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鮫島くんのおっぱい  作者: とびらの
第三部 さよなら鮫島くん

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黄金色草原の戦闘②


 梨太は防弾機能付きのフードをかぶり、目から上だけ窓から出した。

 軍仕様の双眼拡大鏡はすこぶる高性能だ。唇の動きまで見えるほどズームアップし、急転換しても画面がブレない。倍率を何度も切り替えながら、梨太は妻と友人の戦闘を観ていた。


 ――初撃、戦闘の皮切りとなったのは虎の刃だった。麻酔等より一回り小さい短剣(ダガー)であるが、刃が厚く、ほとんど金棒のよう。それを両手に駆ける。地を這うほどに低くから、巨人の足元を斬りつけた。

 警告も宣戦布告もない。

 背後からの不意打ちに、倒れこむ巨人。その背中を踏みつけて、彼は次の獲物へ飛び掛かっていった。


 速い。ズームを下げても動きが追いきれず、上下左右にフレームアウトする。獣のように駆け、飛蝗バッタのように跳ぶ。巨人の体に飛び乗って、首元を肘で打った。それで二人目が崩れ落ちた。


「虎ちゃん、強っ」


 細身の体でこれがベストコンディションというのは真実らしい。かつての記憶よりはるかに速い。

 高速で飛び回る男の合間を縫って、一条の弾道がはしる。虎にすこし遅れ後方から、鮫島が撃ち込んだものだ。

 左手の籠手から、パチンコの要領で鉄弾を放っている。騎士とて、特別な任務がなければ銃火器を持てない。拳銃の代わりなのだろう、しかし鮫島が使えば何も不足が無かった。

 もしかすると銃以上の精密さで、巨人の両足スネを撃ち抜いた。


 盗賊の悲鳴が梨太まで届く。


 彼らはそこで、ようやく襲撃を理解したようだった。

 だがその時点で手遅れだった。



「なんだぁきさまら、ああっ、らときあきしだん。なんでこんなところに。……かな?」


 読唇術が出来るわけではない。ただ状況から、そのようなセリフをあててみる。大体あっているだろう。対面する鮫島は後ろ姿しか見えないが、そのセリフも想像で補完してみる。


「えーと、手をあげろっ、大人しく従えば――っえ!?」


 朗読は悲鳴じみた声で中断された。それだけのセリフを言える間もなく、鮫島はさらなる銃弾を放ったのだ。虎の動きも止まらない。

 おそらく彼らは全くの無言で、何の交渉もせず、ひたすらに盗賊を攻撃している。


 それは、正しい行動だと理解できた。


 鮫島と虎、二人は一般平均より大柄である。しかし相手はそれ以上の巨人。武術で体格差をカバーしても、圧倒的戦闘力とはいえない。それが十人だ。不意打ちで人数を減らさないと、敗けてしまう。


 巨人たちが襲撃を理解する前に、四人。武器を持つ前にさらに二人、構える前に二人。

 そうしてようやく「戦闘」が始まった。直後、すっかり体が温まり気勢の乗った虎の膝が、巨人の顎を打ち上げる。それでノックアウトはできなかった。「身構える」というのは、これほどの防御力を持つ。

 虎はそのまま、巨人の背後に回った。細長い足を使い、器用に首を締め上げる。巨人は呻きながら、虎を捕まえようともがいていた。一対一の勝負は、もう少しかかりそうだ。


 鮫島に対峙するのは、もう一人だけ。


「――てめえら、ちくしょう。このガキがどうなってもいいのか、絞め殺すぞ。……」


 巨人は、すぐそばにいたハーニャを捕まえた。獣人族バルフレアの娘が、悲鳴を上げる。


 鮫島は、やはり間を置かなかった。

 白い手を突き出し、弦を引いて、すぐに離す。


 鉄弾は見事、ハーニャを絞める巨人の腕に当たった。落下するハーニャ。

 

 鮫島が駆ける。一瞬で距離を詰めながら、麻痺刀を右手に持つ。どうやらずっと口にくわえていたらしい。ああ、それじゃあ喋れないはずだよなと、妙な納得感があった。

 

 強制睡眠効果の麻酔刀よりやや軽く、そのぶん威力に劣る麻痺刀。

 鮫島はその武器で、巨人を三度、斬りつけた。

 巨人の体がビクビクと震える。

 そして、崩れ落ちる。真下にいたハーニャを鮫島は毬玉みたいに蹴り飛ばした。直後、そこへ巨人の膝が落ちた。


 土埃が上がる。隣で同じく。倒れ伏した巨人の上で、虎がフウと息をついていた。


 鮫島と虎は顔を見合わせ、視線で確認。足を傷つけ這っている盗賊たち全員に、改めて麻痺刀を当てて回った。


 ――あの武器に、刃はついていない。決して、トドメをさしているわけではない。


 おそらくは死者はいない。どの攻撃も急所を外していた。しかし脚の腱や利き腕を破壊しているのだから、慈悲深く平和的制圧とはとてもいえない。日本ではありえない、暴力による暴力の終結であった。



 十体の、ものいわぬ者が転がる真ん中で、鮫島は振り返った。梨太に向かって、大きく手を振る。


 梨太は黙ってハンドブレーキを解除し、車をUターンさせた。ほとんどペーパードライバーなうえ異国の軍用車だ。操作は危うい。


 だがそれを差し引いても、車の進みが悪い。車が悪いのではない、自分がアクセルを踏み損ねているのだ――そう自覚してもやはりゆっくりと、梨太は鮫島のもとへ合流していった。


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