異世界へ
僕は妹の襲撃にほとほと疲れはて、グッタリと疲労感に包まれながら部屋へと戻った。
気が付いたらベッドに座ってまたスマホを見ていた。
写真の中の老人は何度見てもやはり鋭い鉤爪で、耳は尖ったままだし目は赤いままだった。
出会った時は上品そうなただの老人だったのだ。
僕は何かそこに理由は見つからないかとスワイプし、また再び絵の細部を調べ始めていた。
「おにいちゃん、お母さんもお父さんも今日は遅くなるから二人でご飯食べなさいって。どこ行く?どこ行く?」
みのりは騒がしく部屋に入って来るなりうつ伏せでベッドで寝ていた僕の上に乗ってきた。
「そうだなあ、、駅の方に歩きながら決めようか?」
正直なところ絵を見ていて暗い気分になって居た僕だった。
食欲は無かったが、それでも無邪気なみのりの屈託無い笑顔は少しだけ気分を晴らしてくれていた。
家から豊科駅前迄は10分位の距離だった。
向かう途中の国道沿いにはガストと言ったファミレスや、マック、coco壱番屋などの飲食店が並んでいた。
みのりは麻色のニットベストとデニムのガウチョパンツを合わせ厚底のデザインサンダルを履いて、もう夏の様な服装だった。
毛先が肩に届く位のナチュラルルーズボブの前髪を、鬱陶しそうに指先で弄りながら僕の左腕を抱えていた。
知らない人から見たらまるで恋人同士の様に見えてしまうだろう。
「みのり、近所の目もあるからさ、並んで歩く位にしとかない?」
と僕が言っても何処吹く風の様子で笑顔を向けて腕を離さない。
「だってさぁ、おにいちゃんは大学に行ってて4年も離れてたんだよ。だからわたしは4年分甘えても良いじゃん 」
そうは言われても夏休みや正月には帰省していたし、その度に遊びに連れて行った事は無視された。
左腕は私の指定席!とでも言うように離れそうも無い妹だった。
『あそこの兄妹ちょっと変じゃない?』
そう思われるのが怖かった。
ついさっき一緒にシャワーを浴びたと言う事実が、疚やましい気持ちゆえに他人の目を恐れさせていた。
5月も半ばを過ぎて日も長くなり、今も18時前だと言うのに明るいままだった。
とは言え週末の夜でどこも混み始める時間帯だったから、今正確に何時かを知りたくてジーンズからスマホを取り出した。
電源をオンして画面を見ると、いつもの見馴れた画面は消えて12時間のカウントダウンタイマーが現れた。
「あれ?いつの間にか触ってたかな、、」
何気に開始を触ったら、『11:59:59』の文字が表示され、瞬間に周りの光景が一変していた。
僕は異世界へと飛ばされていた。