7話 壊れゆく日常
御影は今日、朝日によって目を覚ました
この世で最も起きたくない方法だった
何せ目を開ければ眩しく目が痛くなる。それにそんな朝からこんな日が当たれば目に悪い
そんな誰に怒っているのか分からなくなった御影は身体を起こして、あたりを見回す
それはいつも見慣れた自室だった
「あれは夢だったのか?随分と悪い夢だったな、っていうか半分悪夢に近かったけどな。あれは」
御影は頭を掻きながら自室を出て行って洗面所の扉を何の気になしに開けた
そう、何の気になしに――――――
「・・・・・・・・」
「―――――ッ!!」
呆然とする御影、その視線に気づいた昨日の彼女。そして
「どうしたの?何か――――――」
洗面所の奥、風呂場から顔を出したのは天垣・司朗の実の妹であり、御影の義妹の天垣・夕奈だった
どうやら二人して朝から風呂に入っていたようだ
しかしあまりにも魅力的な肢体の前に日ごろ女に興味のない御影でも見いってしまった
黒髪とは正反対にあまりにも白くきめ細かい肌、全体的に細く感じられるがそれを全く感じさせない。しかしバランスが取れている体のラインに加えてそれを崩さぬ様に実った双丘。そして柔らかそうな大腿部を伝って落ちて行く水滴を見ればどこかの画と勘違いしてしまいそうだ。これが現実ではなく夢ならどれだけいいことか。しかし現実は無情なものだ
羞恥に顔を染めた昨日の彼女が思いっきり右手に握りこぶしを作り、御影に向かって人睨みするや否や右ストレートが飛び込んできた
あまりに直線だったで単調だったが故にスピードに乗って御影の顔にめり込んだ
それが朝一番に怠った出来事だった
右ストレートをくらい鼻血を出しながら無様に倒れた
そして右腕を目の上に乗せようとした時に目に入りこんだ紋章
「やっぱ、昨日のことは悪い夢じゃ、すまなかったか」
嘆息しながら右腕で目を覆った
◆◇◆◇◆◇
「朝から何やってんのよ!?影兄」
そう怒るのは台所で朝食を作っている義妹の天垣・夕奈である
黒髪を両端でくくっている大きく開いた瞳はまだ幼さを残している
「いや、ちゃんと顔を洗おうとしただけだ。別にやましいことなど何もない」
「・・・・変態」
「ちょっと待て!!誤解だ!俺は何もやってない!!」
夕奈からの怒りの説教と目の前で座って共に朝食を食べている昨日の彼女から軽蔑、不純な物を見る視線を御影は一身に受けた
御影自身何もやましいことがないのにどうしてこうも説教されなければならないのか、理不尽さを感じてならない
しかも目の前のことはこれから異能者と使者としてやっていかなければならないのに幸先がこんなことでは先が思いやられる
「それにしてもお前ら何で朝っぱらから風呂なんて入ってたんだよ?」
「女の子にはいろいろ秘密があるのにそれを聞きだそうとするの?本当に正真正銘の変態になったね影兄・・・・・・・」
「いやいやいや!おまえらが朝から風呂に入ってる方がおかしいと俺は思うぞ!!」
さげすみの視線を感じながらも御影は自分に理不尽な称号をつけられぬように反論する
しかし夕奈はため息をついた後に非難を浴びせるような目を御影に向ける
多少、たじろいだものの御影にはそのような非難されることなど・・・・・・・今日の朝以外はなかった
そもそも夕奈が朝風呂など初めて知った御影だったのでおかしく思っただけだ
「まあ、全体的に悪いのは影兄だよね」
それに同意するように先ほどまで無言で朝食をとっていた昨日の彼女が口を開いた
「お前をここまで運んだのだ。わざわざ身元になりそうなものを探してな」
「成程・・・・・」
つまり御影が自宅に帰ってこれたのは全て目の前の彼女のおかげということらしい
「で、流石にロキちゃん汚れてたし身にまとっていたのがあのマントみたいなものだったんで服だけかしてゆっくり休ませて明日の朝に風呂に入って洗い流そうってことになったんだよ」
「そういうことだったのか―――――――ん?」
今の会話の中で聞きなれない単語が出てきたので顔をしかめながらその単語を反復する
「ロキちゃん?」
その瞬間、御影の眼前を何か鋭い黒い物体が通った
御影は壊れた機械のようにギギギという音を立てそうな感じになりながらその眼前に通ったものを確認する
後ろの壁に刺さっていたものはどうやらお箸だったらしい
しかもお箸の刺さった場所から円状に三十センチほど亀裂が生まれている
もしもあんなものを身体に受けたらひとたまりもないなと震撼する
「で、その名前は何なんだ?」
再びお箸がとんでくる危険性を頭の端に置きながらそう夕奈に聞いた
「だって、ロキっていうんでしょ?」
その言葉に眉間にしわを寄せながら先ほどの彼女を目にやった
追いかけられるほどの奴だと思っていたがまさか北欧神話でも有名な
「あの悪神のロキだっていうのか・・・・・・・」
降神契約というのはその異能者の命の許容量に相応するだけの力しか手に入れることはできない。生まれもったその命の許容量は誰が手を加えようが決して変わらぬものだ
つまり御影の命の許容量はそのロキの力を許容できるだけ持っていたというのだ
しかしそれは今までの過去と照らし合わせてありえない現実にたどり着くのだ
だがそれをここでは言うわけにはいかない。夕奈だって知らぬ哀しき事実を告げれば夕奈だって悲しむ
それだけは避けたかった御影はそのまま釈然としないような表情をしながらも降神契約のことで驚いていると言った感じではぐらかしておいた
そして御影達は三人で今日の朝食をとった
幸い、今日は学校が休みだったのでこのまま御影は再び眠りに就こうと思った