9話 過去の代償
その日の夜、御影は寝苦しい夜となっていた
額に大粒の汗を浮かべ苦悶の声を押し殺しながら身体を丸める
布団を握りしめその苦痛に耐えようとするがそれでも収まりはしない
それはいわば日常的に起こる呪いなのだ
憎き男が御影につけた呪いなのだ
御影はベッドの近くにあるサイドテーブルの周りを荒々しく探り青色のキャップがついた錠剤入りの小瓶を手にする
御影はそのキャップを取り二錠ほど出すとそれを噛み砕きもせず飲み下した
それでもすぐには効かず数刻の間、胸の中心の服を握りしめる
そしてようやく苦痛がようやくおさまった時御影の部屋を訪れる者がいた
汗で髪が張り付き顔中から脂汗を流し肩で息をしながら訪問者の顔を髪の隙間から見る
「随分と苦しそうだな。御影」
澄ましたような顔でやってきたのは天垣・司朗だった
しかし今の御影には余裕もなくそのすました顔さえもイラつく原因となっている
「そう、思うならもっとましな薬を渡せよ。天垣」
「それ以上の薬を投与すればもはや呪いによる苦痛か薬物による苦痛かわからなくなる」
天垣はライアンクリエイター社と言う魔術霊具を作り出す会社の社長であり同時に魔術を使った魔術先進医療ができる世界有数の名医である
御影が今日、正しい時刻で言えば昨日渡したあの魔術霊具はそうした魔術概念医療を世界に浸透させるために作りだしたものの一つだ。決して体に傷をつけず手で医療をするというものだ。勿論、別空間作り出し大きさの比率を変えて様々な腫瘍を取り除くものである
しかしそれでも天垣にはできないこともある
「お前の胸に入っている物は取りだすのに無理がある。うまくしたもんだとも褒めてやりたいさ。大動脈にめり込んでしかもそれがうまく止血の役目をしている。もしはずせば一発で大出血、死ぬぞ?」
「は、こんな苦痛を毎日背負うくらいならましだ」
「しかしお前も運が悪いな。これは元から術式が編み込まれてお前にこの苦痛を与えている。しかも最悪なことにかなり強い魔力がお前の中に流れ込んでいる」
天垣はそう言いながら御影の右腕を見る
「ロキ・・・・か」
「そんな恨めしそうな声を出すな。少なくともそれに術式が反応しておそらく苦痛を底上げしているんだろう」
「くそ・・・・!!」
「まあ、この苦痛を回避する方法はなくもない。降神契約を使ってな」
「どうやってだ?・・・・」
掠れ気味の声でそう天垣に聞く
「簡単だ今、苦痛が大きいのはその胸の中に入っている術式が消されかかっているからだ。だからこそ術力を上げ消されないようにしている。なら話は簡単だ。今以上の魔力をお前が加えこんだらそれで万事OKだ」
「だが俺は―――――このざまなんだぞ」
そう言いつつ御影は額に張り付いた髪をかき上げるようにしてどけた
「確かに、今の君が出している汗は脂汗だ。だが君は夢見が悪いわけではない。ならおのずと答えは見つかるだろう」
「俺の体が悲鳴を上げているってか?」
「そういうことだ。さすがに術式だけでも解術できればいいんだが、どうやってこの高度な術式を解術すればいいかわからないんだ」
「俺が死ぬか、あんたが先に解術を見つけるかの勝負だな」
「残念ながら君は死ねないよ」
「・・・は?」
「まあ、言葉を間違えた。その術式でできるのはあくまでも精神と肉体を乖離させるものであって直接心臓を停止させるだけの力は持っていない。まあ、それでも植物人間になる事はあるだろうね」
そう言って天垣は御影の部屋から出て行った
「植物人間か・・・・・」
生きてるより辛いことだよなそれって、と頭の中でそう呟く
天垣が出て行ってから数分、御影はただぼんやりと天井を見つめて
「それになりたくなかったらあいつから強い魔力をもらう必要があるのか――――――」
それはつまり簡単なことであいつと確かな絆を生み出すことによってそれは可能になるのだ。しかしあいつが今ここにいる理由はおそらく前異能者の姉のことを知りたいからだろう。それ以外にあいつがここに残る理由はない。だとすれば真実を知れば御影との契約を強引にでも切りにかかるだろう。最初の印象も最悪だったしそんな相手と絆を作り出せというのはいささか御影にとってはハードルが高かった。まして相手は女であり気遣い方一つで良くも悪くもなる
御影は夜のこのこと以外でさらに気がかりができてしまったという風にため息を吐いた