表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鮫島くんのおっぱい  作者: とびらの
鮫島くんのおっぱい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/252

梨太君のお仕事

 地球、日本、霞ヶ丘市。その秋の暮れは早く、日が暮れたかと思えばあっというまに闇が訪れる。


 暗がりのなか、ふたりの男女が路地を進んでいた。

 手にはスーパーのレジ袋、袋口からは食材が覗いている。どちらも帽子を目深に被り、中肉中背、安物の普段着。清潔で、浮浪者などにはとても見えない。


 だが、その所作は確かになにかにおびえ、足音を忍ばせていた。


 そこに、なんとも場違いな明るい声。


「こんばんはぁ」


「っひぃっ!?」


 跳ね上がり、同時に振り返る二人。いつの間にか、その背後に一人の少年が立っていた。

 少女と見まがうほどに小柄で、小動物じみた愛くるしい顔立ち。なんら敵意のないほほえみを浮かべて、距離を詰めてくる。


「な、なに……こんばんは」

「今日は日曜日、もうすぐ夜の七時ですね」

「……はい?」


「さあて」


 少年は足を止めた。


「来週のサザエさんは?」


 二人の男女は更に警戒を強めた。両者で目配せをし、男の方が前にでる。


 きわめて自然な声音で、


「あなたはなんだ。サザエは誰だ? そんな者、俺たちは知らない――」


「鮫島くん、当たりだよっ!」


 突如、少年が叫ぶ。と、いつの間に回り込んだのか、背後からラトキアの騎士が刀を振るう。強制的に眠らせるという電撃をくらい、崩れ落ちる男。


 女は動転しながらも、腰元から警棒のようなものを取り出した。それを構えるよりも早く、手首を打たれ、はじかれる。


「ううっ! ――おまえら、ラトキアの――」

「御用だ。竜、鴨。通名を竜波勝男、鴨川若芽! 抵抗をやめて手錠を受けるならば、こちらも攻撃をしない」


 鴨と呼ばれた女は奥歯をかんだ。


「おまえは、騎士団の……英雄がなぜ――くそっ、オレは、弱いのだぞ」


 片言である。


 鮫島は意にも介さずに、


「お前たちが弱いから、騎士団は人数も武器も持ち出せなかった。人数が限られているのだから、精鋭でくるのは当然だろう」


 そう言って、刀を突きつける。


「俺のことを知っているなら、抵抗が無駄だとわかるな?」


 女は両手を上げた。帽子の隙間から、緑がかった水色の髪が見える。失神している男の髪は桃色だ。


 梨太が前にでた。


「鮫島くん、データにあったこいつらの住所は嘘だ。労働者用の仮宿舎じゃなく、たぶんこのすぐ近くに、彼らの仲間と、かなりうまく地球人に化けてるリーダー格と一緒に暮らしてるよ。いまのうちに捕まえた方がいい。きっとこの先のアパート、黄色い屋根が見えるあそこ、建物名はハイツ・ラプンツェル、その302じゃないかな」


「っはあっ!?」


 鴨が明らかに狼狽する。鮫島はすぐに理解すると、鴨に手錠をかけるなりそのまま飛び出していった。


 待つこと五分。


 梨太のそばで浮いていたくじらくんが、耳障りなブーピー音をならした。

 モニターの鯨があさっての方向を見ながらうなずく。


「……うむ了解。リタ君お手柄だ。たしかに、君の言った部屋で、鮫がラトキア人とおぼしき男女四人組を発見。もうひとり、表札の賃貸名義人らしき人物は不在だ。帰宅を待ち伏せて捕縛する」


 鴨が、聞いたことのない言語で何かを叫ぶ。やがて、鮫島も四人の人間を抱えて戻ってきた。先ほどは退路を張っていた犬居も合流している。


「なんだ、この手際の良さは! なぜわかった!」


 今度は日本語で叫ぶ鴨。全員が不思議そうなので、梨太はさくっと説明してみせた。


「いや、だって、このひとどう見ても女性だし。データにあった寄宿舎は、男性専用のタコ部屋だったもん。小銭払って住民票だけ置かせてもらってるんじゃないかなと。

 こんな帽子でガッツリ隠してるってことは、まだ存在をこの周辺に隠してるってことだ。つまりは社会に出てない。でもこぎれいだから乞食ではない。絶対にパトロンがいる。

 で、買い物袋のなか、調理が必要な生鮮食品とアイスキャンデーが五本。すぐ近くに冷蔵庫や調理場があって、仲間が集まっている。ふつうに考えて賃貸アパートだ。ならば名義や住民票を出せて、お金を稼げるほど社会に溶け込んでいるやつが関与してるでしょ。

 それからあのアパート――昭和の二世帯家族を受け入れるっていうふれこみで建てられたもので、敷金礼金保証人不要、古いから家賃は格安、平米のわりに部屋割りが細かくて、三階だけは五部屋もある。男女混合の、赤の他人が一緒に暮らすにはやっぱり部屋数がほしいよね。アイスが溶ける前に帰れる範囲で、それっぽいのはそこくらいかと」


「……何でそんなこと知ってる?」


「通学路に賃貸紹介所があって、そこに張り紙出てたから。三階は真ん中の階段をはさんで独立しておりどちらも角部屋、にぎやかなご家族でも安心! ……つまり二戸しかなくて、301が募集されていた。現時点で埋まっているのは302だ」


 ラトキア人がぽかんと口を開ける。犬居が親切に鴨に通訳してやると、彼女は目を丸くしてなにやら罵倒してきた。うるさいので耳をふさいでいると、後ろから、ぽんと頭に重みが乗る。


 鮫島が、無言のまま手のひらを乗せていた。そのままグリグリと撫でてくる。


「……ほめてくれてるの?」

「いや、中身がどうなっているのだろうと思って」

「頭のてっぺん押さえるのやめてよ、まだ伸びる予定なんだから」


 手首をつかんで除けようとするが、びくともしなかった。


「聡いな、リタ少年」


 鯨のねぎらいに、鮫島の手と格闘しながら、梨太は首を振る。


「ちょっと、目と記憶力がいいだけ。あのアパート名、いろんな意味でギリギリで気になってたし」


 鮫島の手が、梨太の髪をグシャグシャにかき回した。抗議するもののなぜかいつまでたってもはずしてくれない。どうやらふざけているらしい。

 こういうコミュニケーションの取り方もする男なのだと、梨太はちょっと意外に思った。


 手錠をかけられた鴨が恨みがましい声をあげる。


「……なぜ、オレたちのことをあやしいとかぎつけた……」


 梨太は笑った。この場にいるのはラトキア人のみ、自分以外の誰一人理解できないであろうことを、茶目っ気たっぷりにウインクし、言ってやる。


「子にカツオやワカメなんて名前つける親もいないし、ましてやその子がこの日本で、サザエさんを知らないわけがない」


「……サザエ氏とは、何者なのだ……」


 鴨はがっくりと頭を垂れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 知り合いにカツオさんいて草です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ