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ハーフライフ  作者: スノウ
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エルフの傷跡

 

店を出て、スポーツ用品店でmont-bellのテントとウレタンシート、ついでに頭に着けるヘッドライトを買った。


帰り道にみのりは、いつもの様に僕の腕にぶら下がりながらも、いつになく真面目な顔で歩いていた。


「どうした?みのりちゃんはお腹空いたのかな?」 時刻はとっくに昼を過ぎていたので、僕は冗談混じりに聞いてみた。


みのりは僕の腕を掴んだまま不意に立ち止まり、僕は買った荷物を落としそうになった。


「どうしたんだよ、急に。 さっきから不機嫌そうな顔してさ、、」 僕は不平混じりに呟いたす。


振り向いた僕は、涙を浮かべて僕を見ている妹の顔に気が付いた。 溢れそうになる涙をこらえ、無言で僕の顔を見つめていた。


「何か傷付ける様な事、言ったかな? ごめんな。」


「違うの。 買い物してる時ね、何だかおにいちゃんが向こうに行くのを楽しみにしてる様に感じて、だからかな。」


僕はみのりの肩を抱いて、「楽しみなはず無いだろ。みのりの居ない世界なんてさ。」と、半分本気で答えていた。




部屋で転移に備え、荷物を整理していた。 テントには収納袋に肩掛け用のベルトが付いていたから、そのままで良かった。


学生の頃使っていたburtonのディバックにカロリーメイトと水のボトル、ウレタンシートを入れた。


服装もジーンズにTシャツでは浮いてしまうので、ダンガリーシャツとカーゴパンツを着て、靴は昔履いていたワークブーツを用意した。


カウントダウンは『00:42:17』を表示していた。残り40分そこそこでまた転移するはずだ。


「おにいちゃん、まだ5時だけどご飯食べておいたほうが良いでしょ?」 と、妹がおにぎりを作って来てくれた。 


「ヤバイヤバイ、また朝までお腹空かせて過ごすとこだったよ。」


淹れてきてくれたお茶を飲みながら、おにぎりを食べ始めた。鮭とマヨネーズの具のおにぎりはまだ温かく、本当に美味しかった。


「おかずも何か作って来たら良かったね、おにぎりだけでごめんね。」 


僕の食べる姿を見ていたみのりが、申し訳なさそうな声でそう言った。


まるで戦地に送り出す家族みたいな、そんな声だった。


「みのりと一緒に食べたら、なんでもご馳走だよ。」 と、


僕は少しでも明るい雰囲気にしようと微笑みながらそう言った。。


「おにいちゃん、好きだよ。」


照れて言うでも無く、微笑むでも無く、みのりは真顔でそう呟いた。


まるで真剣に告白するかの様なみのりの言い方に、僕はドキッとした。


「僕もみのりが大好きだよ。」 と、微笑みながら答えて、僕は妙な雰囲気を変えようとしていた。


みのりは急に立ち上がると、ようやく微笑んで僕に言った。


「私は、本当に好きなの。」


そう言うとおにぎりを食べていた僕にキスをした。


みのりは舌の先に乗せたご飯粒を僕に見せながら、「ごちそうさま。」と言うと、笑いを浮かべて部屋を出て行った。


「なんなんだ、あいつ、、」


僕は妹にキスされて、ドキドキしている自分を必死に誤魔化そうと、そう呟いていた。







 

スマホのタイマーは『00:03:17』を表示していた。 


もしもまた異世界に飛ばされるなら、あと3分ほどで僕は消えるはずだった。


2階にある自分の部屋から転移して、異世界で空中に放り出されたら堪らないので、庭で時間が来るのを待っていた。


「おにいちゃん、そろそろ撮影始めるね。」 と、みのりは三脚にセットしたデジタルビデオを回し始めた。


異世界転移の瞬間を撮影し、それがどんな風にそれが起きるのか記録して。


どこかの大学か研究施設に相談しようと、二人で話し合ったからだった。


「みのり、こっちを向いて。」


僕はもしも帰れなかった時、妹の姿を二度と見れなくなるのが怖くて、振り向いた彼女をスマホで撮影した。 そんな事を考えてるのを知れば妹は不安がるだろうから、僕は微笑みながら妹の写真を撮った。


5月に入り日も長くなっていたから、午後6時少し前とは言えまだ明るかった。


これで何も起こらなかったなら、端から見たら馬鹿げた行為に見えただろう。


でも午後6時、それはまた起きた。





多分瞬きをした瞬間に飛ばされたのだろう、まるでテレビのチャンネルを変えたかの様に、突然に人々の喧騒が聞こえてきた。


気が付くと、今日は『魔魂換金所』の真ん前に転移していた。


周囲を見回したら、昨日と同じように商店は店仕舞いを始めていた。 


時間軸にズレは無いようで、異世界と向こう側とはシンクロしているようだった。


自分が妙に身軽なのに気付き、ディバックもテントも持って来て居ない事に気付いた。 


どうやら身に付けて居ても、背負ったり肩に掛けたりしたモノは持って来られない様だった。



しかし何故だろう、僕は突然表れたはずなのに、誰も驚いている者が居ないのは。 


今日はこの街がどれ位の規模なのかの探索と、スマホがこの現象にどう作用しているかを調べるつもりだった。


そして活動資金の確保の為の、金とプラチナの屑拾くずひろいが目的だった。


まだ少し明るいので、ポケットに入れたライトは使わずに足元を物色した。  


今周囲を見るだけで、既に5つのプラチナの玉が落ちていた。 金の玉も2つ捨てられていた。


異世界まで来て、屑拾くずひろいをする冒険者など、どこのアニメやラノベにも出ては来ないだろうな。 などと独り苦笑いしながら捨てられた屑玉を拾った。


メイン通りを歩きながら、道端のあちらこちらに落ちた潰れた玉を拾いながら、僕は歩いていた。


人以外の種族はエルフ位で、老人の絵に描かれた様な、妖精の姿などは見当たらなかった。


「エミリア?」


店の扉を閉めようとしていた彼女を見かけ、思わず声を掛けていた。


「あ、こんばんは。」 


彼女は振り向き、声を掛けたのが僕だと知って笑顔で答えてくれた。


「まだ名前言って無かったね。 僕は優人ユウトと言うんだ。」


「ユウト? 」


彼女は不思議そうな顔をして、僕の名前を呟いた。


「ユウトさん。 あなたの名前は私達エルフの、神の名前と同じですね。」 微笑みながら彼女はそう言った。


暗くなり、篝火が焚かれ始めていた。 最初気付かなかったが、今見るとエミリアの右手の甲に二筋の火傷の痕が見てとれた。


「エミリア、これはどうしたの?」 と、彼女の手を取り尋ねると。


「これは昨日お皿割って、ご主人に怒られちゃって、火箸で叩かれたんです。」


一瞬僕は耳を疑った。 


水脹れが出来るような焼けた火箸で叩かれたと、笑いながら言うエミリアの言葉を。


よく見なければ分からなかったが、腕には他に幾つもの古傷が残っていた。


「これも、かな?」 僕が恐る恐る尋ねると、エミリアは。


「それは街に来てすぐの頃かな? 確かご主人の服を洗って干して、取り込むのが遅くなって、叱られて。」


僕は彼女の手の古傷を撫でながら、知らず知らずの内に呟いていた。


「いつか僕が助けてあげるよ。」 と。




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