屑拾い
「エミリア、明日もこれ位の時間に店仕舞いするのかな?」 と僕は尋ねた。
「はい。毎日暗くなったらお店を閉めますね。」
それを聞き、僕は火傷の薬か何かを彼女にプレゼントしようと決めた。
それは下心からの思いではなく、今思えば哀れみに近い気持ちだったんだと思う。
「明日の夜、お店を閉めた後で少し話せないかな?」と、聞くと。
「夜遅くになりますけど、ユウトさんは大丈夫ですか?」
僕は彼女に「大丈夫だよ。」と答え、約束を取り付けた。
「また明日。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
少し歩き出してから振り向くと、いつまでも見送って居るエミリアの姿があった。
小さくて、華奢な彼女の姿はまるで人形みたいに見えていた。
幼い頃から折檻される事に慣れてしまったのだろう。
エミリアの顔立ちが美しいから、尚更不幸な生い立ちに心が痛んだ。
背中まで届く、一つに編んだブロンドの髪。 軽くカールした眉上バングの前髪。そして深い青色の瞳。
僕は頭にヘッドライトを着けて石畳の所々に捨てられた金属片を拾いながら、彼女の事を考えていた。
「なあ、兄さん。 そんな使い終わった魔魂拾ってどうするんだ。」
エミリアの事を考えながら屑拾いをしていて、声を掛けられるまで男の存在に気付かなかった。
男は今酒場を出てきたのだろうか、酒の匂いを漂わせていた。
背丈は170センチ位だろうか背中に長剣を担ぎ、着込まれた襟無しの黒いシャツを着た男は、興味深そうに僕を見ていた。
「その眩しいのは何かの魔法か?」 僕のヘッドライトの光を顔に浴び、まぶしそうにしながらそう聞いて来た。
「ああ、これはライトと言うもので。まぁ、魔法みたいなもんかな、、」 詳しく説明するのも面倒だったので、そう答えていた。
「そうか、そんな明るいのは始めてみたよ。 それは魔魂で光ってるのか? しかし明るいな。」
どう答えたら良いのか一瞬迷ったが、まあ意味は違わないので、
「このライトは、使い終わった魔魂の屑を集めてね、手に入れたモノなんだ。」
この世界ではゴミでも、拾って換金して、そしてスポーツ用品店で買ったのたから、嘘では無かろう。
「ほう。 屑玉を幾つ拾っておけばライトになるんだ?」
「そうですね、、金銀問わずに、100個かなぁ。」 酔っぱらい相手なのだから、適当に言ってやり過ごそうと、僕は思い付いた数字を言っていた。
「分かった。 それでそのライトとやらはどれ位光っててくれるんだい?」 と、ますます興味を持ったらしく、詳しく聞いていた。
「えーと、確かこれはLEDの1灯で、光らせたままなら5日位かな、、」
「嘘付け。 銀魂でランプ灯ともしても2晩だぞ。屑魂100個でそんなに明るいのが5日も点いてるなんて、見た事も聞いた事もないぞ。」
男は何やら思案していると、不意に真顔になって僕の肩を掴むと、明日屑玉を集めておくから、ライトに替えてくれと言った。
「良いですが、屑玉を100個でライト一つが条件ですよ。」
「良し!約束だ! 俺の名はバンデラスだ。 お前名はなんと言うんだ。」 興奮した様子で僕に名前を聞いてきた。
男は酒に酔ってるし、背中には物騒な剣を担いでる。 牽制の意味で少し箔を付けた名前を言おうと決めた。
「僕の名はユウト。未来魔法を使う。」
「未来魔法のユウトだな。 よし、明日の今頃にここで待ち合わせで良いな?」
男は勝手に決めて、僕の手を握り汗ばんだ掌で強く握手した。そして上機嫌な様子で去って行った。
男が酔いから醒めても覚えていたなら、屑玉を持って現れるだろう。
一応明日、アルペンか量販店で幾つか仕入れて持って来ようと決めた。 まあカーゴパンツのポケットは大きいから、4つや5つのライトは入るだろう。
僕はまた地面を照らしながら、金やプラチナのゴミ拾いに専念した。
時間を見ると、いつの間にか夜9時を回っていた。 タイマーの残り時間を見ようとディスプレイの表示を切り替えた。
『08:48:23』の表示。 道端に捨てられた屑玉だけでカーゴパンツの太もものポケットは満タンになってしまった。
まだ商店街の通りを一つ拾って回っただけだった。
水もカロリーメイトもディバックの中だったから、喉が渇いたが何も手元には無い。
仕方なく街の中を流れる川の水を飲もうと、石積みの護岸を降りて水を掬おうとした。
ライトに照らされた川底には、長年に渡り捨てられた金や銀の魔魂が、そこらじゅうに沈み、積み重なり、キラキラと輝いていた。
ここでは屑拾いでしか無いが、現実の世界で僕は、大金持ちになった事を知った。