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ハーフライフ  作者: スノウ
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399人の子供達


つい15分前に病棟に入る前は、それほどでも無かったロビーで待つ人達の数が。


僕達が病棟から出てくると、ロビーは車椅子の子や、松葉杖で歩く子に付き添う親達で溢れ返って居た。


子供の数だけで100人は下らないだろう。親を入れたら200人を越えて居た。


「先生、いつもこんなに混むんですか?」 と、僕は池谷医師に尋ねてみた。


「すみません。多分、白鳥さんの事が伝わったらしくて、、」 と、彼は申し訳なさそうに僕に言った。


さっき池谷医師は千景ちかげちゃんを診察しながら、何事かをPHSで話していたのはこの事だったらしかった。


「私も立場上院内での医療行為は見過ごせませんが。 先程の千景ちゃんを見たら、談話室で白鳥さんが患者さんと話すのを止めるつもりはありません。」 彼は何か覚悟を決めた表情でそう言った。


「ここに入院し、そして通う子供達の多くは難病の子ばかりです。」 ロビーの子供達を見回しながら、彼は言った。


「製薬会社は、1万人に1人の病気の為には、新薬の開発はしません。それはマーケットが小さすぎて、赤字になるからです。」


池谷医師は、悔しそうな顔をして呟いた。


「ここには、1万人に1人、5万人に1人と言った難病の子達が集まって居ます。」 そう言うと彼は僕の手を掴み、強く握った。


「奇跡でも良い。僕達小児科医が失業するのなら、それこそ医者冥利に尽きると僕は思います。」 


僕は黙ってうなずいた。


みのりはロビーの車椅子に乗った子供達と、もう仲良さそうに話していた。


「じゃ、行くね。」 と子供達に言うと


「ほら。」 と言いながら10メートルはありそうなロビーの高い天井に浮かび。


ヘリウムを詰めた風船だろうか、天井に浮かんでいた赤い風船の紐を掴み、ゆっくりと降りて来た。


子供達は手を叩き、ある子は足をバタバタさせて喜んでいた。


「みのり。」 と僕が言うと。


「分かってる。私、この子達を救いたい。」 すっくと立ち上がると、目を輝かせてそう言った。


僕は池谷医師が呼び寄せたスタッフ達と相談し、一番広い談話室を用意してもらった。


入院中の患者で動かせない子達は、スタッフが親を呼び寄せたり了解を取り付ける為に奮闘ふんとうしていた。


入院中の子供達が113人。今来ている子供達を含め、外来患者286人。


僕はみのりと二人、フィットに持ち珠を数えに向かった。





自衛隊や警察を動かし、国益なのか利権なのかをむさぼる敵との戦いに備える為に持って来た『魔魂』だった。


今戦わなくちゃならないのは、399人の子供達をおかやまいだった。


2人で車の中で魔魂を数えた。 何度数えても『金魂』が363個、『特級珠』が87個だった。


まだ一度も使った事の無い『特級珠』だったから、どうするか決めかねて居た。


「昨日カイルが倒した魔獣の珠、全部持って来れば良かったよ。」と僕は後悔してそう言った。


「私ね、感だけど多分大丈夫だと思うんだ。」と、意外に気楽に言うみのりが居た。


みのりが怪我や病気を治すコツは、「その子の走ったり、笑ったりしてる元気な姿を想像して『魔魂』を潰せば、良い感じだと思うよ。」と僕にアドバイスした。  良いのか、そんな簡単で。


僕達はロビーに戻り、池谷医師の案内で談話室に向かった。


廊下には長蛇の列が出来、僕たちが向かう間にも連絡を受け到着した子供たちが、後尾に並びつつあった。


談話室の中に入ると、真ん中をカーテンで仕切り、間に合わせの診察室が二つ出来ていた。


つまり、どうあっても僕も治療しなければならない訳だった。


『魔魂』の存在を知られたり、奪われたりしたら、どんな形で悪用されるか分からないので。


みのりとは車の中で、珠をポケットの中で潰し、看護師や医師に見られないようにしようと、打ち合わせしてあった。


一人目の子供が親の押す車椅子で入って来た。


僕達の戦いは、今始まっていた。





「斉藤貴也君です。」と、看護師が教えてくれた。


僕はぐったり力なく首を傾げたこの子が、走り、笑い、元気に飛び回る姿を想像しながら『金魂』を潰した。


まるで手品を見ている様に、首を持ち上げて僕に微笑みながら「ありがとう。」と言った。 車椅子から降りようとする彼を、母親と看護師が必死に止める姿は何かの冗談の様にさえ見えた。


そして小児ガン、小児白血病、糖尿病と、次々と子供達は来た。


車椅子で来て、歩いて出て行く子が何人も居た。 その度に廊下で驚きと泣く声が聞こえ、僕は難病の子を抱える親達の苦しみを、少しだけ垣間見た気がした。


そしてその子がやって来た。


「下里奈美ちゃんです。」 看護師の声が一瞬耳に届かない程、僕はショックを受けていた。


その子は、先天的な両腕欠損の少女だった。


美しい少女だった。 「何歳かな?」と聞くと、「16歳です。」と前髪を眉下でそろえたミディアムロングの黒髪の彼女は、天使の様な笑顔で笑った。


僕は何でだろう、この魔法を看護師にも母親にも、見せてはならない様な気がした。


「皆さん、少し席を外して貰えますか。」と、僕は言い、少女と二人だけになった。


僕は彼女自身にもそれを見せてはいけない様な気がして、用意してくれていたが着なかった白衣を、彼女の肩にそっと掛けた。


目を閉じて、祈った。 彼女が笑い、飼う犬を抱き、両親と抱擁ほうようする姿を想像しながら『金魂』を潰した。


何も起こらなかったらと思うと、怖くて目を開けられなかった。 彼女のがっかりした顔を見たくなかった。


そっと僕は抱きしめられて居た。 目を開けるとまだか細くはあったが、彼女の腕が僕を抱きしめていた。


「ありがとう。 ユウトさん。」彼女はそう言うと、僕の唇にキスをした。


「私のファーストキスなの知ってました?」と言いながら、また僕にキスをした。


カーテンが開き、入って来た母親は抱き付いて来た娘にただ茫然とされるがままに抱擁された。


廊下に出て暫くしてからだった、深い喜びの嗚咽が聞こえて来たのは。


次々と入って来る子供達に、奇跡を施せた喜びは、言葉にしようも無かった。


生まれついての視力障害の子が光を取り戻し、「あなたは、だれ?」と僕の顔を見た時の驚きを。


脳性麻痺の子が、「お、か、あ、さ、ん、」と言葉を発し、母親を求めて手を差し出す姿を。


僕は一生忘れられないだろう。 この奇跡の光景を。




「おにいちゃん、ちょっと良い?」と、カーテン越しにみのりが言ってきた。


『金魂』が切れたのだなと、すぐに分かった。 僕も珠切れだったから。


「特級珠の力が分からないから、怖くて使えないよ、、」僕は正直にみのりに言った。


「まだ廊下に11人と、病室に22人居るんだって。」とみのりは悔しそうに言った。


「ねえ、一人の子に使ってだと強すぎても、何人かに一度に使ったら大丈夫かも。」


みのりはまるで博打ばくちの様な恐ろしい事を言い出した。


「特級珠、一つ頂戴。」と僕に掌を差し出した。


僕には怖くて出来そうも無いが、廊下の子達がこのまま帰る姿だけは見たく無かった。


みのりは看護師に言って、廊下の11人の子達を自分のブースに一度に入れた。


みのりはまた祈る様な姿勢で珠を潰した。 まるで奇跡の様な光景が現れた。車椅子の子供たちは立ち上がり。知的障害の子は「ここどこなの?」と言葉を発した。


それはまるで、神の所業しょぎょうを見ているかの様な光景だった。


僕達はその時気付かなかった。


一人の母親が、テレビ局に勤める弟に頼まれて、ハンディカムを持ち込んでいた事に。




ロビーでは子供達と親たちが、一人も帰らずに僕達の出てくるのを待って居た。


そして病院の外では取材陣が、群れを成して待って居た。


「みんな、これからいっぱい幸せになるのよ。」とみのりが大きな声で子供達に言った。


僕はみのりの肩を抱き、子供たちの歓声を聞きながら病院を後にした。


振り返ると、取り囲む取材陣の隙間から、池谷医師が深く頭を下げ僕達を見送る姿が見えた。


車に戻りフィットの高度を上げはじめると、みのりが不機嫌そうな声で聞いて来た。


「おにいちゃん、あの可愛い子とキスして無かった?」と。


僕は笑いながら「あの子のファーストキスだって。」と上機嫌で答えていた。


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