技術
そう。ここからはディーラーとて、今までのように燿一の行動を一切無視することはできないだろう。その動向に注意を払うだろう。
「グフハハハハッ! ここで、勝負に出る! 青に100枚だっ!」
だが、かといって、富豪。こちらも無視するわけには行かない。赤コイン100枚。
つまり、10000シェルである。
さて……。燿一は赤にコイン10枚……いや、もう一段その後ろに同じ枚数だけ置く、つまり、20枚。と、同時に、5枚をゾロ目にも投じる。ゾロ目への逃げは許さない。
さあ、燿一を勝たせるのか、それとも富豪を勝たせるのか。
だが、まだ思うはずだ。富豪は10000シェルかけたのだ。対して燿一は、たった、20枚、200シェル程度なら、と。
出た目は赤……。
「く、くそ。また負けかっ!」
「はい。そしてそちらのお客様には黄コイン20枚ですね」
そう言ってため息をつきながらディーラーは配当を燿一に渡そうとする。
「いや、違うよ。よく見てくれ」
そう。最初に置いた10枚はたしかに黄コイン10枚。だが、その後ろ。一番上こそ、黄色コインだが、その下、九枚。ちょうど前に積みあがった黄コインに隠れるようにしておかれていた、それ。
赤コイン。
赤コイン9枚っ!
すなわち、合計掛け金は、1010シェル!
「ば、バカなっ! あなたはずっと黄コインだけで取引していたはず」
「ああ、そう。そうなんだけど、急きょ、両替させてもらった」
「両替だあ?」
その言葉に富豪のオッサンが怪訝そうに首をかしげながら自身の隣に置かれているコイン入れを見つめる。赤色一色に染まっていたはずのそこに、黄色が混ざっているのを。
「キサマ、我のコインを勝手に」
「いや、すみません。でも、ちゃんと額は同じなんだ。赤コイン9枚もらう代わりに黄コイン90枚を入れておきました。数えてくれてもいい。それに、これからあなたも黄コインが必要になるでしょうから」
「バカにしているのか、貧乏人がっ! 我はなあ、黄コインなんぞ、みみっちい額では震えんのだ! 赤しか使わん」
「まあ、そう言わずに、少し見ていてくださいよ」
そう言って笑う。
とにかく、これで1010シェル獲得。ゾロ目に賭けていた、5黄コインを引いても、現段階で合計2160シェルである。
そして続く勝負、燿一は赤と青、それぞれに40コインずつ、しかも今のように、ちょうどディーラーから隠すようにして二段に分けて置く。さらに、20コインを一段にしてゾロ目にも。
「キサマ、なぜそのような賭け方を」
そう言って富豪は怪訝そうな表情を作る。しかし、……。
「ぐ……」
日々、無表情を作っていたディーラーの表情にも陰りが見えたことは、その富豪とて伝わったことだったのである。
「他にベットする方はいませんか?」
「わ、我は、今回はよい」
それを見て、富豪は今回は様子見を選択。ゆえに、燿一とディーラーの一騎打ちである。
「く……」
思わず声を漏らしながらもディーラーはサイコロを振り始める。さて、どう読む。この二つ。赤と青、両方に賭けられたコイン。今までは客の賭けた額を見て、出す目を決めていたのだ。しかしこのように賭けられては、額はわからない。一見すると赤と青、両方に40コインずつ同じ額賭けたようにも見えるが、それではそもそもギャンブルとして成立しない。どちらが出ても損をするという状況になっているのである。ということは……つまり額を変えている。どちらかに赤コインを見えないように混ぜている。そういうこと。
「なら……」
そして出る。出た目は、赤と青両方とも8。ゾロ目っ!
どちらかに赤コインが混ざっているのはたしか。そのどちらかはわからないが、これなら……。ゾロ目に賭けられている20枚のコインは一段なのでそのすべてが黄コインであるとわかるからだ。しかし……。掌の上で踊っている。まさに、その心理っ!
「な、これは」
ディーラーは賭けられているコインを回収する。そして、そこ。二段のコイン。そのすべてが、黄色。両方黄色っ! 同じ額、400シェルずつ。
「ゾロ目に賭けていたコインは黄20枚。つまり九倍で、180枚分だ」
これで賭けていた分の80枚を引き、獲得金額は100枚分、1000シェルを獲得。
「なぜ、そのような賭け方を……まるでゾロ目が出るとわかっていたような。ならば、どうしてゾロ目以外の二つの色にもわざわざ賭けた? ゾロ目だけに賭けていれば、1800シェル勝ちだったのだぞ?」
富豪は怪訝そうにそう落とすが、燿一はそれには答えない。そして先ほどと同じように、二つの色に20枚ずつ二段、ゾロ目に一段、計100枚のコインを賭ける。
ただし今回は、青のほう、その後ろの段の一番上が赤コインになっている。
「また、そのような……わけのわからぬ賭け方を。いったい、きさまは」
「ふふっ」
思考を操る。先ほどの手は二度は通じまい。よって、今度はどちらかの色には赤を混ぜ、賭ける額に傾斜をつける。しかし、単純に両方ともすべて黄色に見えるように置いたのなら、ディーラーがどちらかを選ぶかは完全に運否天賦、二分の一だ。しかし、見えている色も変えたのなら。操作しうる。その思考!
どう動くか、どう考えるのか。
ゆえにそこに思考を織り交ぜる。運否天賦以上の技術によって確率を操作するっ!
「……く。振ります」
そして出た目は、青っ!
一番上を赤コインにした青はその下は黄コイン、一番上が黄コインになっている赤の方は、その下が赤コインであると読んだのであろう。
が、裏の裏。
見たままっ!
青ダイスの方には、黄コイン20枚と赤コイン20枚。赤ダイスの方には黄コイン40枚賭けである! さらにゾロ目に賭けた黄コイン20枚も引いて、1600シェル獲得!
「が……」
ぬるい客としか打ってこなかったのだろう。こんな、ディーラーがダイスを操作しているということすら気づけぬような客層の、ギャンブル途上国で。
しかし、その程度の観察眼、あっちの世界では、勝つためには絶対として必要とされている技術だった。そしてそれを持ち合わせていなければもとより、一回で何十万、何百万と言うギャンブルに、生き残ってこれるはずがなかったからだ。
そしてまた燿一は同じように賭ける。
「く……。では、ダイスを振ります」
「待ってくれ。今回は我もかけよう」
そして、富豪も賭ける。置き方は三列九十枚。それも、……ディーラーから見える面はすべて黄色のコインで覆って。
「な、……そんな」
「少年。理解したよ。フフ。勝つために、何が必要か、ということを」
そう言って富豪は微笑む。
「ぐ。ぐぐ……」
さあ、味わってほしい。ここからが、醍醐味。
ギャンブルの醍醐味である!