テレビからの笑い声
3人の狙撃手を無力化する為、それぞれ一人づつが待機していた。
8人と聞いて居る実行部隊の無力化の為に、10名が予定の場所に待機して、バンの中の俺たち3人はモニターを見ながら、いざ必要になった時に出れるよう待機していた。
10時57分、予定より少し早く、防衛大臣の乗ったクラウンが青梅街道から左折して、自宅へと向かう途中の襲撃予定地に向かっていた。
SPは運転手と助手席の二人。 標的にされている三谷防衛大臣は後部座席に秘書と乗っていると分かっていた。
情報通りに横道に駐車していた三菱のパジェロが、タイミングを合わせてクラウンの助手席に衝突した。
事前に偵察し、確認済みの四人の襲撃犯は、一人は大ハンマーを持ち、残りの三人が拳銃を手に飛び出した。
運転席のSPがドアから飛び出して、小さな自動拳銃を構えて発砲した。
「パンッ」と言う甲高い音が住宅街に響いた。
襲撃者の一人が消音器を付けた拳銃でSPを撃ち倒した。
防弾では無い普通の乗用車だから、クラウンに発砲される前に我々のメンバーは行動していた。
待機場所から流れる様にでたメンバーは、四人の襲撃者に射出式スタンガンを撃ち、無力化した。
四人の手足を無造作に折り始めたメンバーをモニターで見ながら、 無線には狙撃手の制圧と、手足を骨折させての無力化の報告が届いた。
通りの先に待機していた残りの4人の襲撃者は、乗っていたランドクルーザーの窓を割られ、投げ入れられた催涙ガスとスタングレネードで制圧され、すでに引きずり出されて無力化されて居た。
手足を折られ被っていた覆面を取られてランクルに乗せられた四人も、防衛大臣の大破した車の傍に投げ出された。
Mr.Hosogaiの連絡を受けたのだろうテレビクルーが到着した。
衝突のショックで唖然としている三谷防衛大臣を撮りながら、レポーターがインタビューしていた。
地面に転がして覆面をはぎ取った八人の襲撃者の顔を、我々は強引にもう一班のテレビクルーのカメラに向けていた。
襲撃者の足元には、マガジンを抜いた銃や大ハンマー、それぞれの無線機、短刀などの凶器を並べ、我々は契約通りに撤収した。
手足を折り、猿ぐつわをして転がしたスナイパーの位置は、テレビクルーにMr.Hosogaiが連絡する手はずになっていた。
時間は午後11時9分。
メンバーはそれぞれの隠れ蓑としているグループに戻り、作戦は終了した。
携帯で電話をした。
「終わったよ、シュガー」 俺はそれだけ言うと切り、カードを抜いて電話を川に捨てた。
テレビのニュース番組で、三谷防衛大臣の襲撃の模様が生中継されていた。
望遠で撮られた全景で、四駆の自動車が防衛大臣の車に衝突するシーンから始まり、リアルタイムでSPが応戦し、撃たれる映像が。 四駆から降りた襲撃者達の背後から、突然現れた黒づくめの男たちが何かをして、襲撃者達が倒れる様子が放映されていた。
望遠で撮られ音は伝わらないが、 それだけに黒づくめの男たちが襲撃者達の手足を折っていくシーンは、無音だからこそリアルに伝わって来た。
カメラが切り替わり、車中で呆然としている三谷防衛大臣へのインタビューが始まる。 しかし何も言葉は無く、ただ目を閉じてシートに頭を預けるだけだった。
道路に転がされた襲撃者達を映し出した。 黒づくめの男たちはまるで捕虜の写真を撮る時のテロリストの様に、八人の顔を髪を掴み顎を押さえ、それぞれにテレビカメラに向けていた。
スタジオのアンカーマンは興奮し、後ろからスタッフのらしい怒号も聞こえて来た。
僕はそこまで見ると、打ち合わせしていた相手に電話を掛けた。
「あ、細貝先生、ご連絡お待ちしていました。」と、番組の総合プロデューサーはワンコールで電話に出た。
「上首尾だったようですね。 今テレビで見てますよ。 もし良かったら、今放送している犯人達の名前や所属をお話ししましょうか?」 と僕は言った。
しばらくプロデューサーは絶句して、言葉も無かったようだった。
「今スタジオにお繋ぎします。」と彼は興奮を抑えきれず、高い裏返った声でそう言った。
テレビを見ていると、アンカーマンにスタッフが何事か耳打ちしているのが見えた。
「この三谷防衛大臣の襲撃事件にですが、新しい情報が入りました。」
もうこの番組を10年も司会している、楠田と言うアンカーマンは、テレビに向かってそう切り出した。
「今、あの白鳥ユウトさんの顧問弁護士をされて居る、細貝弁護士と繋がっています。」
「もしもし。」 と言うテレビからの楠田の声と、右耳に当てた携帯電話からの声がステレオで聞こえてきた。
「こんばんは、弁護士をしている細貝です。」
やはり不思議なもので、テレビから聞こえる自分の声と言うのは、誰か他人の声のように感じた。
「細貝さん、襲撃者の情報をお持ちとか、教えていただけますか?」とテレビの向こうで彼が言った。
「それでは、左から順に襲撃者の名前と所属する機関に付いてお教えしますね。」
そう話し始めると、 画面の向こうの司会者の楠田の引き攣つる顔が、妙に可笑しくて、、声に出して笑い出してしまった。
「はははっ」 と、テレビの向こうから聞こえる自分の笑い声は、誰か他人の様だった。




