幸運のバニーガール
意外だったのはこの国にも電気があったことだ。いわゆる街灯のようなものは存在していなかったのだが、一般の民家はさておき、居酒屋などの店はわずかながら電燈を思わせる明かりがともっていたから。そして、その中も同様だった。通行人に場所を聞いてたどり着いた場所。
「まったく、剣と魔法にペガサスやドラゴンまでいる世界に至っても、おれがやることは変わらないんだな」
もう日も落ち街中からは人の気配が消え始めていた時間帯に合って、その中は昼の街中以上の活気があった。あるいは悲鳴や笑い声なんかも轟いている。カジノ。そう言う施設。
設置されている電燈は、やはり日本ほど発展してはいないようで、薄暗かったが、まあ何とか見えない暗さと言うわけではない。逆にこの薄暗さが、カジノの雰囲気をよりたしからしいものにしているという気さえする。
「やっほー、お兄さん、見ない顔だね。外人さんみたいだし、観光かな?」
そうして入り口に立ち店の雰囲気に浸っていると、置くからやってきた巨乳のバニーガールのおねいさんがそう言って話しかけてくる。
「ん、ああ、まあそんな感じかな」
「わたしはバニーのカーネリア。よろしくね。お兄さん。よかったらうちのカジノの説明するよ!」
「あ。ああ、ありがとう。そうしてもらえると助かるよ。初めてきたもんで」
そういうわけでカーネリアにカジノの中を案内してもらう。どうやら中でやられている種目は多くの場合がカードゲームのようだった。あとは10面ダイスを使ったようなもの。
カードについてはこっちの世界のトランプに似ているようだったが、種類や数が異なっており、ルールも少し複雑で、なじみのない分難しそうに思えた。そもそもカードを使ったゲームは複雑なルールを覚えなくてはいけないという点で、現実世界のポーカーやバカラもそうだが、知らない者には敷居が高いゲームとなっている。
たいしてダイスの方は単純なものだった。
赤色のものと青色のものがあり、それぞれ1~10の数字が書かれている。ディーラーがそのサイコロを振り、客は赤と青、どちらのサイコロの数字が大きくなるかを賭けるというゲームだそうだ。配当は単純に2分の1。数字が同じだった場合は客の負けということらしいから、単純に10分の1の確率分、10%が控除、つまり店側の儲けとなるようである。例えば現実世界のルーレットの、赤と黒にかけて2倍だが、0,00という、どちらの色にも含まれない目がある、と言うのに似ている。
ちなみに、数字が同じになるというものにも賭けることができるらしく、その場合の配当は9倍で、ほぼ赤か青に賭ける場合と同じほどの返しということになる。
これならルールも単純だし、燿一もすぐに理解することができた。しかし、単純なサイコロならば運否天賦。燿一は麻雀のような比較的実力による重みが大きいギャンブルの方が得意であり、単純に運で決まるような勝負は当然のことそれほど得意とはしていないし自信がない。しかし馴染みのないカードのルールを覚えて勝負するにも今からでは。
「おにーさん」
サイコロの台の前で考え込んでいると、バニーのカーネリアがひょこっと顔を覗かせてくる。
「どう? ルールわかった?」
「ああ。カードの方は無理だけど、サイコロの方はわかったよ。ありがとう」
「うん。なら、はい」
ニッコリ笑いながらカーネリアはそう言って手を出してくる。
「うん?」
「うん!」
「うん?」
「……あは!」
「うん?」
「……ねえ!」
燿一が首をかしげているとカーネリアはムスッと頬を膨らませて睨み付けてくる。
「えっと?」
「チップよ。チップ。あのさあ、アンタどこの田舎もんよっ! チップくらいよこせって、こんなことあたしの方から言わせんな、バカ! 察しろっ!」
「あー、チップねー」
そう言って進一はポケットに手を当て財布を……。
「あ」
というか……。
カジノを見つけたという事実に有頂天になっていたが、そもそも燿一は無一文である。と、なればそもそも、ギャンブルが得意とはいえ、最初の一回を賭けることすらできないではないか。
「……ねえ、チップくらいケチってたら、幸運の女神さまは微笑まないよー。わかるかなー?」
「お姉さんっ!」
ガシッと燿一はカーネリアの肩をつかむ。
「はひ! いきなりなに!」
「いや、美人のお姉さんっ!」
「はあ?」
「いや。まさか異国の地でこのような絶世の美女に会えるなんてぼくはなんて幸運なんだと、つい、我を忘れてしまった次第であります。あなたは幸運の女神は微笑まないと言いましたが、違います。ぼくにとっての幸運の女神は今まさに、あなたなのですよ!」
「なに言ってんの!」
「いや、聞いてください。少なくてもこの瞬間、ぼくの女神はあなたなんだ。なぜならばこれは奇跡の出会いだから。ありがとう、出会ってくれて。だからぼくのために微笑んでください」
「な、なになに、いきなり……あなたバカなんじゃ」
「だから女神さま、お願いです。お金を貸してください」
「……」
「……」
女神さまはきょとんとした表情で燿一を見つめている。
「……」
「……あの」
「……」
「えっと」
「ぷっ!」
そうしているといきなりカーネリアはアハハッと笑いだす。
「なに、アンタ。どういうこと? 普通バニーに金貸せなんて言いだす!? しかも負けがこんで無一文になったってならわかるけど、なんでお金持たないでカジノにきてるわけ。しかもアンタ、旅人でしょっ! どうすんのよ無一文で、今日の宿! それとも宿代ギリギリだからカジノで遊ぶ金はないってこと」
「いえ、ガチで無一文です。そして、まあ、なんとかなりますよ。金さえあればおれは勝ちます。今日の宿代、いや、当面の宿代と、そして飯代。それを稼がなきゃ……」
「偉い自信ね。自分の国ではけっこう稼いできたの?」
「まあ。そんなところです」
「アハハッ。わかった。わたしギャンブルは嫌いだけど、って、こんなのカジノ勤めのバニーが言っちゃダメだけど、わたしはギャンブルが嫌い。だけどここ一回だけ賭けてあげる。きみにね。はい」
そう言って胸に手を当てるとそこから一枚のコインを取り出して燿一に手渡す。
「一枚だけあげる。コイン一枚。これ一枚で10シェル分。ちなみに、やっすい宿でもだいたい一泊300シェル必要だから」
「ありがとう。十倍にして返しますよ」
「アハハ。期待してないけど、がんばってね」
というわけでコイン一枚をもらう。
さてと、とりあえず今日野宿を防ぐにはこれを30倍以上に増やさなければいけないわけだが……。