貴族
そして、数日が経った。
そこは医療施設の一部屋だった。
「やあ、セレナ」
目を覚ましたベッドで眠る少女の名前を、燿一は静かに呼んだ。
「こ……ここは?」
「貴族ご用達の病院らしい」
「病院? バカな……。闇医者ならともかく、わたしは自らの入国ビザを破棄して、貧民街の出だと称してコロシアムを襲ったのだ。つまり今のわたしには市民権はない。病院などに来れるゆえんも……」
「おれの市民権を使ったんだ」
「なに?」
「国に一億シェルばかり献金したら、永続市民権と貴族権をくれたよ。外国人で貴族権をもらえることはほとんどないらしいんだけど、まあ、献金額が相当だし、トリディマイト卿も後ろ盾になってくれたしね。貴族権があれば合法的に奴隷を所有することができるから、奴隷ということにすれば市民権亡き者も、病院で見てもらえるんだ」
「わたしを購入したのか? どこからそのような金が」
「ごめん……調子のいいことを言っておれはセレナのことを利用していたんだ」
「どういう意味だ?」
「セレナの試合、おれはセレナに金を賭けていたんだよっ! あれはエキシヴィションマッチ。西方の選手が勝つわけがないと思われていたから、多額の勝ち金を得ることができた。おれはきみを利用したんだっ!」
思わず燿一は心情を吐露する。最低なことをしたのはわかっているのだ。命の恩人を、まして金儲けの道具として利用するなんて。
「……フフ。なにを気に病むことがあるのか。あなたはわたしの勝ちに、賭けてくれたと、それだけのことだろう」
違う。違うのだ。そうじゃなかった。
最初から、燿一は儲けることしか考えていなかった。あの時天啓が走ったのは、セレナを利用することで多額の利益を上げることができるのではないかと、そういうことだったのだっ!
「……まあ、あなたがわたしを利用したのだとしても、そんなことはどうでもいい話だ」
そう言ってセレナはベッドに手をつくと、苦痛に表情をゆがめながら半身を起こそうとする。
「だ、ダメだっ! きみの体は、何度も受けた衝撃で脊椎が傷ついているし、ましてその両手は、動くかどうかも危なかったくらいだったんだ! 手を使っちゃだめだ。肩だって!」
「よいよ。わたしは戦士だ。死んでいなければ戦える。そして、あの時あなたの助言がなかったらわたしは死んでいたのだ。そしておあつらえ向きだ。わたしはあなたの奴隷というわけだな、今は。フフ」
「奴隷なんてやめてくれよ。おれはそう言う身分とか知ったこっちゃないと思ってるんだ。ましておれの世界にはそんなものはなかったし」
「いいんだ。わたしも一介の戦士だ。わたしの命はあなたのものだ。今後はこの命、あなたのために使わせてくれ。あなたの従者として、あなたの剣として」
そう言ってセレナは、苦痛に表情をゆがめながら、燿一の手に、包帯だらけの自身の手を重ねた。
「セレナ……だけど、おれだって一回セレナに命を救われているんだ。だからおあいこじゃないか。おれもきみもお互いの命を救いあったんだ。だから、上下関係なんてない、従者と主じゃない。対等な立場として、隣にいてほしい」
そう言うと少し驚いた様な表情をセレナは作った。
「おもしろい人だな、きみは」
そうして微笑む。その笑顔を見ていると、だから少しくらいは、救われたとそう、思った。
コロシアム編はこれで終了です。ひとまず一区切り。
燿一くんは、こうしてコロシアムで成功して、富豪層の仲間入りを果たしました。
九億シェルはこの国において一生遊んで暮らせるだけのお金です。
これからはセレナとのんびり仲良く暮らしていけばそれでもいいのですが、そういうわけにもいかないのは燿一くんのギャンブラーとしてのサガでしょう。
次章からは魔法や幻獣など、この世界特有のファンタジーを生かした戦いやギャンブルをやっていこうと思ってます。
今までのストーリーは、異世界ではなく、過去の世界にワープした、とかでもやれる内容になっていたので。
感想や評価お待ちしてますので、よろしくお願いします。




