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2話 降神契約

御影が自分の教室に戻ってきたときには既に始業式を終えた同級生達が辺りに散らばって雑談をしている様子があった

御影はいくつかできている会話の集団の邪魔をしないように自分の席についた

ちなみに御影の席は窓際の最後であり、一番先生に見つけられにくい場所でありたびたび学園物語で主人公なんかがよく座る席である。だが、そんなものなど全く意味がないことくらいわかっている

御影は椅子の背もたれに思いっきりもたれかかりながら日差しをさえぎるようにして自分の目の上に腕を当てた


腕の隙間から垣間見える会話集団は普通の学園なら別段おかしいことなどないのだが、ここの学園はおかしいと感じる所がある

それが、会話している者の中―――――女子は数人程度だが、男子はほぼ全員が後ろに何かをつけているのだ

それが人の形をしていたり角を生やしていたり、一つ目だったりと簡単に言ってしまえば化け物が後ろについているのだ


それがこの学園のシステムであり、同時に湾上にわざわざ人工島を作ったわけである

この学園は神の力の一部を使役するために神の使者(サーヴァント)を呼び出して契約する

これを降神契約と呼ばれるものだ

そしてそれらは大抵神話上に出てくる者や天使または悪魔、英雄、神と言った分類である

男子生徒のほとんどは降神契約を行い、自分の使者を持っている。男子生徒の場合これは強制だが、女子生徒の場合強制ではない。


女子生徒はヴァルキュリアシステムというものが使えるのだ

その名の通り、自らが命を捧げられるだけの人物に出会ったときにその人物と契約を交わし、力を得るということだ。勿論、名のある北欧神話のヴァルキュリアが出ることもあるし無銘のヴァルキュリアかもしれない

それはあくまで運次第ということだ。

だが、体力や精神面で劣る女子はこういった相手の助力で力を維持することでしか強い力を維持することはできない。ときに例外入るがたいていの女子にはこれが当てはまり自身の体力と精神を過信しすぎると痛い目にあい暴走する可能性がある

その点、ヴァルキュリアシステムは安全に抗魔術、物理防御、魔力総量の増加などいろいろと強化されるのだ


そしてこの人工島では神の使者を仕える者達のことを異能者(コントラクト)。それ以外の者を無能者と呼ばれている

そして二年男子ではこの無能者は御影だけとなっている


「よ、お前まだ降神契約行ってないのかよ?」


と御影の目の前の席に男がまたがって話しかけてきた


「別に俺の勝手だろ?そもそもなんで俺なんかがここに入学するはめになったのか聞きたいよ」


「そりゃ、その血が流れてたんだからだろ?」


「最近の血液検査を怪しくなってきたな」


ハハハ、と前の席の男はとんがった頭をわしわしと掻いて笑う

名前は、戸浦(とうら)将門(まさかど)。こいつは俺と違い異能者で使者が――――――


「お前もすごいもん引き当てたな。ガウェインって・・・・・・・」


「まあ、たまたま持っていた聖遺代替物がこいつの持ち物だっただけさ」


「いや、それでもそれを引き寄せることができるのはよほど力を持ったものでしかできない。お前の実力だ。その上剣術のうまいお前とは相性が良いしな」


「ああ、そこだけは感謝してるよ。剣術なら負ける気はしねーよ」


と話していると金髪の緑眼の優男が将門の後ろにやってきた

彼こそがガウェインであり彼の使者だった

ガウェインはこちらに一礼すると将門ともに席に戻って行った

それと同時に先生が教卓のある方のドアを開けて入ってきた

それを聞いた生徒達はすぐに散り散りとなり、自分の席へと戻って行った

御影は頬杖をつきながら窓ガラスから見える青空に照らし出されたグラウンドを見つめていた


「降神契約、か・・・・・」


面倒とも憂鬱ともとれるその言動を小声で自分の中から這い出すようにして呟いた

実際、無能者でやっていけぬこともないし、魔術代替品である〝魔術霊具″で十分補えている

だが、実際それでは限界が見えていることはよく解っている

しかしそれでも御影は降神契約をする気にはなれなかった

何せこの降神契約という技術を作りだしたせいですべてを失うこととなったのだから

御影はそのあまりに悲惨で残酷な過去を思い出したせいでさらに憂鬱とした気持ちが自分にのしかかってきた



◇◆◇◆◇◆



「おーい。御影、帰るぞー」


御影は自分のカバンを手に取った瞬間にそんな声が聞こえ、そちらの方に向く

すでにそこには戸浦がかばんを持って笑って立っていた


「わざわざ無能者の俺と帰るとは、お前も付き合いが良いな?」


「まあ、別にお前が無能者だろうがなんだろうが、俺には関係ねえしな」


「お前のそのポジティブな考えを少し分けてもらいたいものだが・・・・・・・」


「そうか?」


「端に馬鹿という可能性もあるのか・・・・・・・」


「なんかものすごく失礼な言葉が聞こえた気がするが?」


「気のせいだ。帰るぞ」


御影は苦笑しながらカバンを持ってもうすでに皆が帰って行った無人の教室をでた


無人の教室を出た後目の前に広がったのは無数の階段が交差しており壁は全面ガラス張りだった

御影はそれの中に階段近くの柵でもたれながら雑談をしている女子生徒を二人見つけた

一人は肩ぐらいまで黒髪を伸ばした子、もう一人はピンク色の髪の一部をツインテール状にした子だった

黒髪の女子はガラス張りの壁の方を向いていたので御影と戸浦が来たのには気づかなかったがピンク髪の女子はこちらの方を向いていたので御影達が出てくるのを見て手を振ってきた

流石に廊下には人がまばらだったのでよかったものをもっと人がいれば御影の身体を痛い視線によってくし刺しになっていただろう

そう考えると御影は自然と苦笑を浮かべる羽目となった

隣の黒髪の女子も自分たちのことを見ている視線に気づいたのか振り向き俺達と視線を合わせる


「遅かったね・・・・」


「悪かったな、遅くなって。弥生、亜希奈」


ピンク髪の女子―――――城崎(しろさき)弥生(やよい)は笑顔で頷く

しかし黒髪の女子―――――(かけい)亜希奈(あきな)はジト目をしながら


「どうせあんたのせいでしょ?」


そう御影は面と向かって言われハハハ、という笑い声しか出せなかった

当たり前だ。事実しか言われていないので何と反論できようか

まったく、と亜希奈は呆れ気味のため息を吐く


「あんたのせいでどれだけ待ったと思ってるの?」


「あのな、お前らのクラスがあまりにも早く終わりすぎなんだよ」


御影と戸浦はA組、対して弥生と亜希奈はF組で俺達の教室がある階の一個上だ

しかしそこの担任は連絡以外対して話すこともなくSHR(ショートホームルーム)をすぐに終わらせるのだ

なので俺達の担任のように何か余計なことをした生徒にねちねちと話をしたりしないのだ

ちなみにこの余計なことをした生徒とは俺も含まれるらしい


「それよりも早く行こ。おなかすいちゃった」


「そうだな。行こうぜ。御影」


「ああ・・・・」


こういう風に俺達が集まるとはしゃぎだす弥生を子供のように見えてしまいまたもや苦笑を浮かべることなる

・・・・こんな時間が続けばいいな

決して難しくもない願い。だがそんな平凡な願いこそが御影の最大の願いだった

何もなく平穏に暮らせる変わらぬ日常

だが御影は知っている。こんな日常でも守ることは難しい、と

御影はそんな考えを振り払うように頭を振り、一歩踏み出そうとした時



『2年A組、鳳欧・御影、すぐに職員室まで来なさい』



その言葉が二度繰り返された後、ブチリ、という擬音を発しながら放送が切れる音がした

御影は盛大にため息をつきながら目の前の三人を見る。ある意味、御影にとってはいろいろと職員室に呼ばれる原因があるせいで逆に何で職員室に呼ばれるのか想像もつかなかった。


「悪い。どれくらいかかるか解らないから先に三人で行っててくれ」


三人は首を縦に振ってそのまま駆けだしていた

最後に弥生が「頑張ってね」と笑顔をくれたことで御影は少し気が楽になった


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