30話 それが末路
銀髪少女は激痛が走る身体に鞭を打って走っている
「こんなことになるなんて・・・・・・」
予想だにもしなかった事態に少し混乱を覚えながら後ろから来るフェンリルを肩越しに一瞥する
フェンリルは叫び声を上げながら今だ衰えない走力で身体強化した銀髪少女に追いつこうとしていた
「ここで勝負をかけるしか・・・・・」
そこは基盤が崩れ落ち闇夜の空にある星明かりだけが照らし出された空間だった
銀髪少女は反転しフェンリルに特攻する
銀髪少女は魔弾を走らせる
しかしフェンリルは右腕を払うだけでその魔弾はすべて霧散する
代わりと言うようにその口に魔力が集中する
「ちっ・・・・」
彼女とフェンリルの距離はざっと30メートルほど
しかしそれを一蹴りで届くほど甘くはない距離だった
フェンリルが状態を仰け反らせ、その魔力を一気に吐き出した
辺りが爆音と魔力の波動で吹き荒れる
がれきが吹き飛び、無事な基盤がめくれ上がる
そして辺り一帯が砂煙の世界へと変貌した
しかし銀髪少女はその砂煙を跳ね飛ばすように突貫してきた
彼女は心臓に向けて槍を走らせる
フェンリルはかつて上顎と下顎を上下に引き裂かれてそのむき出しの心臓を剣で刺されたと言われている
強靭な肉体を持つフェンリルなら今銀髪少女は絶対に勝つことはできないだろう
しかし今はあくまで魔力の塊のみが顕現している状態だ
ならば魔力さえも浄化する『神滅する賢者の槍』ならばその壁も突破できるというものだ
だがそれはあくまで心臓部につきを入れる話であり、もしも防がれたならば届きはしないだろう
だから――――――
「はぁっ!!」
彼女はその渾身の突きを繰り出した
それは単純直線的な攻撃だった
フェンリルは右腕を犠牲にしつつその槍を止めて左腕で銀髪少女を狙う
しかし銀髪少女はその槍を棒高跳びの要領で使い、フェンリルの後ろに回る
フェンリルもその行動を見て左腕を後方へ薙ぎ払うようにふるう
右腕から引き抜いた『神滅する賢者の槍』を下から上へと薙ぎ払った
フェンリルの左腕の付け根を―――――
浄化の能力でフェンリルの左腕は魔力が霧散して御影の左腕に戻っていた
だが、この浄化の能力を発動させるために本体にダメージを与えなければならなかったので御影の左腕の付け根は切り傷によってシャツを赤くぬらしていた
銀髪少女はそのままそれを確認するなりくるりとフェンリルに背を向ける
それを見たフェンリルは怒りの咆哮を叫びながら右腕を振り上げた
その右腕の拳は軽く人間一人をスクラップにできるほどの大きさだった
しかしフェンリルはその短絡的な思考と大きなそぶりが仇となった
銀髪少女は右腕の槍を反転させ逆手に持ちそのまま後方に突きを放った
まるで前のめりになるフェンリルの心臓部に吸い込まれるようにその突きは放たれた
「かはっ―――――!!」
その声は人間の声と先ほどまで放っていた咆哮の声に似ていた
フェンリルがかたどっていた青い魔力は消えていき代わりに御影の身体が出てきた
御影は意識もうろうの状態をしながら胸の中にある冷たい感触を感じた
そして御影が触れた物は何かの刃だった
ぼやける視界の焦点を合わせながらもその不確かな情報を集める
御影はわけも知らずそのまま倒れ込んだ
しかし御影は冷たい地面に打ち付けられるのではなく柔らかいクッションの様な感触に覆いかぶさるように倒れた
「私にあなたを助ける義理はありません。ですがこのまま苦しまずに死にたいというならこの槍で殺してあげましょう」
しかし当然ながら御影の反応はなく銀髪少女はそのまま御影を仰向けに寝かせ胸の上に両手を置いた
「ぎりぎり心臓には達していないと思いますが貴方はもう生きられません」
そう言って銀髪少女は黙祷を数秒だけして槍を持ってその場から立ち去った




