ロングビーチ
「無事救出を終えられたようですね。」
細貝先生からの電話は、USバンクタワービルからの被災者が、クイン・メリー号から下船を始めた頃に掛かって来た。
「何とか間に合いました。火災はどうなっていますか?」
僕は気になりそう聞いた。
「最上階下の3フロアーまで達しまして、屋上は黒煙で見えない状況です。 まだあそこに居たなら、窒息死は免れなかったでしょうね。」
先生は妙に穏やかな声でそう言った。
「先生、何かあったんですか?」
僕は救出中に彼が言い掛けた言葉も気になっていたし、今話す彼の口調がいつもと違う様な気がして、そう聞いていた。
「いや、白沢さんは火災発生直後から働き詰めですし、白鳥さん達もはるばる日本から来て頂いて、6000人を救助されたばかりですのでね。」
先生はそこまで言うと、何故か言い淀んだ。
「これは本来、白鳥さんからの依頼には何の関係も無い事なんです。私の今回の渡米の目的からも外れていますし。」
僕は先生の話を黙って聞いていた。
「まあ、アメリカの世論を味方に付けるには好都合なんですけどね。」 と言うと、暫く間を置いて先生は言った。
「今日の午後7時に、ワシントンとニューヨークにテロ攻撃が行われます。 あ、ロスの時間でですよ。日本時間なら午前11時です。」
先生が救出中に言いたかったのがそれだと知った。
先生が「一連のテロ攻撃を、FBIに頼まれて調べている。」と瑠奈は言っていた。
僕はまさかとは思ったが、先生に聞いた。
「先生、警察やFBIはどんな対策を取ってるんですか?」
当然アメリカは事前に分かっていて、先生の協力を仰いだのだろうと思いそう聞いた。
「いや、通常の警戒体制です。私もつい先程調べが付いて、FBIに教えた所ですから。」
CIA等の世界最強の諜報機関をいくつも抱えながら、細貝先生が調べ始めるまで何の情報も得ていなかった事を知り、僕は呆れていた。
「そんなもんなんですか?CIAとかって。」
僕は力無く先生にそう聞いた。
「まだましな方ですね、CIAは。」
先生は笑いながらそう言った。
確かにこの人なら、諜報機関や政府を相手取り戦えるはずだと、今更ながらにそう感じた。
「僕達はどうすれは?」
そう聞いてみた。
「何の益も無いボランティアですよ。」
先生はそう言った。
「むしろテロ攻撃で混乱になれば、白鳥さんの敵も炙り出しやすくなりますが、、」
先生は続けてそうも言った。
「救える力が在るのに見殺しにしたら、先生ならどう思います?」
逆にそう言ってみた。
「ガッカリするでしょうね。間違いなく。」
先生は真面目な声でそう答えた。。
「そう言う事です。」
僕がそう言うと、先生はシティホールで3人に説明すると言った。
「瑠奈、シティホールで打ち合わせをしようと先生が言ってる。出れる?」
100社を超えるマスコミに囲まれて、インタビューのマイクを突き付けられていた彼女にそう聞いた。
「良いわよ、今すぐでも。」 と瑠奈は言った。
みのりは?と少し浮かび上がって妹を探したら、少し離れた場所で軍服を着た集団と笑いながら話していた。
僕は先生の所へ行く事を伝えようと、みのり達の所へ飛んで向かった。
10台を超える車イスが纏めて置かれ、それに立て掛けられた何十本もの松葉杖と義足を見て、僕にも状況はすぐに分かった。
「ユウト、みのりちゃんは?」
そう言いながら取材から逃げ出してきた瑠奈は、軍服の一団に囲まれたみのりを見て、同じ様に気付いたらしかった。
「アメリカ傷癒軍人会の人達ね。 みのりちゃん、『魔魂』で治してあげたんだ。」
肩に担ぎ上げられて、軍服の男達と喜び合う妹の姿が、僕には誇らしかった。
片足だけ裸足の軍人と、瑠奈が何事かを話していた。
「今日は傷癒軍人会の旅行で来ていたみたいね。みんなアフガニスタンやイラクで負傷した人達よ。」
瑠奈がそう教えてくれた。
「みのりちゃんの為なら何処へでも助けに行くと、彼らは言ってるわ。もうアイドルね、彼らの。」
瑠奈は微笑みながらそう言った。
スマホを見ると、もう10時に近かった。
日本時間の11時には、テロ攻撃が始まる。
僕は慌ててみのりに声掛けて、先生の居るシティホールへ向かうと言った。
僕らは何千人もの被災者の歓声に見送られ、ロングビーチを飛び立った。
1時間後に始まると言う、テロ攻撃を防ぐために。
それは何の見返りも無い戦いだった。




