第2話 凍りつく出会い
俺はゆっくりと目を開ける。
まだ生きているのか?
てっきりあの巨大な拳に潰され、天界への旅に出ている頃だろうと思っていたのだが。
気づかないうちに三途の川から戻ってきていたのだろう。
動けることを確認するためにまずは首を動かす。
あの異形の化け物は一体何処に?
眼前の獲物を逃すわけがない。
俺が顔を上げるとそこには一人の女性がいた。
彼女は俺を庇うようにして立っていた。
茶に染まった髪が風に靡く。
そして彼女のスカートも靡いた。
これはいけないと両手で顔を覆うが、俺の指は欲望のままに目が隠れないほどの隙間を作った。
「こ、これから勝負にでもしに行くんですか?」
「変態!」
彼女のローキックは顔面に深く、強くヒットし、俺は綺麗に吹っ飛んでいった。
「助けてあげたのに……お礼より先にそれ?最低!最低!もう!」
「人間ってのはなぁ……欲望には勝てねぇんでぃ……仕方ねぇだろ嬢ちゃん」
「ちゃんと謝りましょうか?」
「すみませんでした……」
彼女が蹴りの構えに入った瞬間、俺は即座に土下座を決めた。
意外と痛かったよ。歯折れたよ。
「今回ばかりは見逃してあげる。次はないんだからね」
彼女の許しを得ると俺は化け物の方に目を向けた。
な、なんだこれ……
凍っている?
彼女がやったのか?
「な、なぁ?」
「何?もう帰らせてくれない?」
「これ、君がやったの?」
「そうよ。あ、壊すの忘れてたわ……」
彼女はそういうと腰に差していたステッキを取り出し、それを斜め下に振り下ろす。
すると凍っていた化け物はそれごとヒビが入り、どんどんと全身に広がり、最終的には爆発するように化け物を包んだ氷は四散していった。
太陽がよく俺たちを照らしている。
緩いスピードで落ちてくる欠片はそれを反射し、辺り一面眩い光で囲まれている。
そこで見る彼女の横顔はとても綺麗に見える。
元々整った顔立ちをしていたのだが、その世界がより一層それを引き立てているのだろうか。
俺はずっとこの場所にいたいと思った。
このまま見惚れていたい。
俺がそんな考えをしているとは知らず、最後の一欠片が落ちると同時に彼女は回れ右をして去ろうとした。
「後片付けよろしくね!あと、ズボン洗ったほうがいいわよ?」
下半身が浸水していたの完全に忘れてた……
そんなことより彼女に聞かなきゃいけないことがある。
もう会えないかも知れない。
たまたまここを通りかかった旅人かも知れないし、もしかしたら近所に住んでいるかも知れない。
どちらでも構わない。
名前を知りたい!
「な、名前を、おひぇえて下さい!」
はい、しゅーりょー!
噛みました。
つくづくダメだと思うわ自分でも。
「リーシア・エルライザよ。それじゃあね。変態噛み噛みお兄さん」
「ちがっ、あれは不可抗力だからっ!」
彼女……いやリーシアは振り向く事無く足を進めていった。
俺はずっとその後ろ姿に釘付けになっていた。
いや、氷付けになっていたかもしれないな。