5話 邂逅
御影がライアンクリエイター社から出て行った時すでに日が落ちてあたりが街頭で照らし出されていた時間帯だった
天垣の言っていた妹が心配しているだろうと思い一様メールを送っておいた
ちなみにその妹は天垣と血がつながっており実の妹なのだが、会社の方が忙しくてあまり相手ができな
いので代わりに俺が相手をすることになっている
一様義妹となるのだろうか・・・・・・
何故御影がこんな会社の社長と知り合いなのか、細かな説明はかなり長くなるし。まあ一言で言ってしまえば、御影の肉親の知り合いだ
それ以上もそれ以下の意味もない
御影は中枢区を抜けて高等区に入った。周りに顎を上げなければ見渡すことができないような高いマンションばかりが立ち並んでいる。勿論、家賃も高いのであるが・・・・
しかし、退屈な毎日ほど面白みがないものはないな、と欠伸を噛み殺しながら歩いていると角を曲がってきた何者かと接触しそうになった
御影は身をひるがえして避けたがそのぶつかりそうになった人物は足元をふらふらとさせ体重が前に傾いていた
御影はその人物の腹部あたりに腕を滑り込ませどうにかこけるのを助けてあげた
「大丈夫か?」
改めて街灯に照らされた姿を見るや否や御影怪訝そうな表情を隠さずには居られなかった
前から姿を見ることはできないが、それでもこの服装には驚いた
それは頭から全身を覆い尽くすような長いコートのようなものをはおっていたからだ
明らかに高等区、いやそれ以外の場所でもかなり目立つ服装である
それをなぜ着てこんなところをうろついているのか?間違って人工島特別治安局につかまるのがオチだ。それにこの人物はかなり焦って何かから逃げていたようにさえ思った
「は、放せ!!」
といきなり怒気を孕んだ声を投げられビクリと体が反応してしまった
男っぽい言い草だが声色はどうにもアルトヴォイスよりも少し低めだった
女なのか?と思いながら顔を覗こうとした、その瞬間、嫌な声を聞いた
それは先ほどその人物が曲がってきた角から
「おい、どこに消えた?」
「分からん。この暗闇の中をちょろちょろ動き回りやがって」
どうにもお約束な展開が待っているせいか御影の背から冷や汗が止まらない
ここは素直にこの人物を渡すべきか。いや、もしかすれば御影が誘拐しようとしていると思われかねない。しかもこんな服装であれ高等区にいたということはそこそこ権力のある人物の御子息かもしれない。もしかすればここら辺で秘密裏に実験していた人工生命体かもしれない。接触者は容赦なく排除されたりして・・・・・・・
そう考えると反射的に身震いを起こしてしまった
このままこの人物を離して何も関わりがないようにすることはできるが
何故こいつは逃げだしたのだろうか?とそんな変な考えがよぎったのだ
財閥の御子息なら何不自由なく生活できるはずだ。ほしいものだって手に入る
ならなぜこんな風に危険な夜に逃げ出したのか、それがずっと頭の中に引っ掛かり続けていた。もしかするとこの人物は決して破ることのできない檻から解放がされたかったのか?だとすればここでこの人物を渡せば二度とこの人物がこういう世界を見ることはないのかもしれない
「おい!さっきから人の話を聞いているのか?早く離―――――」
そう思った時にはその人物の手を御影はつかんでいた
「えっ!?」
「逃げるんだろ?さっさと逃げんぞ!!」
御影はそのままここから最も近い工業区に向かった
あそこなら建物も多く身をひそめるには最も適した場所だろうと思ったからだ
◆◇◆◇◆◇
とりあえず明かりが少ないうす暗い工業区に到着した
辺りには倉庫やコンビナート、工場が暗闇の中で面影だけが見える
とりあえずどこか隠れられる場所を探して御影は建物内の一部屋に身をひそめた
実際、なんで俺はこんなことをしているのだろうと思ったが衝動的に動いてしまいそんな理由はもちろんない
でもこのままこの人物をやすやすとあいつらに渡すことに関しては御影も反射的に反対していた
この世界に自由はないのかもしれない、でも一時の自由という名の夢くらいは見せてあげてもいいんじゃないか?そう思った時には手を引いて御影は工業区まで逃げ込んでいた
隣では少々だが息を荒くして座りこんでいる
立てられた膝によってマントの裾がまくれ上がり肉付きの良い決してそんなに太くない逆に細めの脚が艶めかしく伸びていた
それは決して男ではできないような肉付きときめ細かい肌
そこで御影は確信した。自身の隣にいるのが女であるということに・・・・・・
傍から見れば夜に男女二人で抜け出して逃げているようにも思える。幸い逃げ込んだ工業区には人がいないためそんなことを思われる心配はないが
そして御影は隣の女と思われる人物に質問をかける
「お前は何者だ?」
その質問に女?は息を吐きながらあきれた口調で言った
「お前はどこのだれかも知らぬような奴をこうやって連れてきたのか?」
「まあ、そうだけど・・・・・悪いか!?」
半分逆切れ気味にすることで自分が馬鹿な行動をしたということに靄をかぶせればよかったが女?は手を口元に当てて笑いをこらえる仕草をした
「随分とお人好しな性格だな。私が悪人なら今ごろお前を殺しているぞ?」
そう言うと女?はマントから右腕を出して威嚇するように見せるが
御影はため息をつくようにして首を振った
「やめとけ。見え見えの攻撃に当たるような真似だけは俺もできない」
逆に難しいとさえ言って彼女に向き直った瞬間
目の前が真っ暗になった
いや、正しく言えば視界の前に物体が出てきたせいで光を完全に御影の視界からシャットアウトした
「うわお!?」
奇妙な声を上げながら御影は身体を滑らせてその女?の攻撃を避け、身体をひねってそのままの要領で一気に側頭部から蹴りをお見舞いした
しかし相手は御影の蹴りをまるでなっていない防御方法で防御しようとしたため、すんでのところで止めた。もし仮に御影がここで側頭部から蹴りを放てばただでは済まなかっただろう。異族であれ軽く脳震とうは起こせるそれほどの蹴りだったのだ
「悲鳴を完全に押し殺すこともできないのにわざわざ俺に攻撃を仕掛けてくるな」
かすかに息を殺すような悲鳴が御影の耳には届いていた
御影はその反動で身体をひねり立ち上がる
その瞬間、御影達がいるこの建物に何かが入ってくる気配が感じた。おそらく彼女を連れ戻しに来た奴らだろう
「行くぞ。もう手遅れかもしれないがここが見つかるのはいずれ時間の問題だ」
「そうか。分かった」
そう言って立ち上がる御影はその部屋の窓を開けて女?に目配せをしながら先に降りる
しかしそれが最悪の結果を導いた
御影が下りると同時に懐中電灯の光が御影を照らし出した
「誰だ!?」
もしも俺が合図を出さなければ上の女?は降りてこないだろう。そうすれば部屋に入った奴らにとらえられる可能性がある
なら今の御影にはやることがひとつだった
「すまんが眠ってもらう」
ひどく冷たく無情な響きを持った言葉と同時に御影を照らし出した懐中電灯を持った人物はその場に倒れた
御影は手刀を入れ込んだ状態のまま左腕で来るように命じた
その後女?もマントを広げながら降りてきた
そして二人で目的地もなく走った
しかしそれで終わればよかった
パァアン
そう後ろから響いてきたときには既に御影の二の腕に銃弾がめり込んでいたのだった
「くっ――――!!」
不意の反動で御影は体勢を崩して地面に転げる
あまりに情けない転び方をしたな、と自嘲しながら御影は顎で先に行くように命じた
何せ後ろには
「もっと強めに手刀を入れ込んでいたらこんなことにはならなかったか」
先ほど手刀を入れた相手がよろめきながらも銃をこちらに向けていたからだ
警告もなしに自分の身体を撃ってきたことに関してひとつだけ理解したことがある
つまりあの人物と接触したものはすべて排除しろということだ
たが御影もここでくたばるわけにはいかない、折角の人生をここで水の泡などにしたくはなかった
すでに左腕は先ほど撃たれ使い物にならない。使えるのは両足に右腕のみ。
それで飛び道具を相手に戦わなければならない自分はどうにも無力感を覚えてしまう
「どこまで知っている?」
全身を黒のスーツで覆い、サングラスで目元を隠している
いや、あれはサングラスではなく魔力センサーと赤外線センサーを組み合わせた代物。
そうそうヤクザとかが手に入れることはできない代物だ。使える者としてはただ一つ。
「防神省ってか。どうにも俺はそいつらと縁があるらしいな」
御影は腰を落として戦闘態勢に入る
それを見た相手も銃口を無情に御影に向ける
防神省の輩に命乞いをするくらいならここで死んだ方がましだ
あんな役立たずどもに・・・・
御影は距離を考えつつ、円を描くように相手と対峙する
そして半周ほど回った瞬間、御影は地面を蹴って相手との距離を埋めた
その瞬間、約6回ほどのマズルフラッシュが辺りを照らした
数秒後――――――
「意外にあっけなかったな」
手首を回すと関節が音を立てる。
「久しぶりにするもんじゃないな。こんな格闘術は・・・・・・・」
御影の格闘術は他とは違い、特別に作られたものだ
それはあらゆる場面で役に立つが瞬時に体の体制を変えなければならないゆえに関節を痛めてしまうこともある
「早くあいつを追いかけないと・・・・・・」
御影は追われているその人物を助けるために走りだした




