33話 決着
「成程、あなたの遺伝子にはフェニックスがあったというわけですか?」
「ああ、封印を施して全力は出せないがどうやら天垣からの薬が良かったらしく傷くらいは治ったよ」
銀髪少女は身体の治り具合と御影の周りに立ちこめる陽炎でその力を判断した
身体はほぼ無傷に近い直り方をしていることから不死性の高い幻獣や魔獣が関係している
そして御影の周りから発する熱気によって考えられる幻獣や魔獣は最もポピュラーなもの
それがフェニックスだ、と銀髪少女の思考は行きついたのだ
「お前はやりすぎだ・・・・・・・」
御影は一人愚痴りながらも『神滅する賢者の槍』の刃をつかみ押し返していく
その光景があまりに不可解であったため銀髪少女は目を見開く
「何故お前はこの刃を持って平気なんだ!?なぜ触っていられる」
最初の数十秒ほどならば触っていても平気だがそれ以上触れば魔力によって皮膚はただれ落ちるのだ
「そりゃ、今だにフェンリルの力を使っているからだろうな・・・・・・」
その両手には確かに青い魔力が強靭な狼の爪の様な形をしていた
おそらくロキの力の中で唯一神や英霊に対抗できる力だ
かつてオーディンを丸呑みにしたこのフェンリルなら
そう息こんだが途端に体全体に強力な重みがのっかるように膝をついた
くそ、直りきって行っていなかったのかそれとも身体がもうすでに悲鳴を上げている状態なのか・・・・・・
あの気付け薬はあくまで脳からの指令に反応する物質が含まれており簡単に言ってしまえば脳をだます作用の物質が入っていた
つまり身体にガタが来ていれば戦闘意志があろうとも身体はそれに反して動いてはくれない
「どうやら身体はもうもたないようですね」
その瞬間、槍の刃の両端に戦闘機の翼の様なものが展開し魔力の波動が辺りを吹き荒らす
俺とロキもろともやる気か!?
御影は意を決して右手を地面につけた
「これで駄目なら終わりだな・・・・」
「何を―――――ッ!?」
次の瞬間、銀髪少女は目を見開いた
何故なら先ほどから由利を縛っていた拘束術式が解除されているからだ
「よくやった!!」
由利は鞘から刀を抜いて跳躍した
「はぁっ!」
「くっ!」
刀を上段に上げながら飛んできた由利に対して『神滅する賢者の槍』を薙ぎ払い衝撃波を打ち出す
由利もその衝撃波撃ち落とすために刀を振り下ろしてきた
刀と衝撃波がぶつかり合った瞬間、がれきを吹き飛ばしあたりを掃除するような爆発が生じた
御影はそんな砂煙の中をひとりで突っ込んだ
ただの推測だけで特攻したがそれでも当てる自信があった
この砂煙の中をむやみやたらに動けはしないだろう
しかも怪我をしている以上なおさら無駄に動いて体力の消耗は避けたいだろう
そんな煙の中人影が姿を現した
相手もどうやらこっちを視認したらしく槍を構えてくる
「自ら来ました」
「残念ながらこっちももうそんなに余力は残っていないんでね!!」
御影は右手に魔力を込めた
青い魔力が今までないくらい膨れ上がりその力を増していく
「これで終わりです!!」
そう言った瞬間、『神滅する賢者の槍』は浄化と致命傷を負わせることができる聖魔の宿った槍へと変貌した
しかし御影はひるむことなくその槍に突っ込んだ
「くらえ!!」
まるで弓を引き絞るかのように右腕を引いて槍の穂先向けて放った
「『神喰らう神狼牙』!!」
北欧神話で鎖で縛られながらもその縛りから抜け出しラグナロクで最高神と呼ばれたオーディンを呑みこんだ最強の狼の力だ
それゆえにこの拳の魔力には既に特性が上乗せされていた
あらゆる能力を呑みこみ無力化する特性だ
しかしそれは同時に問題も伴う
一つ目は一瞬で膨大な魔力を使用するため連発ができないこと
二つ目はその取り込んだ能力の衝撃が身体にやってくるという点だ
だが今の御影が負けようとも相手は『神喰らう神狼牙』で一時的に能力は使えなくなる
それでも今の二人を見てこの後に戦えるほど余力が残っているとは思えなかった
由利は肉体的に、ロキは精神的に無理だと感じた
だからこそここで決めるしか御影にはなかったのだ
「うあああああああああっ!!」
先ほどの獣の咆哮とは違い人間の声であらんかぎり叫び『神滅する賢者の槍』を押し返す
「馬鹿なっ!!そんなことが―――――」
押し返されることを驚愕し表情にどんどん焦りが見えてきた
「くっ・・・・」
苦しみの表情で苦悶の声を上げながらしかし御影に対抗しようと必死に力を上げる
御影も必死に魔力を上げ、力を前面に押し出す
足が地面をすり後退の兆しを見せてくる
それでも御影は魔力を上げる
神経回路はすでに悲鳴を上げ亀裂さえも走っているように思えた
だがそれでも御影は諦めなかった
いや、御影は諦められなかったのだ
かつて姉を助けられず諦めたように
「今度こそ―――――」
「くう・・・・・!!」
「諦めてたまるかぁ――――――!!」
大声を張り上げるとともに一気に拳を押し込んだ
足が地面にめり込んでちょうどいい踏ん張りの場所となった
それと同時に前方から破片がとんできて御影の頬を切った
その破片は次から次へと飛んできた
・・・・なんだ?
だがその正体はすぐに解った
がしゃん、と言う金属音がなり次から次へと甲高い金属音が地面へと落ちていく
「そ・・・・んなっ!?」
銀髪少女は目の前の光景を信じられずただ砕け散った金属片を両手に持っていた
『神滅する賢者の槍』が砕け散ったのだ
御影はこれを好機だと感じて一気に追い打ちをかけようとしたが
「うっ!?」
膝から全身の力が抜ける感じに襲われて立つことすらままならなくなりそのまま倒れた
「く・・・そ・・・・!」
手を伸ばそうとするが銀髪少女には全然届かない
ここまで来て終わりなのか?
そう思いながら意識を手放した




