29話 化け物
「ごほっ・・・がはっ!!」
銀髪少女は血を吐きながら起き上る
どうやら転がってがれきの上に寝ていたらしい
「流石にこれなら――――――」
彼女は近くに落ちていた『神滅する賢者の槍』を手に取った
しかし次の瞬間、まだ晴れぬ砂煙の中から御影だったものが飛び込んできた
それに銀髪少女は目を見開きながらも『神滅する賢者の槍』で受け止める
しかし開いていた右腕が銀髪少女の首をつかんでそのまま基盤の支柱にたたきつけた
「かはっ!?」
叩きつけられた拍子に頭部を打ちつけ血が流れる
そのまま御影だったものは首をつかみながら持ち上げた
「が、はっ!!・・・・・・くっ!」
銀髪少女は首を片手で絞められながらまだ戦闘意識は衰えていなかった
どうすれば殺せるのか?どうすればこの窮地を脱することができるのか、それを支点に様々な思案を繰り返していた
しかし御影だったものはそれを憎々しげに見ながらさらに腕に力を込める
「―――――っ!!」
すでに声にならない声を上げながら残り少ない酸素を彼女は口から出す
「やめろ!!」
その時凛々しい声と共にようやく哀しみの慟哭から抜け出してきたロキが走って追いついてきた
「やめろ・・・フェンリル」
そう押し出すようにロキは御影だったものに呟いた
しかしそんなことに関心を持たず銀髪少女の首を更に締める
「やめろと言ってる!!フェンリル!!」
しかし御影だったものはそのままロキの方に視線を移した
そして
「イマサラナニサマダ・・・・・・オレヲステタクセニ」
ロキに憎悪の視線を送りながらそう口を開いた
御影と融合状態にあるため人の言葉が話せるようになっていた
「タダカイブツダッタカラステラレタ・・・・・・・オレノシンライニタルヤツハテュールノミダ」
がれきの上からロキを睥睨するように見る
「ソレニオマエハヨワイ。ソンナヤツニツクツモリハナイ」
「なら試してみるか?」
そう言ってロキは全身に魔力を込めた
しかしフェンリルはまるで人間のように首を左右に振り口を開いた
「オレタチヲステタクセニ、ケイヤクシタニンゲンニステラレタダケデトラウマニナルヤツノドコガツヨインダ?」
その瞬間、ロキの全身から魔力が消え去った
ロキは目を見開き数度後ろに下がった
その目には動揺と罪悪の感情が混ざり不自然に震えていた
フェンリルは銀髪少女をロキの近くのがれきの山に投げつけてロキの前に立つ
そしてロキの前まで来たフェンリルが魔力の覆われた御影の腕を振り上げた
「キエロ―――――!!」
その腕を振り下ろした
ロキはただそれを見上げることしかできず
しかしロキの耳には違う音が聞こえた
金属音と同時にしなる音が聞こえた
「くっ・・・・!!」
銀髪少女がフェンリルの腕を槍で押さえていた
「勘、違い、しないで・・・ください。このまま死んだら、聖遺物の、発見が面倒に、なるだけですから」
そう言いながらも銀髪少女はどんどん押されていく
ロキはただ呆然と目の前の光景を見ているしかなかった
何より頭の中では別の光景が鮮明に映し出されていたからだ
御影がベッドで寝ているシーン
由利が心臓部分を石突きで撃ち抜かれるシーン
そして目の前で銀髪の少女が瀕死の重傷を覆いながらもロキを庇いロキ自らが生んだ災厄と相対している
全ては自分のせいで傷ついている
ロキはそんなことを考えているといきなり浮遊感に襲われた
左隣には口から血を流した由利がロキを抱えてフェンリルから距離をとっている状態だった
「・・・・・・・・・・・・・・」
ロキはただその光景を虚ろな目で見るしかなかった




