完
鯨 (オストワルド) ……史上初の女性星帝に就任。有能かつ信頼のおけるものたちに助けられながら、名君として歴史に名を残す。後年、後継者が現れたのを機に軍からも引退。人知れず亡夫の故郷を訪ねて旅立ち、その町で余生を過ごした。
犬居 (シェノク) ……騎士団の裏役、主に諜報として暗躍しながら、私財を投じてスラムの貧困や差別問題に取り組んだ。前科者への批判に折れること無く孤児院に日参し、多くの子供に学力を持たせた。その功績が評価され、晩年、正式に騎士へと復帰。かなり「えらいひと」に成り上がったが、生涯忙しく走り回っていたという。
猪 (ヴァルクス) ……前騎士団長の推薦により気がついたら騎士団長になっていた。なったからにはと真面目に務めるも、とある新人騎士を見て突如男泣き、再び「自分は団長を辞める」宣言をして騎士たちを困らせた。のち、新人騎士を背に庇い、テロリストの銃撃に倒れる。全身に溜めた鉛弾の数、百四十四発。その名は歴史には刻まれなかったが、「なんの危険もない、心配いらない」という意として「猪の背にかばわれる」という慣用句を後世に残した。
鹿 (アレイニ) ……バルフレアの村で四人の子をもうける。夫亡きあと、子育てのかたわら、家庭料理レシピブックを多数出版。ラトキア食文化の多様性に貢献、カリスマ料理研究家として名を残した。メディアはこぞって彼女の露出を願ったが、生涯バルフレアの村を出ることはなく、母として地味に生き終えた。
虎 (ティオドール) ……妻と四人の子をもうけ、バルフレア領を護って戦禍に散る。享年三十四歳。「バルフレアの勇者」という名を遺す。赤い髪の勇者は差別払拭への着火剤となった。バルフレア村の住人曰く、彼の雑談はいつも、家族の自慢話で終始していたという。
蝶 (バンドラゴラ) ……老兵の多くが軍の管理職へと成り上がっていく中、騎士団に残留。上を目指すことも無く下に退くこともなく、年下の新騎士団長のサポートに務める。なかにはその中途半端な立ち位置を哀れむものもいたが、騎士団長は笑って曰く「むしろ、あの男が一番ちゃっかりしてるのよ」。特に新聞を賑わせることのない夫を、妻は誇らしげにしていた。
烏 (キリコ) ……騒動のおよそ半年後、病死。息を引き取るまでに、自ら考案したあらゆる治療法や新薬の被検体となり、のちの治療法確立に大いに貢献した。星帝ハルフィンを蝕んだ不治の病は、これによりこのラトキアから消滅する。ともに開発していた科学者は「最後にひとさまの役に立つことをしたくなったのかねえ」と揶揄したが、直後に烏の遺言を聞いて、「ほんとむかつくあの変態」と毒づいたという。
オルカ ……恋人と順調な交際を経て結婚。結婚式で祝いの歌を実父に頼み、その盛大な音程の外しっぷりに顎を落とした。「パパの音痴が、シャチのほうに遺伝してくれて本当に良かった。もしこっちに来てたらわたしはイイトコ無しだったもの」と心から言ったが、父にはなんらダメージを与えられず、弟がちょっとすねた。
シャチ ……雌雄同体として生まれる。幼少は頭脳明晰で科学者としての将来を期待されたが、八歳のころ突如雄体化。戦闘においてめきめきと頭角を顕わし、十五歳で騎士に。戦闘力、学力ともに完璧で『全知全能』と謳われた。二十歳を前に将軍となり、後年、星帝として君臨。ラトキアの未来を作った。
コトラ ……ラトキア有史初の女性騎士団長に就任。父ゆずりの胆と膂力で敵陣へ切り込んでいった。魅力的な容姿も相まって絶大な人気を博すが、あまりにも男っ気がなさすぎるのでは――と揶揄されだしたころに電撃結婚。八歳年下の若き星帝を陰ひなたに助け、政治家としても多くの良法を提案し、ラトキアの未来を作っていった。
鮫島くん(クーガ) ……食事のあと、お気に入りのソファシートに腰かけ、転寝をするようにして、穏やかで幸せな生涯を終えた。
栗林梨太(北見信吾) ……妻の最後の食事を作り、ともに摂って、孫に片づけの礼をいう。そうして、穏やかで幸せな生涯を終えた。
お読み頂き、ありがとうございました。
これにて、「鮫島くんのおっぱい」全編の完結となります。忌憚の無いご意見、感想、評価を頂戴できれば幸いです。




