーだろ?俺ら笑笑。」
「だけど、ちょっと…。」
酒を飲んでなければ、もうちょっとマシな言い訳ができただろう。
「1回貸して、やりたいことある。笑笑」
「いや、これはちょっと。」
「貸せよ!!笑笑」
酔ってた俺は、強引にポケットに手を入れて、取ろうとした、金一と一は止めに来たが、大芽は何かを諦めたかのようにため息をつき、壁に寄っかかった。そして、赤い箱が下に落ち、中身が飛び出した。
「なんだよ、俺抜きで遊んでたのかよ笑笑。」
拾いあげようとした瞬間だった。
「なんだこれ、ベトベトする。くさ。」
そう、嗅ぎ覚えのある匂いだった。いつも通りの何より嗅いだことのある匂い。
「え…。」
一瞬で酔いは冷め、時間が止まったかのように俺の思考は停止した。
「ごめん。」
ルフイ、金一、一は一斉に謝ってきた。
「ごめん。」
少し時間差で大芽も謝ってきた。
「え。なんで謝ってくるんだ。どういう事だ。分からない。説明してくれ。」
「ほんとごめん。」
ルフイがもう一度謝った。
「だいたい、お前が酔いすぎなんだよ!!」
金一がルフイに言った。
「ちげーよ、俺は女の子のLINE貰ったって、自慢しようとしただけだったんだよ…。」
「頼む、説明してくれ。」
一が口を開いた。
「俺らヤったんだよ。」
「え?」
「俺ら、童貞卒業したんだよ。」
「そ、そっか。」
動揺した俺はよく分からないまま、返事をした。
「そっか。って、俺らヤったんだぞ?SEX。」
「そういうことか。そうか、そうか。おめでとう!」
「え?怒らないの?」
「なんで怒るんだよ。めでたいことだろ!うわー、先越された〜。ちょっと悔しいけど。誰とやったんだ?先輩。」
俺はこれまでにない愛想笑いをしながら、話した。
ルフイが口を開いた。
「打ち上げで俺達以外が酒飲んでてな、俺達は飛鳥と飲むからって拒んでたんだ、それで打ち上げが終わった後、いつも絡んでこないくせにギャル組いるじゃん?ギャル組4人が絡んできて、一緒にボーリング行こって言われて、ボーリング一緒にやって、終わった後、「あー、まだ投げたりないな〜って、1人の女子が言ってきて、こっちのボールも投げたいかも。」って、俺達断れなくて、そのまま、ホテル行ったんだ。」
「そかそか!で、最初なんの体位やったの?」
高校最後の集まりを台無しにしたくない一心で本当は押し潰されそうだったけど、冗談を言った。
その後もみんなの初体験の話を愛想笑いをしながら、聞いて、最後だから、最後だから、と自分に言い聞かせて、聞ききった。
「じゃあ、また今度!集まろうな!」
「おう…!」
そう言って、地獄の集いが終わった。
チャリを漕いでいたのも記憶が無く、いつの間にか家に着いていた。
「おかえり。」
ばあちゃんはまだ起きていてくれた。
「ただいま。」
「あ、お酒飲んだっペ?」
「うん。ごめん。」
これだけ言って、2階の自分の部屋に行った。
そして少しだけ泣いた。
他の人からしたら、大した事ない事だろう、だが、童貞からしたら、致命傷だ。みんながすぐに言ってくれずに隠そうとした事も少し悲しかったが、それの数倍、置いてきぼりにされた事が悔しくて、無性に自分に腹が立った。
そして、俺は酔ってたのか、アドレナリンのせいかは知らないが、出会い系のアプリを入れた。
次回、第3話 出会い(はじまり)