汚職をしない門番は門番にあらず
あれから賊に襲われることもなく二日ほど経過し、砂漠の都市ザットに着いた。
道中問題はなかったが保存食ばかりだったのでわかりきっていたことだが非常に辟易とした、旅の道中もまともな食事ができる世の中になってほしいものだ。
その間にこの世界というよりは商人としての常識、大雑把に纏めると大体の物価と貨幣価値、そして地方の特産物や需要の高い商品などの知識を得た。
極一部の特産物は元々知識として知っていたのでもしかしたら自分はその周辺に住んでいた人物なのだろうかと思いつつまぁいいかと思考を放棄する。
仮にもしその周辺に知己がいたとしても自分の状況を鑑みるに知己を頼っても面倒事しか起きない気もするので知り合いを探す事はやめて教会にでも行って神にでも祈ろう、神なら何とかしてくれるだろう神ならと適当に考えつつ門に並び自分らの番が来るのを待つ。
待っている間にこの先どうするかと考えるとするか。
「ヴァーモ殿は何日ほどこの街に滞在するつもりなのですかな?」
特に何も決めてはいないが相手の様子から見て何が言いたいか予想がついたので話に乗ることにする。
「特に決めてはいないが言いたいのは帰りの護衛を頼みたいという事だろう?かまわないさ、ただ料金は今度はきちんといただくよ、ただ相場の半額でいいのでまた道中の食事をお願いしたいのと暇な時の無駄話にでも付き合ってくれると嬉しいのだがね」
「顔には出していないつもりでしたが出てましたかな?次はザットから帝国の方に移動しますので大体十日間ほどになります。騎士様の相場がだいたい一日金貨一枚なので五枚になりますがそれでよろしいですかな?」
当たっていたようだ、顔色を読んだのではなく商人ならどう考えるかという推測のもと言ったので多分当たっているだろうとは思いつつ恥をかかなくてよかったとも思った。
「帝国というとフォルカの方か、帝都まで行くのかね?」
「ええ、あそこが一番ここで仕入れた商品を売るのに適してますからな」
「了解した、ところでここには何日程滞在を?私も宿をとらねばならんので早めに決めていただけると助かるのだがね」
「ああいえ、宿はこちらのほうで面倒見させていただきますので街に入った後付いてきてくだされ。ちなみに滞在期間は一週間の予定です。」
手間が省けた、まぁこれも護衛代金の一部なんだろう。
「それは助かる、おっとそろそろ私たちの順番が回ってきたようだな」
「次の馬車止まれ!ふむ、三台か。荷物を検めさせてもらうぞ」
ふむ、自分の荷物ではないのでどうでもいいのだが気になったので聞いておくか。
「イフリ殿、この街は門番が商品を不当に奪ったり難癖をつけて取り上げるといったようなことはないのかね?」
「ええ、そのようなことは絶対とは言い切れませんがまず起こり得ません。というのも旅商人の間で悪評が立てばこの街自体に様々な商品が来なくなります。全く来なくなることはないでしょうがこのような砂漠で流通が途絶えると死活問題ですしただでさえここは砂族の影響で旅商人が少ないのです。なので商人の間で悪評が立つようなことは領主が固く禁じております。少なくとも私はここの門番が不祥事を起こしたという話を聞いたことはありませんな。」
なるほど、私の知識にある限りでは門番は自分の立場を笠に着て処分を受けないぎりぎりのラインを見極めてあくどいことをすると思っていたのだがどうやら違うようだ。
「なるほどな、確かにこんな土地では商人が来なくなれば死活問題か」
そう言いつつ何か絶対に抜け道はあるはずだという考えもわいてくる。
「ええ、ただ次の目的地である帝国などではそういうこともないので門番の悪行はそれなりにはありますね」
ふむ、どうやらわたしの知識は帝国よりであるようだ。もしかしたら知識とは関係なく元々そういうことを考える人間なだけかもしれないが・・・
「荷物に問題なし!通ってよし!!」
おっと確認は終わったようだ、案外早かったな。
「ではヴァーモ殿行きましょうか、もうすぐ日も暮れそうですし」
「ああ、早く馬を休ませてやりたいしな。この馬も私みたいな奴を乗せていたら疲れるだろうさ」
「やはり騎士というものは馬を大事にするのですな。まぁ見るからに名馬ですからなぁ」
自分が騎士であるかどうかは定かではないが馬を大事にしてるのは確かだ。これに関しては理由や理屈はない、名馬であることや金銭的価値を抜きにしても本能的に大事だと感じている。
「馬を大事にしない騎士はいないさ、仮にいたとしたらそれは騎士という名前のなにかだ」
「まぁ私たちにとっても馬は大事ですな、いなければ満足に動くことすらできませんからなぁ」
いやまぁ実際に騎士がみんな馬を大事にしているかどうかは全く知らないわけだが。
「おっとここだここだ、ヴァーモ殿着きましたぞ」
そう言われて建物を見上げてみると周りと比べてみるとかなり大きな二階建ての建物があった。見た感じ窓はないようだ、まぁ砂が入ってくるかもしれないから当然といえば当然か。
「馬はどうすれば?」
「手続きをしてくるのでしばしお待ちを。すぐに下働きの小僧が来るでしょうから」
ふむ、まぁ馬も重いだろうし先に降りておくか。
「ああわかった、しばし待つとしよう」
そういいつつ馬を降りたところで頭を摺り寄せてきたので首筋や腰あたりをなでてやると嬉しそうにいなないた。そういえばこの馬にも改めて名前を付けないといかんな、さてどうするかと名前を考えつつ馬の首筋をなで続けたところやけに澄んだ瞳をしていることに気づいた。
「そうだなお前の名は今日からイクだな」
こちらの言葉が伝わったとは思わないが二回首を縦に振った後また嬉しそうにいなないた。
「ほらほら、もう夜なんだから静かにな」
そういうと首を縦に一度ふり、大人しくなった。言葉はわからないはずだよな・・・?少なくとも自分の現在の常識では馬は言葉を理解しないはず・・・すごく自分のしつけがよかったという事にして無理やり納得する。
「すいませんお客様お待たせしました」
そういわれ振り向くと宿の下働きらしい男の子がいた、年齢は十二歳前後だろうか、まぁどうでもいいことかと思いつつ馬を預けることにする。
「ああ、馬を頼む。見てわかる通り身体がでかいので飼葉と水は大目にやってくれ」
「わかりました、そのようにいたします」
実際にイクがどこまで食べるかは道中ある程度節約して餌を与えていたようなのでわからないが少なくともあの身体をしている以上小食という事はないだろう。それに道中我慢させていたと考えればかなり食うはずだ、多すぎたら残すだろうしと考えそう言いつつ手綱を渡す。手綱を渡されたイクは大人しく男の子についていったが寂しいのか途中何度もこちらを振り返っていた。
やだうちの子かわいい・・・と親馬鹿みたいなことを考えつつ宿に入った。
「おお、お待たせしましたな、部屋は二階の一番奥の部屋になります」
一番手前ねぇ、あまりよろしくはないな。
「ふむ、別に構わんのだが一番手前の部屋に変えれんかね?」
「何故ですかな?変えようと思えば変えることはできますが」
「なに、安全だとは思うが念のためだよ。物取りが入ったときに奥にいては逃げられかねん。手前の部屋なら気づいてすぐ出れば退路を絶てる」
別段物取りが出るとも思っていないし鎧を脱いでいる状況下で無理をしてまで物取りと戦うつもりもないのだが信用は稼いでおくに越したことはないのでそう言っておく。
「ああ、そういうことでしたか。それならば私の部屋と交換しますか、私の部屋は我が隊商がとった部屋の中では一番手前ですので。それにまだ荷物を運び入れてもおりませんし」
「ああ、すまないがそうしてくれるとありがたい」
「いえいえ、むしろありがたいのはこちらですから」
商人の腹の内を読むのは難しいが少なくともこの発言がマイナスになることはないだろうと考え、階段を上り部屋に入り、荷物を置いてから一度階下に戻り受付のおっさんに話しかける。
「すまないが下働きの子供を一人借りてもいいかね?鎧を脱ぐのを手伝ってほしいのだ」
「ええ、かまいませんよ。今呼んでくるので少々お待ちを」
やれやれやっとこのくそ重い鎧を脱げる、この二日トイレの時以外は常時つけっぱなしだったから非常につらかった、トイレの時に関しても下半身部分しか脱いでないし本当の意味でゆっくりできるのは記憶を失って以来初めてだ。
「すいませんお待たせしました」
ついさっきも同じようなことを聞いたなと思いつつ振り向くと先ほど馬を預けた少年がいた。
「ではすまないが鎧を脱ぐのを手伝ってほしい、ついてきてくれ」
そう言って部屋に戻り脱がし方について説明しながら奮闘することしばらく、ようやく鎧をすべて脱ぐことができたが兜だけはかぶったままである。
「ありがとう、あとは一人で問題ないので大丈夫だ」
そう言って男の子が出て行ったのを確認してから兜を脱いだ。
都市の名前はすべて適当、ただキャラの名前についてだけはあるルールに基づいてつけてます。