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町内会は面白いか?  作者: 東海林会計
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第四話 ふるさと会館にて


第四話 ふるさと会館にて


 二回目となる五月期定例役員会が終了し、会館に残っているのは俺たち三人だけだ。


「今日は『アドまち』録画予約してきたぞ」

「なんだそれ?」

「気にするな、こっちのことだ。それより今日は思ったより早く終わったな」

「ショウ君よ、ハカセが上手いこと墨田を丸め込んだんだろうよ。よくやった」

「いやぁ今回は老人会のからむ案件がなかったからねぇ。堀北総務広報部長も墨田さんに話を振らなかったしね」

「うん、これは浅井先生のご指導の賜物だな。

俺にも前回の我儘のこと、きちんと謝って来たしな。えらいえらい、堀北褒めてやろう」

「なんでお前が偉そうにしてんだよ」

「ハハハ、まぁ乾杯といこうじゃないか」

ハカセは自分の家からビールとか乾き物とかいろいろ持ち込んで、会館の台所の冷蔵庫に入れていた。なんだか学校で放課後に酒盛りしているようで落着かない。

「いいのか、ここで酒飲んで?」

「ん?総会のあとの交歓会で飲んだじゃん。ちゃんと片付ければ誰も文句言わないよ、ハハハハ。タバコは絶対ダメだけどね、館内禁煙」

「俺たち吸わないからそりゃいいけどさ。でもここ冷蔵庫もあるし、ガスコンロもあるしいいな」

「お湯沸かせるのか?よし、今度は一平ちゃん持って来よう」

「ショウ君、よく食うよな。でもそこはペヤングだろう」

「ハハハ最近はないけど、以前はここで葬式やったりしてたからさ。うちの親父の葬式のときも式場にここ借りた。だからね、二階の和室に泊まれるように風呂や布団もあるよ。もちろんエアコンも完備だし」

「まじですか!なに、その居住性!家出するのに最適だな」

「いい年して家出する予定でもあるのかよ」

「ハハハ、コンロや冷蔵庫は今でも夏祭りや餅つき大会で使っているしね」

「ともかくこれから役員会の後はここで反省会だな。カラオケないけど」

「そりゃ反省会じゃないだろ、ただの飲み会だろうがショウ君」

「ハハハ、カラオケあるよ」

「エッ、えー!なんでだよ?」

「さわやかクラブのカラオケ愛好会の備品。去年最新式のに変えたらしい」

「…すげぇな、さわやかクラブ」


「今日はショウ君大変だったな。町会費どれくらい集まったんだ?」

「おお、ほとんどが全期分六千円納入してるから二百九十万てとこか。全額納入してない世帯も全部が半年分納入してくれたから、あとは十一月に残額回収するだけだ。楽でいい。助かったぜ」

「そうだねぇ、この町会は飛び抜けた金持ちはいないけど、貧困世帯もないみたいだからねぇ。どのお宅も普通に町会費払ってくれるから、その点は助かるよね」

「そうでもないところがあるのか?」

「うん、こないだ町会長の集まりが市役所であってさ、話によると町会によっては『町会費が高すぎる、安くしろ』とか『払えないから脱会させてくれ』って集金の時にごねる家もあるらしいよ。それもけっこう金持ちの家だったりするそうだ。居留守つかう家もあるんだってさ」

「そりゃ大変だな」

「でもなぁ、確かに家庭によっては年間六千円の負担は大きいとこもあるだろうな」

「そうだねぇ、これからうちの町会もそういう世帯は増えていくだろうね。いろんな事情を抱えた人たちがどんどん入ってくるからねぇ。年金収入だけの世帯も増えたし…」

「そういえば集金してたとき思ったんだけどよ、うちのブロックにメゾン菱町ってアパートあるだろ?あそこの住人は町会員じゃないんだろ?」

「ああ、そうだね。うちの町会内にある集合住宅の住人は全部が非町会員だ。だから各集合住宅にはそれぞれ専用のゴミ集積所があるだろ」

「非町会員という呼び方はどうかと思うが、なるほど言われてみればそうだな。町会に入っていない人は、町会のゴミ集積所使えないのか?」

「基本的に町会内のゴミ集積所は、町会あるいは町会員が提供する土地内にあってね、ゲージも町会費で購入したし、その管理は町会の環境福祉部が行っている。そして毎回のゴミ当番も町会員が輪番でやってんだろ?非町会員は使えない」

「じゃあ町会に入っていない人はゴミ捨て出来ないじゃんか」

「だからね、ショウちゃん。集合住宅建てる土建屋は、あらかじめ敷地内に自前のゴミ集積所を造って市役所に手続しておくんだよ。実際さ、町会入ってなくて困ることって、ゴミ捨て出来なくなるってことくらいだろ、ハハハハ」

「ハハハハって、ハカセよ、一応お前町会長なんだからそういうこと笑って言うのはどうかと思うぞ」

「そりゃマサちゃんとショウちゃんしかいないから言ってるんだよ、ハハハ。現実的に近所づきあいとかしてなければさ、ゴミ捨ての問題さえクリア出来れば誰がこんなめんどくさい町会活動好き好んでやるかよ」

「おおマサよ、こいつもう酔ったのか?なんか溜まってんのか?いろいろと」

「…俺もちょっと引くわ。腹黒いことは知ってたけど」

「ハハハ大丈夫だよ。でもさ、市の広報誌も新聞と一緒に配達されるから回覧なんていらないし、防災防犯も結局は個人の問題だろ?犯罪被害にあったって、町会が責任取る訳じゃないしね。僕個人の考えだけど災害時の助け合いだって、あの東日本大震災のときに町内会が何の役にたったんだい?」

「おいおい、それはお前個人の考えだよな。一般論じゃないからな」

「ハハハもちろんだよ。でもね、最近転入してくる人たちは大体がこんな感じだと思うよ。それが証拠に、町内の集合住宅に住んでいる人からうちの町会に入りたいって言ってきた人は今まで一人もいない。ゴミさえ捨てることが出来れば町会のメリットなんてない、それどころかデメリットばかりだって思ってるのさ。そんなもんだよ、ハハハハ」

「どうしたハカセ、何食った?でも確かにデメリットの方が大きいよな。会費は高い。役員めんどくさい。苦情申告は持ち込まれる。そのうえうちの町会は無報酬。あれっ?メリット何かあるかな、ないな?」

「そうだろ?集合住宅の住人以外でもそう思う人はいる。実際、そう言って退会した人が何世帯かあるからね」

「あれ、そういう人はゴミ捨てどうしてんのかな?」

「自分で市のクリーンセンターに持ち込んでるらしいけど、こっそり町会のゴミ集積所に捨ててる鉄面皮もいる。近所づきあいもあるから、みんな見て見ぬふりしてるけどね、ハハハ」

「鉄面皮って、なにげにひどいな。それでショウ君が『うちの町会は無報酬』って言ってたけど、報酬出してる町会あるのか?」

「前住んでたマンションの自治会長、年間一万円もらってた」

「このあたりの町会はうちと同じ無報酬だけど、土地によっては町会費の中から報酬出てるらしいよ。九州の方じゃ年間十万円とか十五万とかもらってる町会長がいるそうだ。すごいよねぇ」

「まじですか?マサ、十五万だとよ」

「…すごいな。でも個人差はあるけど役職によっては十五万、…うん有りだな」

「うん、僕もそう思うよ。ブライベートをあれだけ犠牲にしているんだからね。僕はいらないけど」

「あたりまえだ。お前のように自分ちの商売販路拡充のために町会長やってる奴は報酬なしだ」

「いや町会費三倍払えよ」

「ハハハ、ひどいなショウちゃん」


「しかしショウ君、さすがに金数えるの早かったな。墨田じゃないが、やはり金勘定は得意なのか?」

「ゆうちょ銀行社員だからな、それが仕事だしな。だからこうやって三百万持ってても、全然びびらない」

「そんなものなのか?俺なんか現金十万持ってても落ち着かなくなるけどな。目の前の馬鹿が三百万の現金持って酒飲んでるのも気味が悪い」

「毎日一億二億の現金、出し入れしてるからな。マヒしてんだろな、人の金だし」

「ハハハそうだね。自分のお金じゃないもんね。でも、くれぐれも無くさないでね」

「大丈夫。だからこうやって肌身離さず持って飲んでいる。それよりハカセ、町会長の活動費の仮払いは十万円で足りるのか?」

「今のところそれで十分だよ。他の部はいくら要求してきた?」

「各部長がオール十万、総務のふるさと会館館長が五万、伊藤と小松崎の副会長がそれぞれ十万だ。明日この町会費の中から払ってやる。ありがたく受け取りなさい」

「えっらそうに。こんなのが金握ってていいのかよ。でも伊藤と小松崎もそんなに金必要なのか?」

「ハハハあの人たちは僕に何かあったら代行してもらうし、何か町会の緊急時にすぐ使えるお金はあった方がいいからね」

「そんなものなのかねぇ。けどよ、正直三役っていってもあいつら暇そうだよな、ハカセが死なない限りはな」

「次回うちに役員回ってきたら、俺は絶対副会長になる!」

「…俺もだ」

「ハハハハ僕もそうしようかな」

「嘘つけ。どうせお前は新しい販路拡大のため、また町会長やるに決まっている」

「ハハハハ」

「否定しないよこいつ」


「ハカセは自営業だし俺は土日ほとんど休みだからいいけどさ、マサお前は不規則勤務なんだろ?大変なんじゃないのか?」

「…あー、なんだ、あのときは墨田の手前忙しい忙しいって言ってたけどなぁ。忙しいのは確かに忙しいんだが、うちの老人ホームの職員勤務指定表作ってんの俺だからさ」

「お前の都合のいい勤務指定を捏造出来るわけだ。思い通りに」

「捏造とはなんだ。ショウ君、日本語の使い方が間違っているぞ」

「ハハハハ。でも噂に聞くけど、介護の仕事って大変なんだろう?」

「そりゃそうさ。うちのホームは有料ホームだからまだ楽だけどな。でも、最近は現場の介護の仕事よりケアマネっていってな、資格取ってからは入居者のご家族との相談・調整とかな、職員の管理業務とかの仕事の方が多くてな」

「忙しいのか?」

「ぶっちゃけ、それほどでもない」

「なんだと。こないだお前墨田と」

「だからあの時は相手が墨田だからさぁ、売り言葉に買い言葉だって」

「分からなくはないけど、なんかスッキリせんなぁ」

「悪かったって。でもなケアマネの資格取るまでは本当に大変だった。当時の状況だったら町会総務の仕事など絶対無理だな。あのとき墨田殴って退会してた」

「ふーん、介護の仕事ってそんなに大変か?」

「ああ、有料老人ホームでさえ大変なのに、特養って言って特別養護老人ホームなんて勤めていたらもっとひどい」

「そんなにか?」

「そんなにだ。給料も安いぞ、超安い。だから俺はいまだに独り身なのだ」

こいつの場合、独身なのはそれだけが原因ではあるまいと思ったが、まだそれ以上は聞きづらかった。まだこいつらに対していささか遠慮があるようだ。俺は大人だからな。


「独身といえばさ、顧問の浅井先生の情報はないのか?ハカセよ」

「少しはあるけど、業務上知りえた個人情報だからなぁ」

「ここだけの話にするから。約束するから」

「ショウちゃん熱心だねぇ。いやだなぁ、不倫とか犯罪の片棒担ぐのは」

「失礼な!俺だって自分の年ぐらいわきまえてるわ!少しくらい町会活動に潤いが欲しいではないか」

「隣に堀北総務部長いるじゃないか」

「マサよ、何を言っているのだ。あれは年齢的にも俺たちの娘みたいなもんだ。いや、娘より年下かもしれん。それに、あいつあれでも人妻だぞ、ちょっと馬鹿っぽいし。それこそ不倫だ、ありえん。対象外だ」

「ハハハ馬鹿っぽいって。まあいいか、ここだけの話だぞ」

「おう、任せておけ。マサも分かってるよな?」

「…はいはい」

「十一班の浅井さんちの一人娘だ。家族構成はご両親と小学生の娘さんとの四人暮らし。

お父さんは確か四菱OBだったな。結婚して一時はご両親だけのお宅だったけど、三年くらい前に出戻ってきた。そのとき配達のお米のご注文が、ササニシキの五分づきからコシヒカリの七分づきに変わった。やはり子供には五分づきはダメみたいだね」

「そんな情報はいらんわ。それに出戻りとは失礼だ」

「ハハハ、浅井さんは理学療法士の学校行ってたそうでね、今は流川中央病院のリハビリ科にお勤めだ」

「おお、先生だ、浅井せんせえー。白衣かな?そこんとこどうよ?え?」

「気持ち悪いな、こいつは。でも流川中央のリハビリ科か」

「なに?マサお前、リハビリかようのか?俺も行こうかな」

「何言ってるんだよ。うちの老人ホームもな、流川中央病院が経営してるんだよ。入居者も何人かかよってる」

「ほうほう、マサよ。独身者同士だから不倫ではないぞ。この出会いを大切にしてだな」

「また酔ったのかよ。あのなぁ、俺たちといくつ離れていると思ってんだよ。さっき自分で言ってただろうに」

「ハハハハ、マサちゃん背も高いし見た目も若いから意外といけるかもね。愛があれば年の差なんて、とかいうじゃないか」

「昭和のセリフだぞ、そんなもん。それより顧問というのは毎年決まっているのか?」

「うははは、こいつ無理やり話題を変えやがった」

「町会顧問かい?そうだよ。いきなり新しい人たちだけで町会運営するのは大変だろ?だから毎年、町会長と総務広報部長はアドバイザーとして次の年の顧問になるんだ」

「するとハカセと堀北部長は来年の顧問か?」

「うははは、ハカセご苦労なこって」

「何言ってんだよ、ショウちゃんは来年、会計監事だろうが」

「……何それ?」

「あれ、前の会計さんと引継ぎなかったの?そのとき話があったと思うけど、中間決算と最終決算時に会計がまとめた決算報告書を全部監査して、監査報告しなくちゃいけないんだよ。監事は前年度の会計がやるの。聞いてないの?」

「…言われてみれば、そんなこと言っていたような……」

「こいつは昔から人の話を半分も聞いてないからな。ショウ君、ご苦労なことだな、ふふふふ」

「…なんてこった。来年もか」

「ハハハ、でも決算時だけだからさ。あと総会のときもか。でも僕たち顧問ほど忙しいわけじゃないからさ。僕も手伝うから」

「いつもすみません。お世話になります」


 それからしばらく馬鹿話をして、じゃあ帰るかとなった時だった。

「そうだ、二人とも明日の日曜の午後は時間あるかい?」

「銀行は午前中に済ますから、午後ならいいけど。マサは?」

「俺も明日は非番だ。何か用か?」

「ハハハ、たいしたことじゃない。この会館のワックスがけ手伝ってよ、午後一時から」

「おい、十分たいしたことじゃないか。なんでだよ?」

「ほらこのフローリング、けっこう汚れちゃってるだろ?老人会の社交ダンスサークルが靴履いて踊るから定期的にワックスがけやってんだよ」

「いや、だからなんで俺たちがやるんだよ?床汚してるそのダンスサークルがやるんじゃないのか?」

「いつもはサークルの爺婆がやってんだけど、明日は爺どもが野球部のゴルフコンペで婆だけになるんだって。男手ないと大変らしい」

「ダンスサークルが野球部のゴルフコンペ?」

「メンバーの内、男はほとんど四菱OB野球部員なんだってさ。それで墨田さんから『レディースだけじゃ無理だから手伝ってやってくれ』って頼まれてさ、男が僕一人じゃきつそうだからさ、ハハハ」

「ハハハじゃねぇよ!なんでそんな頼みきいてんだよ、お前は!」

「ハハハ、レディースも来るし、けっこう楽しいかもよ」

「老人会のレディースって、婆じゃねぇか!何の罰ゲームだよ…。墨田は?副会長の伊藤と小松崎は?」

「墨田さんはそのゴルフコンペ。副会長たちは忙しいから来れないってさ」

「くそ!あの役立たずども!墨田の野郎、本当に腹立つわ」

「あっ、俺、銀行に行ったあと病院行くことになってたような」

「ずるいぞショウ君。明日は日曜だ、病院やってないだろう」

「…くそ、墨田め」

「ハハハ、ショウちゃん、明日は浅井さんと堀北さんも手伝いに来てくれるからさ。頼むよ」

「うーん、レディースの婆と浅井・堀北ペアか。プラスマイナス・ゼロって感じかな?どうだマサ?」

「知るかよ」


 翌日は、レディースどもは人使いが荒いし、堀北の連れてきたガキがワックス入ったバケツをひっくり返すし……。さんざんだった。




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