魔法石
トリディマイト卿の口添えで高等ビザを発行してもらい、中央エリアにあるトリディマイトの邸宅へと赴く。
つくと三十人からなる美人のメイドさんが、おかえりなさいませご主人様とあったものである。いやはやなんとも。
「フフ。我のあまりの富豪っぷりに驚いているようだな。なんで高等議会院委員が、あんなカジノなんかで、と。……実はな、あんな下民どもが行くようなカジノに赴く必要は実はないのだよ。まあ、それでもわたしはああ言った賭け事も好きでね。まあ、完全に趣味の一環だな。まあ、かけたまえ」
そういうわけでリビングに通され、席に着く。そこで燿一は、自分の身に降りかかったすべてのことをトリディマイト卿に話す。
「ふ、ふむ。なんという……にわかには信じられん言葉だ。それではまるで、まるで異世界。ここではない世界からきた、と言うべきではないか!」
「……そうです……。ぼくも信じられませんが」
「しかし、そう解釈するよりほかはないだろう。百年前ならいざ知らず、今やこの世界に未開の地などない。この世界のすべての大陸はすべて何らかの国家の支配下にある……。きみの暮らしていたニホン、小さな島国程度ならその存在を知られていないとしても不思議はないが、アメリカだの、チューゴクだの、きみの言う大国がひとつも我々の知り得ないものであるというのは異常だ。ありえない……ありえるはずが」
「そう! ……ありえないという話で少し……。その、ぼくの世界には、ドラゴンだの、ペガサスだのと言った生物はいないんです。あんな大きなものが空を飛ぶなんてありえないというか」
そうだ。ありえない。ありえるはずもない。現実世界でも鳥や昆虫は空を舞う。しかし、それとドラゴンやペガサスが空を舞うのとでは全く次元が異なる話しなのである。例えば現実世界で、馬に翼が伴ったとして、絶対に空を飛ぶことなどできない。なぜならば重さが違うからだ。鳥は徹底的に体を軽量化することによって飛ぶことを可能にしている。馬に翼がついたって、飛ぶことなどできない。それは例えるなら鶏だ。翼がついていたって、体が重すぎて飛べるはずがないのだ。かりに飛ぶとしたら徹底的に他の無駄なパーツを省く必要がある。具体的に言えば、地面を走れるような四本の脚などいらないっ! 飛ぶのにジャマ! 重すぎる。だから理論的に馬に翼をつけて飛ばそうとしたら、結局、前足二本をなくし、さらには後ろ脚ももっと軽くして、立つことがやっと程度のひょろひょろなものにしないと……つまり、翼のはえた馬と言うより、ただの馬面の鳥! そこまで体を変革するしかない。
四肢の足で力強く大地を踏みしめながら、翼をはためかせ飛ぶことなど、生物的にありえない。だとしたらそう言う生物がいる以上、魔法と言う科学では証明できないなにかを認めざるを得ないのか。
「幻獣は、我々人間と同じように、大地のマナの力、つまり魔法を利用して飛んでいるのだ。空を飛ぶ幻獣種は生まれながらにして体内に風の魔法石を生成する」
「待ってください。我々人間と、ということはやはり、人間も魔法を」
「ふむ。王族の極めて一部の人間だけ、だけれどね。ドラゴンやペガサスのように、王族の系譜はその血に魔法石を作り出すのだ。ゆえに王族は自らの体内に宿る魔法石を発動させることで魔法を使用できる」
やはり魔法というものはこの世界には存在しているのか。体内に宿る魔法石。王族の体にはそれが生成されるのだという。そして王族の血を引く者には、またそれが……。
そしてそれこそが、ペガサスなんかが科学的法則を無視して飛ぶことができる理屈なのだ。体内に存在する魔法石の力によって空を飛ぶ。王族も同様なのだ、と。
「それで、だが。たしかに別の場所に移動するような魔法石もある。例えば、スレイプニル系魔法石だ。しかし、それでも一瞬で飛べる距離は、大したものではないのだ。せいぜいで数十メートル一瞬で移動できるというだけの力で、大陸間や国家間、まして異世界へ飛ぶことなど……」
「そう、ですか」
ある程度わかっていたことだった。異世界へ平気で飛ぶことができるような技術がこの世界で発達しているのなら、もっと燿一の世界の文明や技術力を、すぐに盗んでもっと発展しているはずだからだ。この世界が燿一の世界より文明レベル的に劣っている以上、それはすなわち燿一の世界に行く方法がないということを意味しているのである。
少なくても人智において掌握できる範囲ではない。偶発的に行えるという可能性は否定できないが、自由に行き来する方法など存在しているはずもなかったのである。
「まあ、気を落とすな。少し我の方から議会の方でも話題を出してみよう。きみさえよければ、ビザではなく、市民権を発行してやることも可能だよ。異世界からきたというのが本当であるのなら興味深い話も聞けるし、王政にも少しはプラスになろうというもの。きみの知的能力、とくにカジノで見せたあれは、相当のものであったと我は思っておるので、ね」
「……おれは、そんな。なにも、ただギャンブルが好きなだけです」
そう言って、燿一は首を横に振る。
「……ふむ。そうだ! どうだ? 中央にもギャンブル施設があってね、よければ一緒に行かないかね?」
「ギャンブル施設ですか?」
「そう。カジノよりもよりスリリングでね、貴族の中で大変流行っている施設なのだよ。その分一度に動く金もでかいが、まあ気晴らしにはもってこいだろう。またきみの手腕を間近で見てみたいものだしね」
「……そう、ですね。ありがとうございます」
元気づけようというトリディマイト卿の気遣いに感謝しつつ、燿一はまた立ち上がる。




