9話 さまざまな思惑
翌日、御影はモノレールでギルスや突如出現した魔動霊装のことを考えていた
昨日はあの後、俺達は解散となり調査の方も人工島特別治安局に任せていた
そして御影はギルスの言われていたことを思い出し考えていた
危険な状況、そしてその後に登場した魔動霊装
魔動霊装がこの人工島を危険な状況へと変えているのか?
御影は危険な点を考えるもあまり思いつかなかった
今だに整備不良で死人は出ていないし、暴走を起こしたこともない
それこそ魔動霊装が出てくる一世代前の兵器なんかよりも随分と生存率が高くなっている
制圧能力だって戦車や戦闘機なんかよりも充分持ち合わせているし、装備兵器を変えれば戦艦クラスの制圧能力も確保できる
なのになぜ奴は危険な状況などと言う単語を使ったのか?
やはり便利な物の裏には危険が潜んでいる物なのか?
だとすればその危険なものが何なのか知りたい、そしてどうやったらそれを取り除けるのかも知りたいものだ
だが、今の俺の力や権力ではそんなことを知ることは愚か危険な状況だと言うことすら知れなかったかもしれない
「御影。昨日は一体何があった?」
「うん?」
目の前にいるロキから来た言葉が意外だったせいか生返事をしてしまった
「お前は昨日、一日中いなかっただろ?」
「別に俺がいなくても大丈夫だろ。別に狙われる相手もいないし、それこそ水無瀬やマキナがいるだろ」
俺は窓から移りゆく景色を見ながらそう吐き捨てるように言う
「お前は私を護ってくれるんじゃないのか。私を心配させるような無理はしないんじゃないのか・・・・」
ロキは泣きそうな声でそう小さな声で呟いた
しかしロキの声は騒がしいモノレールの車内によってかき消されてしまった
だが御影はその悲しそうな表情を浮かべるロキを見逃すことはなかった
・・・・はぁ、何となく波乱の予感がする
そう思った瞬間、いきなりモノレールが急停止して御影は慣性の法則でロキの方へとダイブしてしまった
「うおっ!?」
右手の方はどうにか手すりをつかんだがそれでも体は左からロキの方へと倒れた
そして飛び込んだ先には異様に弾力があるが柔らかい物体が御影の顔と左手を埋めていた
御影は一瞬その柔らかさと弾力に思考を捨てかけたがすぐに思考を復帰させてすぐに飛びのいた
御影はほのかに残る柔らかな感触の良き匂いに赤面するがそれでも目の前に人物に無意味な言い訳をしなければならなかった
羞恥と怒りによって頬を赤くしたロキは握りこぶしを握って俺を睨んでいた
「やめろ!!ここで大事にするのはまずい!?」
と御影は後ろに下がるとモノレールに乗っている乗客に背中から当たってしまった
「す、すみません・・・・・」
御影は作り笑顔で頭を下げるが乗客は全く別の方向を見ていた
それはモノレールの前の方、乗務員がいるであろう場所だった
そしてそこから出ている物は・・・・・・
「煙!?」
白い煙とかならば発煙筒などの悪質ないたずらかと思ったが上がっている煙は明らかに有機物を燃やし一酸化炭素を含んだ黒い煙だった
どうやらロキも御影の表情を見てただ事ではないと感じ取ったらしい
先ほどの羞恥と怒りはどこかへ捨てただモノレールの先端を見続けていた
御影はすぐに乗客に紛れ込むようにモノレールの車両の通路へと急ぐ
「このことをエリラに報告しなければ」
もしかすると望遠用衛星カメラがいち早く確認しているかもしれない
客の合間を縫って通路に出ようとした瞬間、いきなり左の窓ガラスが割れた
正しく言うと外から何らかの圧力が加わり中にガラスが飛んできたのだ
御影は顔を腕で庇いながらそのガラスの状況を見ようと目を開けた
そして御影はそんなガラスの状況をみる前に自分の目の前にあるものに目を見開いた
風貌は中性時代の帽子をかぶりマントを着た優男
そう、それは御影の配属している民間保安局が追っていた男だった
御影は目の前の光景に汗を一筋垂らした
そして優男は自分の左後ろにいる男性客を視界の端で見るように顔を向けた
なぜ肯定ではなく予想なのかと言うと優男は帽子のせいで目が見えないのだ
だから何に興味を向けているのか、何を見ているのか全く解らない
そして優男はマントをはばたかせると男性客に向かって一閃を放った
他の乗客には何が起こったか解らなかっただろうが御影は苦虫を噛んだような表情を浮かべた
そしてその一閃をくらった男性客の首からまるで噴水のように血が引きだし御影をはじめとする乗客全員にかかった
一瞬の間、そして
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そう誰かが悲鳴を上げるとそれに続くように乗客が逃げ出した
「ここで収拾をつけるよりもこいつを何とかしなければ」
御影は数歩後ろに下がり戦闘態勢をとるがすぐに距離を詰めて短剣で切りにかかる
御影は寸前のところで身体をかがめて避ける
・・・・頸動脈を狙ってきたか
しかし相手もこの密集空間で派手に動きまわることはできないと解っている
だからこそ小さな動きで最大限の効果を生みださなければならない
御影はそのまま身をかがめたまま、右の拳を縦にして優男の腹部へと叩きこんだ
そしてそのまま優男は二人掛けの席が向き合っている一帯を破壊しながら壁にたたきつけられた
御影は腕を振ると蒼い魔力が霧散した
全力ではないにしろフェンリルの力を借りそのおかげで相手を一発で仕留めることができた
御影はその優男が大の字に似た姿で壁にたたきつけられている様を一瞥してロキの方へと向いた
ロキは逃げず通路の方を護ってくれていたみたいだ
御影はとりあえずスマートフォンで連絡しようとした
通常回線から秘匿回線へ変わる数秒が否応に長かった
・・・おいおい、なんかトラぶってないだろうな?
このモノレールのことならすでに解決したぞ、といいたげに息を吐くとすぐに耳にエリラの声が聞こえてきた
「大丈夫!?そっちの方でレールが爆発したって聞いたけど・・・・・・」
「――――――――ぁ」
御影は自分が声を出せぬ驚きと腹部にある違和感を同時に感じていた
「どうしたの?聞いてる?」
「ぁ・・・・かっ!!」
その時、御影はスマートフォンを手放し床に向かって大量の血を吐いた
そのはずみで腹部を見ると白い手袋で覆った手が御影の血で赤く染まっていた
ロキはその光景を見て一目散にこちらに向かおうとしていたが御影が手を前に出して制止を促した
御影は可能な限り顔を動かぬよう背後の光景を見た
先ほど倒した優男の左腕が御影の腹部にまで貫通していた
そして御影はその顔を見ると
・・・・・・機械人形!?
自動人形とも呼ばれるその人形は人間の顔とそっくりに作られているが代わりに身体の数か所はねじなどが見えて人形と解るように設計されている
そして御影は優男の首筋にあるねじを見つけてしまったのだ
機械人形はそのまま腕を振って近くにある窓ガラスへと御影を放り投げた
御影はそのままなすすべもなく橋の上を通っていたモノレールから大きな川へと投げ出された




