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(02)白に浮遊した後、落花したのは闇世界



鴉城壬槻は規則正しく九時に目を覚ますと、朝のシャワーを浴びた。

女に買わせたマンション、女に買わせた服とアクセサリー、女に買わせたエトセトラ…

自分で買ったものなどひとつもないマンションで身支度を整えると、何ひとつ自分のものではない服に身を包んで香水をひとふり。

そんな生活をするようになったのは十七歳の時だった。

鴉城は自分の容姿を気に入ったクラブのママの愛人になった。

三十を超えた女性というのは母のように包容力があると思ったのはその頃の話である。

自分の生まれた年に死んだ母のことを彼女で夢想した。

彼女は鴉城の欲しがるものはなんでも買ってくれた。ゲーム、食べ物、服、レアアイテムまで何でも。

いつしか彼の職業は、自分の美しい容姿を使って女をたらしこみ、そして金を奪い取るという魔性の職業となっていた。


「お前みたいな男はいずれ誰かに殺されるんじゃないのか?」

幼馴染の琴春は鴉城に必ずこう言う。

「人の心をもてあそぶもんじゃあない」

そう琴春は言う。別にもてあそんでいるわけではない。

自分と恋をしたいと言った女など、誰一人いないのだ。鴉城を相手している女たちはみんな浮気をするために彼と付き合っている。

「俺が恋をしたらやめるよ」

「恋ねえ…」

鴉城の言葉に琴春は曖昧な返事をした。

「どんなのが好みなの?」

「金持ってる女」

「お前が愛してるのは金か」

呆れたように琴春は呟いた。鴉城には琴春が自分の気持ちを理解してくれるはずがないことがわかっていた。

どんなに献身的に尽くしても、女たちは最後自分の愛する男や夫の元に帰っていくのである。鴉城の手元に残るのは女たちの残り香と、金だけである。

愛が手に入らないならば金を手に入れよう。

そう思ったのは最初に自分を愛してくれたママが死んだときのことだった。

「愛人生活って楽しい?」

「楽しいよ。お前と話せるし」

「そうか」

琴春はきっと自分のことを止めない。

止めてくれるほどやさしくないし、拒絶するほど厳しくもない。

自分の世界はもう闇の中にどっぷりと遣っており、そこから救い出してくれる誰かを探しもせず、ただ黒い海の中にたゆたっているのである。

「恋したいなあ」

恋に恋する少女のように鴉城は呟いた。


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