母親の惜しむ命は
今度はお弁当作るから食べて欲しいと、ほのかは言った。
諏訪に着き、目立たない様に美ヶ原へと登るバイパスに降りて街へ下った。
「また逢ってくれますか?」 と、彼女は上目使いで僕に聞いてきた。
僕はまだこの突然の出逢いを、自分の中で理解出来ないで居た。
助手席に乗っているほのかが余りに少女過ぎて、本当についさっきキスをしたのか、分からなくなりそうだった。
日本で唯一、未だに淫行条令の無い長野県だとしても、16歳と言うには余りに幼いほのかを抱き締めた自分は、有罪だった。
「うん。」 僕は小さな声で呟いていた。
「私の事、忘れないで下さいね。」と言われて、諏訪湖畔の公園でお互いのスマホで写真を撮った。
別れ際、ほのかはつま先立ちで目をつむり、僕にキスを求めた。
頬やおでこにキスをして、さっきしたキスを誤魔化そうとする程僕は卑怯者になれなくて。 舌を絡めて長いキスをした。
「好きよ、ユウトさん。」 不意にそう言ったほのかに、大人の女を感じた。
「好きだよ、ほのか。」 僕は盛られてるのを知りながら、毒を飲んでしまう気分で呟いていた。
『少女』と言う、猛毒を。
転移すると、何が起きたのかまた街の群衆に囲まれていた。
「ユウト。」
振り向くと少し青ざめたエミリアがそこに居た。
「何が起きたの?」 と僕は尋ねた。
「また助けてくれんか、ユウトさん。」と、町長が僕に声を掛けてきた。
聞けば隣街から仕入れをした親子連れの業者が、帰り道に荷馬車を谷に落とし、女の子が見付からないと助けを求めて来たのだと言う。
丁度そこに帰ったバンデラス達が、父親と探しに出たのだと聞いた。
もうすぐ日が沈む。 魔獣達は強く活性化する。
「エミリア、場所は分かるの?」と、僕は聞いた。
「このお母さんが知ってます。」と、疲れやつれた姿の母親の手を引き連れ出した。
「お母さん。 その場所まで案内できますか?」と、僕は視線も虚ろな彼女の肩を掴み、揺すりながら声を掛けた。
「は、はい。」と彼女は我に返り僕に答えた。
「あなたの案内が必要だ。来てくれますね?」
僕は彼女の震える指先を見て、夜の森へ出る恐怖に彼女が怯えているのを知った。
娘が心配だろう。しかし人は弱い。命も惜しいだろう。
「行きます、どうか、娘を助けて下さい、、」 彼女は力強く僕に言った。
彼女が惜しんでる命は、娘の命だとしった。
「エミリア、来てくれるか?」 と僕が言うより早く、彼女はドアを開け、母親に乗るよう言っていた。
「ユウト、早く行かないと。」
エミリアは僕を見て、「大丈夫よ。」と言いたげに、優しく微笑んだ。




