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鮫島くんのおっぱい  作者: とびらの
第三部 さよなら鮫島くん

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209/252

<閑話特別編>鮫ちゃんの独白

「鮫島くんの一人称や心理描写丸出しってのも読んでみたいな。どうせ何も考えてないんだろうけどw」

「いや考えてないってわけじゃないんだよ?頭が悪いでもないし……ただ小説としてどうなのって文体になるだけで」


という会話をツイッターでやったので、やってみました。今回限りです。

 目が覚めた。

 朝だから。


 ……まず、自分自身の状態と現場位置を確認する。手、足に束縛や異常なし、意識明朗、視界および聴覚に違和感なし。バングルで位置情報を確認。バルフレアの集落、村長の屋敷の客用寝室、昨夜からの移動なし。

 平常通り眠りにつき、襲撃などなにもなく覚醒したと把握する。


 昨夜眠りについたのはバングルの時計で夜十一時、それから八時間後に目覚めるよう自己催眠をかけておいたから翌朝の午前七時だろう。時計を見る。七時二分前。あと百秒と少しでアラームが鳴るのを、止める。もう起きたので要らない。


 隣ではリタが目を閉じ、寝転がっている。


 昨夜、結婚の儀式のあとはそのまま大宴会になった。私もリタもバルフレア人にひっぱりだことなり、彼は飲み慣れない酒をずいぶん飲まされたらしい。夕方にはつぶれて、寝て起きて入浴して、またすぐ眠ってしまったのだ。


「……リタ。リタ」


 私は呼びかけながら、彼の体調を確認した。顔色は平常。酒は無事に分解されている。体温、呼吸、鼓動、脈すべて異常なし。純粋に熟睡しているだけだった。

 リタはいつも、アラームとともに起きる。地球でも、このラトキア星にきてからもずっと。

 何時に寝ようともアラームが無いと起きられないし、鳴れば寝ていられないらしい。珍しい体質だ。戦場では長生きできないだろう。彼は兵士ではないが。


 ……アラームがならない限り、リタは起きない。


「……くぅ」


 よく寝ている。

 せっかくだから、観察してみる。


 髪は茶色で、短いが癖があり、柔らかな球状である。前髪をよけてみる。意外と眉が太い。額、目元、鼻梁、唇、あご、すべてが丸い。全体的にはきちんと成人男性のそれなのだが、パーツひとつひとつが赤ん坊のようであり、少女のような配置である。

 鼻をつまんで見る。小さい。私の指、第一関節だけでこと足りる。唇を引っ張ってみる。手で払われた。しかしまだ寝ているので続行する。手首をつかんで持ち上げる。さすが女子供ほど細くはないが、手が小さい。指先までいちいち丸い。生活に不便はないのだろうか? 試しに、肘下三寸にあるツボを刺激して俺の指を握らせてみる。……握力に障害はないようだ。


 ……あっ。爪が伸びている。私はポーチから爪切りを出した。二十指すべて揃えた。


「んぅー…」


 リタが寝がえりをした。起きるか? ……いやまだ寝ている。続けよう。

 襟足のところに寝ぐせが付いている。私は再びポーチから汎用ジェルと蒸留水を取り出し、スプレーケースで配合、リタの髪を整えにかかった。手櫛で梳る。大体よし。


「……ぅー」


 ん、起きるか?

 彼は目を閉じたまま、ぽつりとつぶやく。


「さめじまくん、いる……?」


 ああ、ここに居るよ。と、答えようとして、とどめる。


 ……私には、彼に見えているものはよくわからない。だが言葉に込められた想いは、もう理解していた。

 私は首を振った。


「もういない」


「そっか……」


 それだけ言って、リタは黙り込んでしまった。


 口元に、耳を寄せてみる。……寝息だ。なんだ、寝言だったのか。

 そこでふと、寝間着が大きく乱れているのに気が付いた。秋の早朝、腹が冷えるとよくないだろう。ボタンを閉じてやる。リタは少し暑がりで、寝ているときは特に服が邪魔に感じるらしい。半分、脱いでしまっているような状態だ。


 と。ふと、手が止まる。


 ……下半身……ズボンの形状が、異常おかしい。股間部分に、人体と寝間着の構造上、ありえない突起が見られた。

 なんだろう。

 速やかに、現状確認作業に入る。

 すなわち寝間着を脱がしてみた。


「あ」


 理解した。


 再度、リタの呼吸と眼球移動を確認してみる。やはり熟睡している。

 意識は無いのに、肉体だけが興奮状態にある……ということは、ないだろう。地球人はラトキア星人と違い、未婚でも生殖器が機能しているという。おそらくだが、これはそれに起因するものではなかろうか。

当人の意思を伴わない生理現象であり、病でもなければ特に意味のあることでもないと思われる。……たぶん。


「……どうなんだろ?」


 私にだって、好奇心というものくらいはあるのだ。


 当人に聞きたいが、まだ寝ている。

 下着も脱がしてみた。やはり、理解していた通りの状態である。

 それはそうとして、可愛くない。リタは顔も言動も可愛いが、それで想定していたものより全然可愛くなくて、以前より残念に思っていた。本当に残念なほどに可愛くない。


「うー……うー」


 なにかうなされている、が、眠っている。


 ……すごいな、本当に眠っているのかこれは。

 それでどうしてこっちは元気そうなんだろう。不思議だ。面白い。


 つついてみる。

 動く。


 え。わ。


 動く。


 わ。


 ……え、あっ、こんななるんだ。へえ……。


 えー。へえ。わー。面白い。


 おもしろい。わー。

 わーーーおもしろーーーい

 なにこれすごい面白い。


 面白い。たのしい。わーーー。おもしろーーーーい。


「あっ」


 私は思わず、手をひっこめた。

 ……あー。

 ちょっと、調子に乗りすぎたらしい。


 どうしよう。

 どうしたら………………どうしよう?


 逃げよう。


 私はそっと下着を戻し、寝間着をすべて綺麗につけさせた。タオルケットもかけ、そうっと退室。騎士団長の忍び足は、子育て中の雌鼠ですら気づかない。

 リビングまで落ち延びると、バルフレアの村長が、お茶を淹れて迎えてくれた。


「おはようございます、クーガ様。よくお休みで」

「ああ」

「……おや、すこし顔が赤い。大丈夫ですか、旅の疲れが出たのか。それとも昨夜の祝い酒が……」

「平気」


 村長がホホホと穏やかに笑った。


「さすが鮫様は沈着冷静で。あの壮大な結婚式の翌日というのに、いつもとなにもお変わりなく」

「……軍人だからな」


 だから――平静を装うのは、得意だ。


 座り、お茶を頂いていると、寝室の戸がソロリソロリと静かに開いた。私達が視線をやると、リタが、タオルケットを体中に巻き付けた格好でそこにいた。

 全身を真っ赤にし、汗だくである。


「と、トイレ……借り、ます」


 と、去っていく。村長が首を傾げた。


「リタ様はどうかなさいましたかの」

「さあ」


 私はお茶をすすった。


 ややあって、彼が帰ってきた。メンタルコントロールがへたな軍人より巧みなリタは、もう平気な顔をしている。フウと息を吐き、私と同じお茶を飲んだ。

 そして、私のほうを向いた。

 丸くて大きくて、赤ん坊みたいな可愛い瞳で、じっと私の目を見つめて。


「おはよう。鮫さん」


 私は頷いた。


「おはようリタ。……大丈夫?」


 一応、一抹の罪悪感と責任感をもって尋ねてみたが、彼は即答した。


「うん。いっぱい寝たおかげかな。なんかスッキリしたよ」

「…………そうか」

「おれ、もう大丈夫だから」


 そう言って、にっこり笑う。

 

 ――隣に座る私と、ほとんど同じ、視線の高さ。

 ……彼は地球人だから、急に背丈が伸びるわけはない。また私が縮んだのだろうか?

リタ、大きくなったような気がする。


 彼はお茶を飲み干すと、村長に出発の予定を告げた。こちらから出向かずとも、ルードが馬車を引いてくるはずだが。しかし彼は荷造りの手を止めず、作業しながら答えてくる。


「行き違いが怖いから無理な動きはしないけど、すぐ出れるように用意だけはしとこうよ。馬車の乗り心地はどんなもんかな、きっとそれなりに揺れるよね」

「……そうだな、かなり」

「じゃあクッションをたくさん載せたい。おれ、タテユレで車酔いすることあるんだ。鮫さんは平気?」

「私は平気。……車酔いの薬があるぞ」

「あー、おれ、薬って全般苦手なんだ。ちょっとイヤな思い出があってさ。できるだけ飲みたくない。いざとなったら我慢して飲むけどね」


 さらりと言ってきた、が、初めて聞いた内容だった。きっと「ちょっと」でなくイヤな記憶があるのだろう。今まで言ってこなかったのがその証拠。私は汲んだ。

 今、ちゃんと言ってくれたことは大きな意味がある気がして。


「わかった。クッション、たくさん持っていこう」


 彼は、とても嬉しそうに笑った。


 村中に声をかけ、村長の屋敷がふかふかのクッションで埋まったころ。

 乱暴に扉がノックされた。

 


「おーい、お待ちかねの、馬車が来たぞ!」


 この声は、虎だ。直後に別の男の声がした。


「よう、地球人! それに我がいとしの弟よ。おにーちゃんが来たぞ。迎え撃てー!」


 いつものばかばかしいジョークである。私は嘆息し、うるさい兄を制しようと立ち上がった。

 だがその前に、リタが扉を開いた。


「鮫さんは待ってて。少し、おれに任せてほしい」


 私は頷き、彼の後ろに退いた。

 リタが何を考えているかなど知らない。だが任せろと言ったのだから、任せたほうがいいに違いない。


 私は黙って、自身の装備を確認した。

 まずは腰に麻痺刀。

 左腕、袖の下に手甲銃。袖周りにはその銃弾。右手の肘下には細身のナイフが八本。打撃の威力を増すための重りが全身に四か所、計四十五キロ。右靴裏に着火剤、左靴裏に起爆剤、腰のポーチに催涙弾と煙幕弾、奥歯に超小型爆弾。

 ――うん、最低限の装備は揃っている。

 政治家としての競争相手であっても、相手は私の実兄、戦士ではないのは知っている。このくらいでも足りるだろう。


 なにかあるまで、任せる。

 なにかあったら、任せろ。


 ――こんなこと、言わなくてもリタはわかっているに違いない。

 彼は振り向きもせず、戸を開き、来客にまっすぐ向き直った。


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