17話 奪われる物そして手に入れた物
「ふあぁ・・・・・」
今朝の御影は一人で登校をしていた
かなり早い時間帯のためモノレールの中にいる生徒は大抵部活用カバンを持っているか総長の補習で気をだるくしているせいとかの二つである
しかし御影はその二つのうちのどちらにも当てはまらなかった
それは今朝担任の愛美から連絡があり、大事な話があるそうだ
そのせいで朝食抜きという悲惨なことになってしまっていた
「降神レベル試験でもないよな?」
降神契約をしたものはたいていこの試験を受ける。それを頼りにA~Hの組に分けられる
それぞれ均等に力が分けられるのだが、御影は今まで降神契約をしていなかったため力の判定は一番下だったのだ。そして御影はその降神レベル試験を受けていないのだ
しかし今の御影は不覚にも降神契約を行ってしまったため降神レベル試験を受けないといけないのだ
「なら普通にロキも呼びだされるはずだよな?」
自分ひとりだけという疑問を持ちながら御影は学園前の駅で降りた
「しかしこれは居心地が悪いな・・・・・・・・」
御影がモノレールから降りると御影を見た生徒数人がひそひそ話をしている
ロキの美貌だけでも噂は学園中もちきりだったのにそれに拍車をかけて御影が希少異能者になってしまったせいで御影は学園からかなり浮いた存在になりつつあった
「さっさと行ってどこかに避難しなければ―――――」
そう言いながら御影は早歩きで学園の門をくぐった
しかしそんな陽気な考えは一瞬にして消え去るのだとも知らずに
◆◇◆◇◆◇
職員室で聞かされた事実に御影は唖然と立ち尽くすしかなかった
「どういうことですか?それ」
「つまりあなたたちが希少異能者であり、その上はぐれ神と契約を成功させているそれを研究させてほしいってことよ。まあ簡単に言えば監視みたいなもの」
「それじゃあ、プライバシーもへったくれもないじゃないか!」
敬語を忘れ、そう愛美に言い放った
しかし愛美もどうすることもできないというように首を二、三度横に振り
「これは私にもどうすることもできない。それにかなり厄介なことにもなっているの」
「これ以上厄介なことって何ですか?今現状が最も厄介な気がしますが?」
「グノーシス機関を知っているでしょ?」
その言葉に御影は静かに頷く
ある意味その言葉と御影の接点はただ一つしかなかった
そう、御影が契約をしているロキのことだ
グノーシス機関は契約者のいなくなった使者を聖遺物へと還元する機関でありほとんどの情報が開示されることはない。一部では大半の聖遺物がそのグノーシス機関にあるだとかないだとか
「グノーシス機関からロキと貴方に対して刺客を送ってきた。勿論、ロキの奪取とその異能者である貴方の抹殺でしょうね」
「なんで俺まで・・・・?」
「簡単。ロキの力がどれだけ流れ込んでいるか貴方にも相手にも解らない。ならその力を暴走させる前に抹殺すればいい。そういうことでしょう」
ふざけたことだ、とそう一言で済ませたかったが愛美の言うことが偽りという保証はないしむしろ防神省にいる彼女の言葉なら真実味が増す
もし殺されれば短いたった十六年の人生に幕を閉じることとなる。折角ロキが助けてくれた命も無駄にしてしまう
「まあ、それを退けるための監視者でしょうけど。そっちが勝つのを祈る以外ほとんど手立てなんてないでしょうね」
「俺が戦いに行くというのは―――――」
どうなんでしょうか?という言葉が紡がれる前に愛美の言葉によってさえぎられる
「無理ね。まず一撃で殺されるわ」
彼女はその言葉を言った後思い空気を吐き出して御影に鋭い視線を向ける
「彼らは規模こそ軍隊の様なものではないけれど武装は軍隊のそれと同等、いやそれ以上のものを持つわ。それにおそらく使者を殺りに来るなら確実にあの槍使いが来るわね」
「槍使い?」
「まあ、普通は秘匿事項だけど狙われている貴方達にも知る権利はあるわね。その槍の名称は『神滅する賢者の槍』魔力を込めることにより神をも穿つ最強の魔力障壁思考稼働型の槍。相手の癖、魔力の質、神経回路の大きさなど様々な情報を解析し、最も最小の力で最大の攻撃を放つ。反抗していった使者たちを今までずっと黙らせ続けた不敗の槍でもあるわ」
その言葉に御影は茫然とした表情で数秒間そこで立ち尽くした
しかしすぐに正気を戻し、苦虫を大量に噛みつぶした表情を浮かべる
「つまりどうやっても勝てない、と・・・・・?」
「まあ、普通に戦えば無理ね」
普通に、という言葉に一抹の希望を抱かなかったこともないが御影はそれを捨てるように首を振った
「普通に戦わなければいいのか」
だが、それは御影にとっては不可能に近いものだった
すでにありとあらゆる型を身体に覚え込んでいる御影に変則的に戦えなど当然無理だ
かつて、守るべきものを護ることができなかった御影が奔走の末に唯一勝ち取ったものだ
しかしそれでもまた護るべきものが奪われようとしている
「でもあなたが手出ししたところで何も変わらないわ」
「そんなことがあって―――――」
「それはあくまで無数の未来があるときの話よ。でもこれは無数の未来があるわけではない。ただ一本だけとおっている道筋。こういうのをなんていうと思う?」
御影はその言葉をただ茫然を聞くしか思考が追いつかなかった
「――――運命よ」
◆◇◆◇◆◇
職員室をふらついた足取りで出る
御影はそのまま壁に肩からもたれかかり右の拳で壁を殴った
耐えず赤い鮮血が拳の隙間からあふれ出ていた
「そんなこと、させてたまるか・・・・!」
せっかく俺が見つけた・・・・・護るべきものがまた奪われようとしている
無力な俺は捨てたはずだ
だからこそ俺はこの力を手に入れたはずだ
この手が、この腕が
絶対に変えてやる
運命なんてきれいごとで終わらせるか
どんな無様だろうとあいつを救ってやる
たとえそれが俺の身勝手なエゴだとしても・・・・
奥歯がきしむほど歯を噛みしめながら血まみれとなった右手を見ていた




