27話 悲嘆の叫び声
「これはこれは、派手にやって――――――」
制服を着た少年が崩れ落ちた監視塔の上から荒れ果てた倉庫群を見ていた
「しかしの人もよくこんな結界張ったもんだ」
制服を着た少年は監視塔から後ろを見る
そこには学制区と工業区の境であり、そして斬撃が不意に途切れた場所であった
「マスター。残念ながらこれはあの方が張ったわけではありません」
「まあそれは解ってるけど――――――」
少年はそう言いつつ隣にいる金髪の青年を鋭い目つきで睨む
「そのあの方ってやめないか?いらつくんだよ」
「残念ながら今は確かにマスターはあなたかもしれませんが、それでも管理は――――」
「ああ、解ったからそれ以上その単語を出さないでくれ。余計にイラつく」
「しかし、もしあなたの予定通りに事が進むならば今日か明日に私の首輪は解けるはずです」
「さて、それがあいつに対する報復の狼煙でもあるのか」
「マスター、あなたは電話の時と性格ががらりと変わりすぎです」
「これが俺の素だよ。友達なんかと話す時の・・・・・・」
「私には解りかねますどちらが本当のあなたなのか」
「―――――だとすればどちらでもないのさ。俺という存在はすでにこの世界から消えたのさ」
そう言って少年は星が輝く夜空を見上げた
◇◆◇◆◇◆
御影は暖かさと冷たさの中にまどろんでいた
意識はあるがおぼろげで背中の感覚が消えうせていた
「・・・・死んだのか?」
目は開いているかもしれないがその視界に映るのは闇しかなかった
「生きて・・・・・生きてる」
御影の声でない涙声のアルトヴォイスより少し低めで御影の名前を初めて言ったその声が聞こえてきた
御影は視線をぼやけさせながらその少女を視界に収める
「ロ・・・キ?」
「ああ、私だ。・・・・・ロキだ」
彼女は絶えず途切れぬ滝のように涙を流し続けていた
ロキは御影が気がつくと同時に御影の顔を抱きこんだ
御影の目の前には彼女の豊満な胸があった
いささか見栄えとしては悪い状態になった御影だが全身に力が入らない状態では何も抵抗することができない
ただぬくもりに身を任せて眠ってしまいそうになる
だがそれをすればもう二度と目を覚まさぬことぐらい承知している
しかし御影はそれを許された存在でない
ロキを守り通すまでは身体を壊そうが戦い続けるそう決めたはずだ
だがもう今の御影に戦う選択肢はただ一つだけだ
ただそれを使った後に天垣の研究材料になりそうなのがある意味不安だが、そんなことはこれを生き抜いた時考えるし考えるだけの力があればいいのだが
「何がおかしい!!」
どうやら今の考えが顔に出ていたらしくロキに怒られることになった
「まあ、まあそう怒るな。頭がガンガンする」
「そ、そうか・・・・?すまない」
どうやら御影が心配らしくなぜかしおらしくそう謝る
こいつ誰だ?なんて考えそうになるがそれが御影の最後の思考になるのかと思いつつも御影はロキの頬に手を当てる
御影の手とは違いちゃんと血が通り熱がこもっている居心地のいい感触だった
御影はそのままロキの首に手を回して
全身の力を入れロキの唇に自分の唇を重ねた
「んっ!?」
一瞬でその身をこわばらせた現状に思考が追い付いていないらしい
これは好都合と言わんばかりに御影はロキの下唇を少し噛みちぎった
「んんっ!?」
ただロキは御影の行動の意図が解ったらしく目を見開いて御影を離した
「お、おい・・・・飲むな!それは飲むな!!」
ロキは涙をさらに流して御影に懇願する
しかし当の御影は
「・・・・嫌だね」
虚ろな目をしつつ舌の上にある一滴のロキの血を嚥下した
それを見たロキは目を見開き手を震わせた
全てが絶望に浸ったかのようなそんな表情をした
次の瞬間、御影は上体を起こして心臓部分を抑えた
「はぁ・・・・・はぁはぁ、はぁはぁはぁはぁ!」
どんどん呼吸は荒くなりその間隔はどんどん近付いて行く
ロキはそれをただ呆然を見守るしかなかった
何故なら彼女に聞かされた情報。それは
異能者が血または唾液を飲んだら最後戻らないと思え
彼女の担任からそう聞かされていたのだ
「これは・・・・確かに・・・きついな・・・・・・呼・・・吸す、ら・・ままな・・・らねぇ」
御影はそう呟きつつ全身に力が戻ってくるのを感じた
それと同時に思考ができずただこの圧倒的なまでの力に屈するのを送らせることしかできなかった
何故使者と異能者が恋愛できないのか?
使者の体液には高濃度の魔力が内包されそれにより常軌を逸する力を持つ
だがそれを人間に取り込めばどうなる?
簡単だ。力は制御できず暴走、たとえ生還しても廃人以外なりはしなかったのだ
しかもそれを止めるのは生半可な力では止められずそれこそこの人工島の小さな区画を一つつぶして抑えなければならないほどにだ
だからこそ基本的に恋愛は禁止されているのだ
そもそも希少異能者事態少ないのであまりこの条例はないようなものだ
そしてここまでの話は全て唾液程度での話だ
だが今回は血を呑んだ
唾液よりも多くの魔力を内包している。まさに純度100パーセントの魔力を呑んだ場合
運が良くて重度の廃人。悪くて大元の区画一つを破壊しつくす暴走と爆発を起こし罪人にされる
それほどまで違うのだ
「う・・・・・ああああああああああっ!!」
御影の叫び声を発すると同時にがれきの中からあの銀髪少女が出てきた。口から血を流している由利と共に・・・・・
「人工島の基盤を破壊して死んでいると思いましたがまさかまだ生きているとは」
そう、ここは人工島の基盤の下、地下通路のようなものだ
そして御影は銀髪少女の方を向くと同時に普段はくすんだ紅色の瞳が今は鮮血のような真紅色へと変貌していた
そして御影の身体は青黒色の魔力飲み込まれるように覆われて行く
まるで神話に出てくるあの狼のようの姿かたちをして
「――――ッ!!」
人間とは思えない瞬発力で銀髪少女を掻きむしりにかかった
彼女もそれを住んでのところで避けるががれきなどの破片が当たり頬に傷がつく
「ちっ――――!!」
銀髪少女は片手で側転して先ほど来た道を戻った
御影だったものはその後を追った
ロキは目の前の現状を把握し震える唇を抑える
その手はそのまま自身の顔を覆った
何も見たくはない現実を受け止めたくない、とそんな風に感じた
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
しかしそれは止めることはできなかった
それを抑えることはできなかった
彼女はそれをとうとう口に出してしまったのだ
哀しみの慟哭を・・・・・




