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16話 平穏の裏に

御影はデジタルの腕時計を見ながらロキが選び終わるのをじっと待った

ある意味、人を待つことに関しては天垣にお礼を言っておくべきか、とこんな時に役立つとは思わなかった御影が一人で頷いているとロキが試着室から出てきた。制服で


「ん?終わったのか」


どうやらロキ一人で自分の服を数種類選んだらしい。まあ、逆に聞かれてもおしゃれの知識に乏しい御影はあまり力になるとは思えずそう判断したロキは正しい


「一様、二、三着ほど」


「そうか、じゃ、さっさと行くぞ」


と御影が歩きだそうとした瞬間、その一歩を踏み出す前につんのめりそうになった

みるとロキが御影の右手をつかんでいた。そのままロキの方にひかれ耳元で


「ちょ、ちょっと待て!!私、お金なんか持ってないぞ!?」


「何だ。そんな心配か?別にいいだろ。俺が払うんだし」


「へぇ――――?」


おかしな声を上げてロキが目を丸くする


「まあ、助けてもらったささやかなお礼だ」


普通、この手の店の服を上下一式買おうと思えば高校生のお小遣いがすっからかんにもなりうるところだ。しかし御影はライアンクリエイター社の魔術霊具試験テスターとして天垣の会社にいるため普通の高校生より数倍は持っている。それに友達に奢らされること以外はあまりお金を使うことがなく、貯金しているためお金は結構たまっているのだ


「お礼?」


「俺が死にかかった時の話だよ」


「あれは私にも責任が――――」


「まあ、あれは勝手に俺が首を突っ込んだだけだし、それで死んだんだから俺のせいだ。その後のこともあるしな」


「ま、まあ、それなら・・・・・」


「妥協してくれてよかったよ」


このままここで言い争っても何もいいことはないと分かったロキは妥協して御影の言葉通りにお礼と言う名目で服をプレゼントしてもらった

御影が会計を済ませ、ロキの前に行き


「ほら」


その店のロゴが入った紙袋をロキに手渡した

ロキは両手で通学カバンと紙袋を重ね持ちながら高等区の自宅へ戻った

そうして歩くと御影達が住んでいるマンションへとたどり着いた


「そう言えば外からこうやってマンションを見るのは初めてだ」


「まあ、お前がここに来るときは夜だったらしいしな。あまり外見は見えなかったかもしれない」


そう、御影達が住んでいるマンションは幾つものビルの様な建物が連なってできておりそれぞれ上の方から斜め下へと屋根が傾いている。ここは都市開発などで敷地が狭くなったので合併してこういうマンションに出来上がってしまったのだ。そのため内部構造は非常に複雑になっており、ここに普通立ち入らない人が入れば確実に迷うのである


「しかしお前、よくこの中を移動して俺を自宅まで運んだな」


「まあ、ちょっとは迷ったが意外に簡単に行けたぞ。それは良いが―――――」


とロキは鋭い目つきで横にいる御影を見ながら


「お前、お前と呼ぶな。さっきのあてつけか?」


「じゃあ、お前も俺の名前を呼べ」


「検討する。確約はできんが」


「おいおい・・・・・・」


この手の奴は自分から先に退かなければ一生こうやって意地を張るタイプだ。しかも御影についているあだ名が他人に聞かれればいろいろ誤解を招きかねないものばかりであり長続きすれば苦しいのはこちらでもある。そのため御影が勝てる要素もなく


「分かった。ロキで良いんだろ?」


「やめろ。お前に名前で呼ばれると寒気がする」


「ちょっと待て!じゃあ、なんて呼べばいいんだよ!!」


「私のことを呼ばなくていいだろ?」


なんて無茶苦茶なことを言い出すんだこいつは


「冗談だ」


「太刀の悪い冗談はやめてくれ」


「だが、必要ないとき以外は呼ぶな」


「元からそのつもりだ」


大方そんなことだろうと思った。今までの経緯からして御影がロキと良好な関係を気付いているとは思えない。逆に言えば毛嫌いされていることなどありまくりだ

なのでこの判断だけでもゆずった方なのだろう


「絶対に無理だな。こんなので絆を生み出すことなんて」


先に行ったロキの後をゆっくりとした歩調で自宅へと戻った



◇◆◇◆◇◆



「さて、一体この状況をどうする気ですか?」


ある一室、薄暗い部屋の中で円卓を囲うように十数人の人物が座っている

それぞれ中年の男や若い女など年齢がばらばらであり統一性がなかった


「迷わず排除するべきだ。こんなことは人類の前代未聞だ。何が起こるやもしれん状況で野放しにしておくのか!?」


一人の目つきの鋭い男がそう拳を机にたたきつけながら大声の怒声とともに放つ


「しかしもとはと言えば貴方がたグノーシス機関が取り逃がしさえしなければこんなことにもならなかったろうに」


「あれにはイレギュラーな・・・・・・」


先ほど拳を叩きつけた人物に最も部屋の奥にいるこの会議の統括者である人物が冷ややかな声でそう説き伏せる


「それでもあなた方の使命は分かっているはずだ。与えられた使命を全うする。子供でもできることだ」


そうしたやり取りを水海・愛美はドアの端で聞いていた


「わざわざ国衛局までここの会議に出る必要があるんですか?」


「まあ、もしもの場合だろう。逆にその可能性が低いわけではないし高いわけでもない。未知数とでもいえばいいか。でも議論にはさすがに口をはさむことはできないけどね」


愛美の隣にいるのは防神省対神国衛局局長だ


「はぐれ神との契約。実際それを可能にしていること自体、異質ではある。本来、異能者が死ねば使者に対して力がフィードバックされそのまま聖遺物に戻る。その時に聖遺物に秘められた魔力を今の我々はこの人工島で活用しているというわけだ。それに魔力の全部がフィードバックするわけではない」


「まあ、それは知っています。一部の力はフィードバックせずに異能者側に残ると聞いています。それでもごく一部ですが」


「ああ、だが、今回のようにフィードバックする前に異能者が死亡。つまり力を渡せずに死亡することもある。本来は異能者が使者に力を渡して聖遺物に戻しそれをグノーシス機関が回収する。それが一般的だ。つまりこの人工島は死人の魔力で動いているってわけだ」


「ええ、そうですね」


愛美の目は再び目の前で繰り広げられている議論に目を向けた


「なら一層のこと暴走するかどうかを研究すればいいんじゃないですか?実際、暴走するとも決まっていないのですし」


いかにも研究者と言う風な白衣を着てメガネをかけた長髪の青年が頬杖のつきながらそう言った


「ふざけるな!!そんな理由であの人工島の奴らを危険に巻き込むのか!?」


「別に好んで巻き込むわけではありませんよ。それに彼らだってそうそう簡単に死ぬような奴らではないですし」


「民間人は一体どうする気だ!?」


中年の男が机をたたきながら問う

統括者も白衣の男に視線を向けながらその答えを待つ


「魔力の波動に関しては通常人には感じることがありません。まあ、かなり強力なものだとしても風が吹き荒れる程度です。それに魔力に気付いた時にはもう遅い」


「なら異族にはどうするつもりだ?」


「そもそも、異族は常に魔力にさらされている状態だ。常に周りには自分たちと違う異族がうろついているちょっとやそっとでは気付かない。いざとなれば感覚神経にバイタルウィルスを侵入させ鈍くさせればそれでいい」


「それでも安全の方が最優先だろ」


白衣の男に先ほどのさらに二割増しの鋭い視線をぶつけるが、それでも飄々としており白衣の男は口端に笑みを浮かべて


「成程、グノーシス機関も流石にあの人工島が壊滅すれば今度は日本が滅亡しかねない状況が起こるということは解っているらしいですね」


「当たり前だ。逆に何のためにこんなものを作り出し収めたと思っている?」


「まあ、最も危険なのがあの冥幽島の基部ですからね。もしかすればここが崩壊して誰かの手にあれが渡るかもしれない」


白衣の男はそう一息つき、そのまま言葉を紡ぐ


「それでも研究対象としては変わりない。こんな面白い実験は他にない」


「ふざけるな!!人工島はお前のおもちゃじゃないだぞ!!」


「なら力づくでも止めに来たらいい。できるものならね」


「ああ、徹底的にやらせてもらう」


そう二人の会話が白熱している間に統括者が一息つき


「あの人工島を戦場にすればそれこそ日本が滅亡しかねない。なので決着をつけるならばこっちでルールをつけさせてもらおう。まず一つは民間人へと被害を皆無に。二つ、それぞれ守備側と攻撃側にして機関から出す人材は一人までだ。攻守に関しては君達がすでに分かっているだろう?」


その言葉に白衣の男と鋭い目つきの男が同時に頷く


「そして最後、君達の人材の戦闘が白熱しすぎた場合、その人材の抹殺および両局の解体、再編を行う。いいわけは聞かん」


そう言って統括者は立ち上がり会議の場から姿を消した


「何で日本の近くにこんなものを作ったのやら・・・・・・・」


「それはあそこにあるものが他国に渡った時の対処に困るからでしょう。そして最も監視しやすく首都の近くに置いただけでしょう」


そう言って愛美は会議場から出て行った


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