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剣と魔法とルーレット  作者: わっふる
第一部.エルバイト王国編
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首都、リューゴクシン

 行商人に理由を告げると、快く燿一を首都まで送り届けることを了承してくれた。そして旅がてら彼にいろいろな話を聞かせてもらった。この世界のこと。どうやらこの世界にはドラゴンがいて、ペガサスがいて、さらには魔法なんていうものも現実として存在しているらしかった。ただし魔法は一部の王族の人間にのみ与えられた力で、一般市民は使うことはできないそうだが。


 魔法、というのも現実なのか。あるいは、何らかの科学的な要因によって説明できる技術を、魔法と称して人民を支配するために利用しているのか、そのどちらかはいまだ確認できなかった。しかし、あの生物。ドラゴンなんかが現実にいる、と言う点は事実であって……となると、魔法も。


 まったく辟易してしまう。なにがどうしてどうなって、自分は今ここにいるのか。



「なあ、きみ、もうつくよ」

 荷台の入口を開きながら行商人の男は中にいる燿一にそう言う。


「見てみなよ。首都リューゴクシン。初めて見るなら圧巻だぞ」


 言われて燿一は立ち上がると荷台から顔をだし前方を見る。


「うおおおっ!」


 目の前に入ってきたのはそびえたつ巨大な壁だった。高さは五メートル以上あろう。それが視界の続く限りずっと続いている。あっちの世界の建造物と比べてもまったく見劣りしない、いやそれ以上に驚くべきほど巨大な建造物である。



「リューゴクシンはかつての災厄の時代、魔王の居城に最も近い国だったからね。そのときに各国の協力で設計した、この首都すべてを覆う城壁は、今も健在なのさ」


「魔王……って」


「ん? ああ、もう二十年も前になるからね。きみくらいの世代になるともう知らないのかい。どこからともなく現れた魔族によって世界が混沌に陥れられていた時代、最悪の戦禍の時代だよ。だが魔王は討たれ、世界は平和になった。いや、平和と言うのはいささか疑問が残るところではあるかもね。魔王亡きあと、では世界は平和になったのか? あの頃はすべての国家が協力関係にあったが、どうしてかすべての国は今でもあの災厄の時代以上の軍事力を維持しようとしている。その相手として認定しているのはべつの国家……。フフ。今や人間同士で戦争が起きるかもしれんと言う時代さ。魔王のおかげで我々人間は一致団結することができていたんだよ。まったく笑えない冗談ではあるけどね」


 魔王。まったく平時なら失笑してしまいそうな単語だが、しかしうなずける。あの村の文明レベルからは想像もつかないほど、この国の、軍事に傾ける発展度は高い。それが魔王というかつての戦禍の名残であったとしたら想像もつく。


 はたして魔王が、本当にそう言う類の存在なのか。あるいは、姿形の少し違う異人を、そう称して戦争を繰り広げたのかはまだ疑問の余地があるところだったが。



 そしてしばらく行くとやはり五メートルは在ろうかと言う巨大な門が目の前に現れる。門の前の塔の中に駐在していた門番のような人間に、行商人は自分の身分を告げると、なにやら文字の書かれた小さなカードのようなものを手渡される。


「ほら、きみ、これをなくすんじゃないぞ」

 そう言って行商人は燿一に一枚のカードを手渡す。


「なんですか、これは?」


「ビザだよ。この国ではね。国民として登録されていない人間の内、それを持っていない者はすべて奴隷として扱われるのさ。なので行商人や旅人はここでビザを発行してもらい国内に入るのだよ。それをなくしてしまったら、もう中で何をされても文句は言えないし、二度とここから出ることもできないだろう。あるいは、中には市民権を持たないスラム街の人間たちもいる。そう言う人間たちの中にはビザを盗もうとしてくる輩もいるだろうから、絶対に気を付けて。夜はひとりでは出歩かないようにしなさい」


「奴隷って……この国では、未だ奴隷制が残っているんですか?」


「……多くの国ではそうだろう。この国だけに限った話ではない」


 奴隷。胸糞悪くなる話だ。しかも、こんな一枚の紙切れ。これだけが人間の身分を証明できる所以なのである。この紙がなくなったら、拉致され奴隷として扱われるようになったとしても、文句が言えない、なんて。


「まあ、その気はないだろうけど、永住したい場合は、外務館にいって、条件をクリアすれば市民権を得ることもできるが、まあ、関係のない話だね」


 そうこうしているうちに巨大な門がギギギと音をたてて開かれる。そしてその先に広がっていた情景。


「うおおっ!」


 思わず声を上げる。道はすべてレンガによって舗装され、村とは違いかなりきれいな外観の建物がずらりと並んでいる。道行く人たちもどこか整然としていて、その人の多さも華やかさも、まったく村とは異なっていた。


 ここには平和がある。独自の文明も……。



「では、わたしは商会の方に行くよ。すまないがずっときみに付き合っているわけにもいかないのでね。この道をまっすぐ行けば城につく。そこで事情を説明し、国に帰る手筈を探してもらいなさい」


「は、はい。ありがとうございました!」


 とはいえ……それも現実的ではないと今は思う。だってこの国は……。自分のいた場所は、きっと……。


 まあ、魔法と言う不可思議が現実に存在していて、そして異世界と行き来できるような力が存在しているのだとすればそれもまた、別、であるのだが。はたして……。



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