表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とルーレット  作者: わっふる
第一部.エルバイト王国編
30/49

踊り子

 そして約束の日の正午。ポルダーバール卿は大行列の戦士団を引きつれ約束の場所にやってきていた。


「ブヒュヒュヒュヒュッ!」


 ダンジョンの入り口で待っていた先客を見て、ポルダーバールは楽しそうに笑う。


「まさかひとり、とは。どうした? 勝ち目がなく、あの奴隷どもには愛想を尽かされたのか?」


 そこに立っていたのは燿一ただひとりだったのである。



「っ……そんなわけないだろ。彼女たちは、ちょ、ちょっと寝坊して遅れてるだけだ!」


「ブヒヒヒッ! まあいい。負けたらしっかり用意してもらうからなあ。全財産と、あの二人の身柄。ブヒュヒヒヒッ!」


「そっちこそ。おれが勝ったらちゃんと」


「ブヒブヒッ! 予はそこらの凡俗とは違うのだよ。一度決めた約束は、きちんと守る。ほれ、ちゃんと一行の中にも連れてきているぞ」


 そう言ってポルダーバール卿は一行の中にいた一人を手招きして呼ぶ。



「――く!」

 現れたのは、胸と股を少しばかりは隠せているもののほとんど裸同然と言う格好で歩かされている華奢な少女の姿だった。


「ヨーイチ……」


 そんな少女は恥ずかしそうに震えながら、瞳に涙をいっぱいにためながら、そして視線をそらす。見ないで、と、悲痛の訴えがそこにはあった。


「この……」

 思わず握りしめた拳を、しかし必死に理性で押さえつける。


「ブヒャヒャヒャ! 彼女は踊り子として旅の一行に加えることにしたのだよ。何の力も持たない奴隷なのでね。ほれ」


 そうしてパンッとポルダーバール卿は手を叩く。そうするとビクッと体を揺らしたルチルは、しかし不慣れながら腰を振りながらその場で踊り始める。そのたびに布切れがはらはらと舞いあがり、彼女の頬には涙が伝った。すすり泣くような彼女の泣き声と、ポルダーバールの耳につく笑い声だけが、高原には響き渡っていた。


「やめろっ!」

 思わず燿一は怒鳴り声を上げる。


「なんだ? キサマ、予が予の奴隷を躍らせることに、文句をつけようというのか?」


「……い、いえ……すみません。そうじゃなくて、もう約束の正午になったんだ。早く、ゲームを初めましょうよ」


「とはいえ貴様の従者はまだおらんではないか」


「……すぐきます。到着次第俺も向かいますよ。それにどうせ、ダンジョンに入るときは五分開けないと、別のダンジョンに変化しないでしょう?」


「ブヒャヒャヒャ。では先に向かわせてもらうとしよう」

 そうしてポルダーバール卿は戦士団を引きつれてダンジョンの中へと入っていく。



「なるほど。聞いてはいたけど、想像以上のゴミ野郎だな」


 その一行を見つめ、小さく燿一はつぶやく。いや……。


「スレイプニル……」

 そうつぶやく、その瞬間、そこにあった燿一の姿が掻き消える。そして、一行の最後尾、その戦士の背後に現れていた。


 そう。アイリスである。



「ふっ!」

 そして懐から抜いた棍棒で、頸椎を一撃殴りつける。


 いくら屈強な戦士と言えど、急所に対する意図せぬ一撃は、一瞬にしてその意識を奪い取る。


 戦士はずるりとその場に崩れ落ちる。


「ドヴェルグッ!」


 そして、その顔にアイリスは掌を当てる。その瞬間、その顔、姿、格好が、戦士のものと同じになっていく。


「……そのまま家に戻っていろと言われたが。クック、わしもあのクズの驚愕した顔が間近で見たくなったわい」


 低い戦士の声でそうつぶやいて、そして一行の後ろに何事もなかったように続いていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ