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ハーフライフ  作者: スノウ
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エルフの涙

 


まるで画面が切り替わったかの様に、次の瞬間には周りの景色が変わっていた。


周りを見回した僕はあの絵の中にとらわれてしまったのかと恐怖した。


何故なぜなら今見上げている夜空には、あの絵と同じ様に濃いオレンジ色の月が2つ浮かんで居た。


明るい月明かりだけで無く街並みの所々にかれた篝火かがりびで、自分の足元が整然と敷かれた石畳である事に気が付いた。


見渡す限り石積みの家とレンガ積みの家とが建ち並び、青い篝火かがりびが燃えて通りを照らし出して居た。


夜も早い時間なのだろうか通りには、買い物客らしき行き過ぎる人の姿は多かった。


ジロジロと見て喧嘩を売られては成るまいと、僕は通りを行き過ぎる人の様子をこそこそうかがった。。 


肌の色はと言えば白人種もアジア系も居ればアフリカ系らしき人も居た。


服装は人それぞれにまちまちで、革のジャケットの様な物から民族衣装風のスカートまで色々だった。


時折見掛ける弓や剣を吊るした男性は、見るからに厚手の革装束か軽そうなよろいを着けていた。


異世界物のラノベやアニメでお馴染みの、あれが多分『冒険者』なのだろうと僕は予測した。


ただ漫画やアニメと違うその革装束や甲冑かっちゅうに残された染みやへこんだ傷跡が、リアルに暴力の跡なのだと思うと寒気を感じた。


(まぁあれで郵便屋とか行商人とかだったら・・・怖いよな・・・)


独り想像して寒気を感じていた。





ジロジロと見て喧嘩を売られてはと危惧して居たが、逆に通りを行く人々に僕がジロジロ見られていた。


流石にTシャツとジーンズ姿でKEENのサンダル履きなどと言う姿は僕一人で、他から浮いて見えて当然だった。


「とっとと店を仕舞いな、全く使えない娘だよ」


どこからか聞き慣れた日本語の罵声ばせい聞こえて来た。


通りを挟んだ向かいにある野菜を売るらしき店からの様だった。


怒鳴られていたらしいのは商品棚を店の奥に引きる少女だった。


それは尖った耳をした、エルフの可愛い少女だった。


その細い小柄な身体では、木製の重たそうな商品棚は中々動こうとはしなかった。


篝火かがりびの灯りに照らされた可愛い顔には汗が浮き、それでも必死に引き摺って居た。


「手伝うよ」


僕は棚を押しながら声を掛けた。


「あ・・・ありがとうございます」


必死に引き摺りながら彼女は笑顔で答えていた。


「エミリア、片付けは終わったのかい? 全くあんたは役立たずで悪い買い物をしたよ」


住居兼らしい店の奥から現れたのは、多少肥り気味のエプロン姿の女店主だった。


「あら、お客さんかい?」 


仏頂面で出てきた彼女は、僕を見るなり上機嫌にそう言った。。


「いや、今晩の野菜はもう買っちゃって、奥さんの所で買えば良かったなぁ・・・良いものが揃ってるね」


金も無いのに冷やかしかい!と、因縁いんねんをつけられるのを恐れて僕はそう言った。


この世界の野菜が僕には毒になるか薬になるかも分からなかったし、何より一文無しの僕だった。


「あんたは見ない顔だね。新しく来たのかい? やっぱり魔獣狩りにかね?」 


お得意様になるかならないかを見定め様と言うのか、彼女は探る様に聞いて来た。



「ああ狩りに越して来たんだ。しかし良い野菜が揃ってる。これからはこの店の世話になるからよろしくね、奥さん」


話を合わせて微笑んだ、それも何か聞き出せないかと思っての事だった。


「あらやだわ、あたしゃまだ独り身の女盛りだわよ。お兄さん」


母親程の歳の彼女が下心が溢れんばかりの笑顔でウィンクをした。


僕も男だから海外のエッチサイトで『人妻物』も色々見るが、あの品の悪い罵声の持ち主などお断りだ。


「ところでここらの魔獣はどんなだい?儲かりそうな話は無いかな?」


り気無く情報を求めて話を振ってみた。


「まあ銀魂と金魂を持つのが半々で、特級魂は先月三匹出た位だね」


まるでさも当然と言った具合に、僕には全く訳の分からない説明を返してくれた。


「特級魂の時は二人死んだし、一人は片腕を喰われちまったらしいからね、まあ無難に金銀のを狩るのが利口だよ」


腕組みをしてうなずきながら、そう話す彼女の腕には鳥肌が立っていた。





狩る魔獣には強さでランクがあるらしいと言う情報は貴重だった。





女主人が店を閉めたそうにしている様子だったので、後一つだけ聞いて退散しようと考えた。


「そうかぁ、どこも似たり寄ったりなんだなぁ・・・あ、所でこの街の換金所はどこなんだい?」


僕はその『銀魂』やら『金魂』やらの売り買いをすると言う、ラノベで言うギルドらしき場所を探ってみた。


「銀魂ならそのまま使えば良いし、金や特級ならこの通りの先に行けば看板が出てるからすぐわかるさね」


聞くだけ聞いた僕は礼を言い、再びエミリアに毒付き始めた主人の声を尻目に通りを歩きはじめた。





通りにはブラウスやスカート姿や薄手のニットを着た女性も見受けられ、基本的に洋服らしき物が基本だと見て取れた。


閉め始めた色んな店先を眺めると、その半数がエルフを売り子や小間使いに使って居た。 


察するにこの世界では、エルフは奴隷階級に近い扱いだと思われた。


メインストリートらしきこの通りの、所々にから聴こ賑やかそうな声が聞こえて来た。


いかにも酔客らしい下品な単語が時折交ざる、アルコールを提供する店の存在も確認出来た。


その酒場らしき店へと向かう、剣や槍などの武具を担いだ男は一瞥いちべつして狩人なのだと予想した。 


店や土地を持たない僕だから、もし帰る事が出来なかったら狩りでもして生計を立てるしか仕方なさそうだ。


「お客さん、ちょっと待って下さい。お客さん」


後ろから石畳を走るサンダルの音と共に若い女の声がした。 


僕の事では無いだろうと無視を決め、歩みを止めずに歩いていると腕を捕まれた。


「さっきはありがとうございました。人に優しくして頂いたの始めてで、それで、あの、これ・・・」


あの八百屋で店仕舞いをしていた少女が、ナプキンに包んだ硬そうなパンを僕に渡して来た。


「気にしないで良いよ。女の子が困ってたら手助けするのは当たり前でしょ」


僕は笑いながらそれを返そうとした。


「これ・・・汚なく無いです。今晩御飯に頂いたばかりだから・・・硬いかもしれないけど、わたし、何もお礼する事出来ないから・・・」


恥じ入りながらも彼女はパンを差し出した。


「あのさ、もしかしてこれは君の晩御飯なの?」


まさかとは思ったが尋ねてみた。


「汚くないですよ!硬いけど・・・私には何も無いから・・・だから・・・」


だから食べて欲しいと彼女は言うのだろうか・・・


「これ、君のご飯なの? まさか晩御飯がこれだけ?」


この世界の食事のレベルは知らなかったが聞いてみた。


「違いますよ。今日はくず野菜のスープも下さったし、帰ったら食べますから」


彼女は微笑みながらそう言った。


この硬いパン1つとくず野菜のスープだけの夕食で、エミリアと呼ばれていた彼女は優しくしてくれたお礼にとそのパンを差し出していた。


たったあれだけの事の為に、多くも無いその食事を僕に差し出していた。


「半分こして、二人で食べよう」


僕は彼女から渡されたパンを二つに割って、片方を笑って差し出した。


「・・・はい」


彼女は嬉しそうに受け取った。





街の中を流れる小さな川の欄干に、並んで腰掛けて硬いパンを少しづつ口にした。 


僕は食べながら彼女の境遇を聞いてみた。


エミリアは南にある小さなエルフの村の生まれだった。 


歳は今年の6月で18歳になると言う。 彼女が8歳の時国中でエルフの幼児にだけ感染するたちの悪い風邪が流行した。


治す薬は人間の魔法職の、一部の上級職にしか作れないものだった。 


薬は高価なものとなり、払えぬ者は仕方無く子を売った。 


「わたしは売られたけど、弟や妹達が元気になったんだから良かったんです」


エミリアは身の不幸を嘆くでもなく、明るく僕にそう言った。


今街で働いているエルフ達はみな8年前の疫病で売られた子供だと教えてくれた。


下世話な話だが心配になり、僕はおずおずと聞いてみた。


「エミリアは男の人にその・・・エッチな事とかされたりは・・・・」


彼女は少し俯くと、気を取り直したのか僕の顔を見ながら明るくこう言った。


「昔裸にされて嫌らしい事をされそうになったけど・・・エルフは獣臭くて姦る気にならないと言われ、無事でした」


「ごめんなさい・・・近くに座っちゃいましたね。獣臭いでしょ、わたし・・・」


自分の言った台詞でまた傷付いたのか、彼女は欄干から立ち上がろうとした。


僕はエミリアの手に触れて「座ってて」と囁いた。


「おかしいな・・・僕には君の良い匂いしかしないんだけどな、、」 


そう囁いて彼女の束ねた黒髪を手に香りを嗅いでいた。


「お日様のような、優しい良い匂いだよ」


僕はエミリアを抱き締めて呟いた。


Tシャツを濡らす彼女の涙を感じた。


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