8話 割り切れない過去
御影が自室に入ってすぐにドアがノックされる音が聞こえた
「誰だ?」
「私だ」
こんな肩苦しい言い方をするのは一人しかいないためすぐに解った
御影は入れと言ってベッドの前まで言って腰を下ろした
「失礼する」
一様、前回の記憶。つまり鳳欧・茜の時の記憶が残っているのだ。なのでこの世界のことに関することは大体を理解しているのだろう
入ってきたロキの姿はあまりにもラフな格好だった
上は薄手の半袖のしゃつに、下はハーフパンツというものだ
彼女もさすがに男の前でこのような格好をするのは恥ずかしいのか太ももをよじったり自分の姿を隠そうとして腕を腰にまわしたりとそれを見ているだけで変な妄想に取り込まれそうになる
御影はそんな邪なことを考えていてはさっきの二の舞だ、と思いすぐにロキがここに来た理由を言う
「で、聞きたいことがあるんだろ?」
御影がそう言うと、ロキは驚いたように眉を上げてからああ、と呟いた
「一つは鳳欧・茜に関してだ。お前とはどういう関係だ?」
つまり俺の名を知っているわけだ
「お前と苗字は同じだ。つまりお前と鳳欧・茜は血縁者である。違うか?」
御影はただ目をつむり肯定の意味で首を縦に振った
ただ目をつむった瞬間、彼女の最後の瞬間が浮かび上がって気分が悪くなる
「鳳欧・茜は俺の姉だ。優秀なのはお前がよく知っているだろ?」
それを聞くとロキは間髪いれずに頷く
「ああ、だがそんな彼女がなぜ急に死ぬんだ?病気だってあのときは――――――」
「確かになかった。それは俺でも知ってる。でも死ぬ方法なんてたくさんあることくらいこの世界の記憶があるお前なら解るだろ?」
御影は敢えてその言葉を自分の口から出したくないが故に相手に遠まわしにそう質問した
「まさか―――――」
ロキの顔が蒼白になっていく。まるで昨日の自分を見ているかのようだ
流石に二歩、三歩後ろによろめきだしたのを見てベッドから立ち上がる
「自殺――――――したのか?」
そう御影に問うてきた
「いいや、違うが・・・・・」
そう御影は否定するがそれ以上答えることはできなかった。使者の中で最も後悔することは異能者を守れずに死なしてしまうことだ。守るべき相手が守れなかったなど使者でなくとも後悔の念にさいなまれるだろう。だが逆に真相を知っている御影はその真相を話せば落ち着くとも考えたがそれは同時に爆弾に火をつけるとも同意義のことであった。
御影は倒れかかったロキを身体で受け止めた
「今はゆっくり休め。思考が追い付いていないだけだ。昨日のこともあるんだ」
そう言ってロキに言い聞かすとそれもそうだと言わんばかりに御影の手の中で気を失った
御影はそのまま彼女を抱きあげて今しがた使おうとしていた自分のベッドに寝かして布団をかけた
「そうさ。ただ思考が追い付いていないだけだ。数年もすれば割り切れるのさ。いや、割り切れないといけないんだ」
御影は罪悪とも憎悪とも取れる感情を奥歯で噛みしめながらリビングのソファーに向かった
そして御影はソファーに身を投げ出してそのまま仰向けになると眠気が襲いそのまま闇に意識が落ちて行った
◆◇◆◇◆◇
「――――――んがっ!!」
いきなり顔の上に落下物を感じ御影は奇妙な叫び声とともに目も覚ました
「こんなところで何してるのかな?影兄」
その声を聞き御影は手で顔の前にある落下物をどけつつ起き上がって声の方を向いた
「夕奈。なんだ?どうした?」
どうやら自分の顔の上に落ちてきた落下物は夕奈が先ほどまで言っていた買い物袋だったらしい
「ロキちゃんを部屋であんなことにしておきながら影兄は何をやっているのかなって」
「あんなこと?・・・・」
全く見の覚えのないことを言われ御影は首をかしげるほかなかった
しかし御影が全く解っていないということを知ると夕奈は顔を真っ赤にしながらしどろもどろになり
「そ、そりゃ、ちょうど私もいなかったし・・・・・・・影兄もそういう年頃だから、抑えられないのは、無理ないと思うけど――――――」
最後の方は小声になりよくは聞こえなかった
「は?全く意味が解らないんだが・・・・・」
御影は怪訝そうな顔をしながら夕奈に再び問いかける
だから、と夕奈も意を決したように顔を思いっきり真っ赤にして
「影兄の部屋でエッチことしてたんでしょ!!」
その叫び声と同時にソファーの上に座っていた御影がバランスを崩して倒れた
それもその筈、いきなりそんなことを言われたら誰でも動揺するしかない
「ば、ばばば、馬鹿言うな!!誰が会って二日三日の女に手を出すか!!」
「二日三日じゃなきゃ手を出すんだ」
と夕奈は軽蔑の視線を御影へと向ける
確かに中学時代は容姿ゆえにチャラい男とも見られよく喧嘩を吹っかけられたり女子から軽々しく声もかけられたりした。もっとも最悪だったのだ「日に日に女を喰っている」という噂が立った時だ。あの時の女子からの目は今でも御影の軽いトラウマだった
なので御影は女子から蔑みの目などを向けられると耐えられず逃げる習性がある。まあ今ではちょっとくらい耐えられるようにはなったし、噂の方も虚偽というわけですでに収まっている。そのせいで御影は女子に興味がいかないようにしていた。それがあって今現在はまるで習慣の様に女子には興味をなくしてしまっていた。御影の友達である戸浦はそんな過去を話すと羨ましすぎるとか唸っていたな
「昨日の疲れもあって眠りたかったらしいから俺の部屋に寝かせただけだ」
「じゃ、普通に部屋に連れて行ってあげた方が―――――――」
「俺があいつの部屋を知っていると思うか?」
まあ、部屋は数室しかないし空き部屋の内どれかがロキの部屋だろうと解っていたが御影も眠たかったのでそっちの方の思考には思いいたらなかった
「でも教えたら夜這いするんじゃ―――――」
「誰がするか!!」
そもそも学園の校則で使者との恋愛は禁じられている。それにロキ自身も御影のことをよく思っていない故にそんな方向への発展は天地がひっくりかえろうと起きるはずがなかった。ましてや御影がロキを襲おうとしていれば彼女の魔術で御影はタダでは済んでいなかっただろう
「っていうかな、俺が一度でも女子を家に上げたことがあったか?」
「確かに弥生ちゃんとか亜希奈ちゃんの時は常に戸浦君がいたし・・・・・・」
うんうん、とその言葉を聞きながら御影は頷く
しかし夕奈はどう言った思考にたどり着いたのは顔を青ざめさせて
「影兄、もしかしてそっち系?」
「だぁー!!何でお前も妄想はあっちに行ったりこっちに行ったりするんだよ!!」
ここまでくれば解るだろうが夕奈の欠点はこの無駄に妄想力が良いことである
そのせいで一つのことに対してあらぬ妄想を二十、三十は思いつくので御影も困ったものである
そんな大声を出していると御影の部屋から影が見えた
どうやらロキが起きてきたらしい
「あ、ロキちゃん。起しちゃった?」
「いや、数分前からすでに起きている」
ロキの顔は夕刻まで寝たおかげで疲労はすっかりと取れている
流石に昨日の夜まで逃げていたとなると疲労の色が濃かったらしい
「それじゃ、私は夕飯の支度するから」
「ああ、分かった。今日もうまいの頼むぞ」
そう言うとエプロンの紐を結ぼうとしている夕奈がこっちを向いて笑顔をした
夕奈の美徳はある出来事に関して長く引っ張らないということだ。あまりに何度も続くと流石に根に持つことがあるがそれ以外はこのようにケロリといつもの様な態度になるのだ
御影は一息つき、再び来るであろう面倒な質問に身構えるが
「お前達はいつもこうなのか?」
「こうって?・・・・・」
てっきり重苦しい質問が来るのかと思ったが御影は拍子抜けな質問に面食らう
「いや、あれだけ騒いでいたのにもう終わったのか?」
「ああ、あれは少し夕奈の悪い癖が出ちまって騒いでいただけだ」
そうか、と言ってソファーから距離がある折りたたみ式の小さなテーブルの前に座った
御影は怪訝そうに思いながらソファーから腰を上げてロキの耳元でささやく
「おい、寝る前の質問はいいのか?」
「お前たち家族の前でその空気が壊れるようなまねはしたくないだけだ」
どうやら御影の前の異能者、つまり鳳欧・茜の時の記憶が残っているため場や空気は読めるようだ。しかし記憶が残っているが故に厄介なことは残っているが
御影は再び腰をソファーに戻しロキが見ているテレビの音を聞きながらベランダの続く大きな窓ガラスから夕陽を見ていた