4話 ローブの男
「面倒なことになりそうだ」
頭を掻きながら御影はとりあえず学制区の方に向かった
とりあえず情報の集めやすい学制区に向かってそれから内側に向かって調べた方が相手を追い込みやすいだろう
『こちら風夜。人工島から出た形跡はないようだ』
「了解。しかし早いなお前」
『まあ、出入り口のゲートの近くにいた仲間に教えてもらっただけだけどな』
「そう言うことか」
嘆息気味に息を吐き、辺りを見回す
HMDが外を歩いている人たちから不法侵入者の情報を自動的に照らし合わせているが見事に外れていた
もちろん不用意に魔術を使っていればHМDが反応するが
「見事にいないな」
『だけどどっかで見たんだけどな』
「何がだ?」
『いや、この写真に写ってるこの首飾り』
「ああ、確かに映ってるな」
御影はその写真を見ると確かに首に近い位置にネックレスの様な首飾りがある
『なんだったかな?』
「お前が見たことあるものなら女に渡したプレゼントじゃないのか?まさかこの写真ってお前―――――」
『違うわ!!まだフられてない!!』
「ちなみに今で何人目?」
『・・・・・・・5人』
風夜が消え入りそうな声でそう呟いてきた
まあ、可哀想なので一様話を戻そうと試みた
「しかしそれ以外で見たとなると雑誌やテレビっていう可能性があるが、それではあまりに範囲が広すぎるから絞りにくいな」
『他に可能性があるとすれば有力なところで部隊章みたいなのは?』
「部隊章なら見て思い出せないことはないだろ」
『確かにな。じゃあ何なんだ?』
「さあな?―――――そんなことを俺が知るか」
と言った瞬間、HMDが反応した
そのままHMDはある人物の後ろ姿をロックオンマーカーの様なものでロックした
「風夜。今の俺の現在地が解るな?」
『出たのか?随分早いご様子で』
「早く来いよ。俺だけで狩っちまうぞ」
『おいおい、そんなことしたらあいつに俺だけ怒られるじゃねーか!!』
「摩霧さんをそう呼ぶとはあとでチクらなければ」
『チクらないでくれー!!』
そう最後に風夜は絶叫して通信を切った
御影は人ゴミがあまりない中でその目標の人物を見失わぬよう、そして見つからぬように後をつけた
しかしその昔の魔法使いがかぶるようなローブをかぶった人物は何か横のビルを見上げるようにして、そして視線を横にある道路へと注がれた
その瞬間、見えた口元が笑った
御影は急いで走ったがローブの人物もそれを察して並みの人物とは思えない速さで疾走した
・・・・くそなんて速さだ
御影は内心でそう毒づきながら路地の方へ逃げ込んだローブの人物を追った
◇◆◇◆◇◆
「どこ行った」
御影は路地に入った瞬間にローブの人物を見失ってしまった
あたりを窺いながら路地の中へと進んで行く
「探しているのは俺かな」
御影の後ろから不意に男の声でかけられた言葉に裏拳で対処した
しかし裏拳はそのまま空を切り虚空を穿った
「随分と荒っぽいね」
そう言うとローブを着た人物は御影の目の前に風をまといながら現れた
その拍子でローブが外れ素顔が現れる
緑色の髪を肩ぐらいまで伸ばしており翡翠色の瞳は御影だけを映し出している、頬についている深い傷はかなり痛そうに見えた
「何者だ?」
御影は腰を据えながら鋭い目つきで目の前の人物を見据える
「君に名乗るほどの人物でもないよ。どうせすぐに忘れるんだしね」
そう言って棒付きのキャンディーをなめた
「こっちの質問に答えろ」
「君の質問に答えたら俺の質問に答えてくれるのかい?」
「それは質問次第だ」
これ以上質問することは無意味だと感じ御影は一気に地面を蹴った
一瞬にして御影は男の目の前に移動した
そして放った拳は男の腹部へと吸い込まれるようにたたきこまれた
しかし、男はその衝撃を受けるなり口端に笑みを浮かべた
その瞬間、御影の全身が暴風に襲われた
「うぐう、ぐわあああああああ!!」
御影はそのままいろんなものを倒しながら転がって行った
「一体・・・何が・・・・?」
「知る必要のないことだ」
男は笑みを浮かべたまま何か大きめの球をつかむような腕を御影に向けた
その手の付け根から文字列が手を這うように広がり手の中心に集まった
「短い間だったけどさようなら、だ」
御影はポケットから小さなナイフを出した
それはメルヴィアに一時奪われたものである『犠牲は必要不可欠』を取り出して左手首につきたてた。
そしてそのまま数センチ肉を引きちぎるかのように縦に『犠牲は必要不可欠』を進ませた
男は魔術を使った後その光景を見て怪訝そうな顔をしたが特に気にする様子もなくそのまま振り返り御影に背後を見せた
・・・・・まだ終わってねえぞ!!
御影がそう内心叫ぶと先ほど切った皮膚は薄い保護フィルムの様なものがはがれ、中から出てきたのは黒色で描かれた蛇のように巻きつく鎖とそれを止めるかのように作られた鍵だった
しかしそれは断ち切られたような絵となり消えていく
御影が地面に手をついて体を起こし上げた瞬間、背から形がとどまっていない炎の羽が生えた
それは先ほど男が使った魔術をうち消し、男の頬を熱気が撫でた
男は目を見開きながら御影に振り返る
御影も少しふらつきながらも立ち上がった
その姿を見た男は目を細めて何かを確認するように御影の爪先から頭を眺めた
「・・・・そうか、君がね」
「何だ・・・?」
「いや、君なら俺のことを話そうか。勿論他言無用だがね」
「後者に関して確約はできないな。俺はこれでも組織の人間だからな」
再び戦闘態勢を整えようとした時、男は手を出して御影に止めるように指示した
「残念ながら君と遊んでいる暇はないようだ」
そう言った瞬間、男の周りに風がまとわりついて男を消した
「あいつは一体・・・・・・」
そう呟きながら御影が振り返る
そこにはあまりにも日常と乖離したものがあった
「何でこんな時間に霧が出ているんだ?」
そう、かなり広範囲で霧が出ているのだ
しかもその霧はまるで生きているかのように少しずつこの学制区を侵食しようとしていた
・・・・本来、ラジエーターは深夜か未明に行われるはずだ。だったらあれは何なんだ!?
そう思考しているとHMDを通して通信が入った
『総員に通達!現在、原因不明の霧に見舞われている。市民に対しては異常気象と言うことを伝えているが、原因は先ほど言ったとおり不明だ。よって今いる区画の市民を避難させることを最優先にしろ』
了解、と御影は答えてからすぐに路地から出た
既に非難は始まっているのか数人の民間保安局の人間と逃げる市民が目の前を通って行く
しかしそんな中、ひときわ目立ちながら霧へと向かう人物がいた
ローブをかぶった先ほど御影に攻撃を仕掛けてきた男だった
・・・あいつ何を!?
御影は逃げ惑う市民を横切るようにして男を追った




