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掌編小説集7 (301話~350話)

1LDKC

作者: 蹴沢缶九郎

一人身の男が新しい部屋を探しに不動産屋へやって来た。男を迎え入れた担当者は、男の希望する物件の条件を聞き、一件の物件を紹介した。


「お客様の希望を満たす物件となりますと…、こちらの部屋などはいかがでしょう? 最近入ってきたばかりの優良物件です。駅から徒歩三分、近くにスーパーがあり、家賃は六万円と相場よりお安く、なにより新築アパートの1LDKCです」


「新築か…、良いね」


男は満更でもない様子で部屋の間取り図を見ていたが、そこでふと気になった疑問を担当者に聞いた。


「1LDKはわかるのだが、この『C』というのは何だい?」


「やはり気になりますか…。お教えしてもよろしいのですが、敢えて知らずに過ごす、そんな暮らしも一興と思います。あれは一体何なのか? と考える事に意味があり、そこに絶えず微妙な緊張感が生まれ、生活に張りが出るというものです。まあ、お客様がどうしてもと仰るのであればお教え致しますが…」


担当者の含みを持たせた言葉が引っ掛かりはしたが、新築で家賃も安く、自身の条件は満たしているのだ。変な事故物件を紹介されるよりはよっぽど良い。それに、不思議と担当者の言う事も一理あるような気がした。


「…よし、わかった」


男はその部屋に決めた。手続きや引っ越しを数日の内に済ませ、男の新たな部屋での新たな生活はスタートした。暮らす始めこそ『C』の存在が気になりはしたが、住んでみるとなんて事はない普通の部屋なのだ。


「答えを知らずに微妙な緊張感の中で過ごす暮らし」


あの担当者、上手い事を言ったものだ。ひょっとすると、『C』は不動産屋だかオーナーの遊び心という事もありえる。それならばそれでいいし、いざとなれば答えを不動産屋に聞けばいいのだ。


日々は過ぎていく…。忙しい暮らしの中で、男はいつしか『C』の存在を忘れていった。


ある日、仕事から帰った男の胸を急激な痛みが襲った。男は苦しみに胸を抑え、電話で助けを求めようとしたが、叶わずその場に倒れ動かなくなった。


男の生体反応が消えた事を感知した部屋は、住人に目立たぬようひっそりと備え付けられた長方形の箱を出現させ、そこに男の遺体を自動で収容した。


1LDKCの『C』は『COFFIN』、棺桶だったのだ。

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