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剣と魔法とルーレット  作者: わっふる
第一部.エルバイト王国編
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新たな生活

 コロシアムの一件からすでに二週間が経過していた。


 燿一は勝つはずもないと思われていたセレナに、借金して集めた全財産を賭けることで、九億シェルと言う莫大な利益を得ることができたのである。さらに、国家にそのうちの一億シェル献金したことで永続市民権ばかりか、政治や選挙等あらゆる権利において一市民より有利になる貴族権まで保証されたのである。さらに最高議会委員の一人であるトリディマイト卿の口添えもあって、国政の中心人物たちとも会話をする機会を得ていた。


 しかしその結果、元の世界に帰る方法がないという事実が浮き彫りになってしまったのである。少なくてもこの国家にはその方法はない。



「なるほど、なかなかいい家ではないか」


「まあ、新築じゃあないけど、すげーお買い得だったからさ。25万シェルだぜ。って、そう考えると俺って超大金持ちになっちまったんだよな」


「フフ。わたしさまさまだな」

「まーね」


 というわけで本気で自らの世界に帰ることを考えたら、この国にとどまる理由はないのだが、とはいえ、まだセレナの傷も癒えていないし、旅を行うのは危険すぎる。ということで、サウスストリートに一軒家を購入したのである。安く売りに出されている家で、25万シェルで購入することができたのである。六畳ほどの部屋がふたつに、キッチンのみと言う質素な作りではあったが、住いで贅沢をしようとは思わなかったしちょうど良いだろう。


「ああああー! やっぱり、ヨウイチくんだ!」

 と、初の我が住居に足を踏み入れようとしたとき、いきなり後方から叫び声が聞こえたのである。


「ん? って」

 振り返るともっとも会いたくない人物がそこにはいたりしたわけで。


 だが、そんな燿一の感情とは裏腹に、その人物は思いっきり燿一に抱きついてくる。


「うわ」

 当たってるっ! 胸……でかい、これはっ!


 チラッとセレナの方を見る。


「な、なんだ、ヨウイチ! 今比べなかったか、なにかを!」


「い、いえ、そんなことないですよ。うん」


 しかしセレナはじとーっと疑うような目で燿一を見つめている。



「っていうか、カーネリア、おまえさー。よく顔出せるなー」

 カーネリアである。燿一から全財産をだまし取った憎き女なのだ。


 ハアッと燿一はため息をつき、抱きついきたカーネリアを押しのける。


「ごめんね。わたしあのとき、弟が病気で。どうしてもお金が必要で。本当にごめんなさい……いくら謝っても許してもらえるとは思えないけど。うるうる」


 とかなんとか言いつつ涙目を浮かべてくる。


 さすがにバカじゃないよ?


「だからごめんね!」

 とか言ってまたいきなり抱きついて来ようとするのだが。


「ヨウイチから離れろっ!」

 その鼻の先に刃が突きつけられる。


「っ!」

 キッとカーネリアはセレナを睨み付ける。


「あんた、なに? ヨウイチくんのなんなの?」


「わたしはヨウイチの剣だ。この方に害成す存在なら、躊躇わずに斬るっ!」


「なーに。……ふーん。そっかー」

 カーネリアはジロジロとセレナと燿一を見て、納得したようにうなずく。


「ヨウイチくん奥手そうだったもんねー。落としちゃったわけかー。でもさー、なんでこんな女にー。胸もないし、ブスだし、腕だってごつごつ、傷だらけだし、胸もないし、こんな女に骨抜きにされるなんて」


「き、きさまっ」

「カーネリアッ! なに言ってんだおまえ、セレナはどう考えても美人だろ。なあ?」


「え! そ、そうかな?」

 燿一がそう言うと、セレナはわずかに頬を赤らめうつむく。


「ああ。たしかに胸はないけど、どっからどう見ても、美人だ。超かわいいだろ。どう見たらブスだなんて思うんだか。まあ胸はたしかにない……」

「おい」


「あの、セレナさん? なんでいつの間に剣先がぼくの方に向いてるんでしょうか? どくどく。ってちょっと額に刺さってるんですけど」


 よくわからないが、胸がないことを気にしているのか? ふむ。今後平穏な生活を送るためによく心にとどめておかねばなるまい。って言うか真剣を向けるほどかよ。


「で、きさま、なにをしにきた。聞いているぞ。盗人猛々しいとはまさにこのこと!」


「ってー。だから、ヨウイチくん! 弟が病気で、本当にしかたなく。ずっと謝りたいって、そう思ってたんだよ。それにほら、ちゃんとお金も持ってきたんだ。返そうと思って」

 そう言ってカーネリアは硬貨が入った袋を燿一に手渡してくる。


「いや、今さら感マックスなんですけど……今さら三万シェル返ってきてどうしろちゅうねん! っていうかおまえ知ってんだろ。おれがコロシアムで大当てして、億万長者になったのって、貴族層だけじゃなくて市民層にも結構噂として広まってんだぞっ!」


「え? 億万長者? きゃっ! 初めて知ったわ」


 おいおい。



「はあ。まあ、いいや。セレナとりあえず家の中入ろうぜ」

 このまま話していてもらちが明かないと思い、燿一はそう言って家の中へと入る。


「ヨウイチくんー!」

「カーネリアも入れよ。立ち話もなんだろ」


「おおー。わかってんじゃん、ヨウイチくん」


「ヨウイチッ! なぜ、この女を!」


「まあいくつか気になることもあるしな。それに、どうせ、することなくてヒマだし」

 と言うわけでカーネリアを家の中へと通すのだった。



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