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一年前の嵐

「ところで、王子は見つかりましたか?」


 頭を下げていた二人は、驚いたように顔を上げて、訝しげに眉を寄せた。


「違いましたか?

 第一王子のボルマット殿下を捜しにいらしたのかと思っておりましたが」


 ゴッカル将軍は目を見開くと、諦めたように溜息を吐いた。


「ご推察、恐れ入る。

 ボルマット殿下のお身体が丈夫ではないことは、ご存知か」


「ええ、存じ上げております」


 第二王子のカーネル王子でさえ出席せざるを得ないパーティーや式典などに、第一王子であるボルマット王子が出席したことは殆ど無い。それは表舞台に殆ど姿を現さない、つまり王子の顔を覚えている者など極々僅かで、しかもそれは幼かりし頃の王子であるから、国民や貴族の間でも姿を見ている者は殆ど居ないらしい。だが、王家からは何の公表も無く、いつからかボルマット王子はお身体が弱いのだと噂されるようになったのだが、本当だったらしい。


「だが、ほんの一年ほど前まで、王子はご健康であられた。

 それが、一年前より体調を崩され、伏せられることが多くなったのだ」


「ですが、王子の姿は、ご幼少の頃より窺った試しがありませんが…」


「王子には特殊なお力が……」


「まさか、先祖還りですかっ」


 思わず声を荒げると、将軍はゆっくりと頷いた。


「何故っ私達を頼らなかったのです!!

 王家は元は神の末裔、稀に先祖還りとして特殊なお力を持ってお生まれになる方もいらっしゃいますっ

 その力の制御をご指導するのも、善き魔女の役目っ!!」


 サイネリアはギュッと拳を握り締める。

 過去を遡れば、魔女の助言を聞かず、力を暴走させた王も存在した。その度にヴィヴィッド家の魔女たちは命掛けでその暴走を食い止め、しかし抑え切れなかった被害は国の国土を削った。

 だが、暴走しない限りは、その強大な力を恐れた他国への、強い牽制となるのだ。故に、ノルン国に先祖還りの王が立った代は、とても豊かで安泰な治世となった。


「王家では、魔女の出入りを固く禁じていたのだ。

 先々代の王、バライスク王の怒りを買うとして、その禁忌の触れぬことは暗黙の了解だった。

 度々起こる力の暴走に、王子の肉体は保たず、ついに一年前、その力は、爆発した」


「……あの、台風は、まさか」


 一年前の悲惨な状況を思い出し、サイネリアは呆然とその風景を思い出す。

 荒れ狂う台風は、しかし過ぎ去った後が酷かった。七日七晩続いた暴風に、雷、暴雨、伴う河の氾濫(はんらん)、国土は酷い事になっていた。田畑の作物は泥水に浚われ、家は風に吹き飛ばされ、雷は人々の恐怖を煽り立て、暴雨は動物達を(なぶ)り殺しにした。無事だった場所までもが、雨によって弛んだ地盤が土砂となり、押し寄せた。

 どれ程の人々が亡くなったのか分からない。王家の統計では、国民の約三割という数字が提示されたのだ。

 そして、サイネリアもそれによる被害を受けた。

 魔女は、十八になると、ある儀式を行う。魔力を安定させ、心臓を取り出す儀式。「星の導き」魔女達は、そう呼んでいる。

 魔力の安定は大事だが、この儀式において何よりも優先されるのが、心臓を取り出すことだ。魔女の心臓の鼓動は、十八を迎えるととても緩やかになる。止まっているに等しい速さで、ゆっくりとゆっくりと時間を刻むのだ。それ故に、魔女は長生きをする。取り出した心臓は、大体魔女の首飾りとなって肌身離さず身に着けている。

 サイネリアは儀式の最中で、他の魔女の立会いの元、心臓を取り出す最中だった。だが、国の危機を聞きつけ、心臓の半分を体に残したままサイネリアが駆けつけた時にはもう後の祭り。嵐は過ぎ去った後で、サイネリアにできたことと言えば、人々への支援だけだった。

 完全な儀式を終えなかった代償なのか、サイネリアの黒かった髪からは色素が抜け、限りなく白に近い、薄い金、プラチナの色となり、瞳の色も黒から薄い茶色へと変貌を遂げた。


「ボルマット王子の力は熱となり、天を貫いた。

 そして厚い雲が城を覆ったかと思えば、土砂降りとなり、すぐに雷が落ちた。王子は意識がなく植物状態で、目が覚めたのは約一ヶ月前。

 王が崩御なされたのと、ほぼ同時だった」


「……」


 何も言わずに、まだあるだろう先を促した。

 約十一ヶ月間、植物状態だったという。臥せっていたどころの話ではない。


「目覚めた王子は、別人の、ようだった……」


「別人とは?」


「元より気のお優しい方だったが、部屋より一歩も外出することもなく、そうかと思えば気が狂ったように暴れる。

 力を解放させることはなかったが、我々家臣は不安に震えたさ。

 次期国王を、この方にしてもいいのかと」


 確かに、不安に思うことはあっただろう。そのような気狂いの王子が間も無く国王だなどと。国が荒れるのは勿論だが、国の滅亡にまで関わってくるかもしれない。


「……あっ」


「どうか?」


 忘れていたことを思い出して声を上げたサイネリアに、ゴッカル将軍は訝しげに問う。


「あ、いいえ。申し訳ありません、こちらのことです」


 気狂いで思い出した。マリエの元恋人こと、バレン君の事をすっかり失念していた。後で回収せねばならない。



「だが、その不安は三日の内になくなった。

 王子が、失踪なさった。」


「目覚めて三日とは、えらくご健勝な……」


「私は内心喜びもいたした。

 これで、第二王子のカーネル殿下を、正当に王位にお迎えできると」


 この将軍も馬鹿ではない。話をしていても知性が垣間見えるし、何より国の事を思っている。

 そんな男が選んだ、王。少し興味が湧いた。


「ならば、そうなさったら宜しかったのでは?」


 すると将軍は残念そうに首を横に振るのだ。


「国の金食い虫共が、『探しもせずに何を勝手なことをするのか』と抜かしおってな。

 ボルマット殿下のお顔が知れていないのを良い事に、犯罪者として、情報を差し出したものに賞金まで出すと言って、人相書きのお触れを出した。」


 恐らく商務大臣辺りだろうか。昔から王家に強い発言権を持つ一家だ。


「だが何よりも、ボルマット殿下の帰還を強く望んでおられるのは、他でもないカーネル殿下だ。

 カーネル殿下が大々的にボルマット殿下を庇護なされれば、それをいいことに、王位から引き摺り下ろされかねない。

 ならば影武者を立てて、自分が迎えに行くと申された。止めれば、金食いジジィ共に協力を仰ぐと言ってしまわれては、もう何も言えなくてな……。

 せめてと私が護衛に就いたのだが、この有様だ。不甲斐無いっ」


 悔しそうに俯いて、最後の言葉を苦々しげに吐き出す。


「カーネル殿下は策士であらせられる。

 もしもボルマット殿下が王位に就いたとしても、自らが迎えに行った、麗しき兄弟愛として民衆からの支持を受けますね。そうなれば大臣たちも、殿下の権力を理不尽に取り上げることはできなくなってしまう。民衆からの怒りを買っては、元も子もないのですから」


 果たしてそこまで計算していたのかは謎だが、結果的にはそうなる可能性もあるのだ。


「……噂話なら、本人の居ないところでして欲しいものだな」


 ゴッカル将軍とひ弱は思い切り後ろを、二人に向かい合って座るサイネリアは二人の後ろを、三人はベッドの上にゆっくりと上半身を起こした金髪も眩しい次期国王(仮)に、畏敬の念を持って頭を下げた。

 そしてサイネリアはいち早く顔をあげ、鋭い瞳を花の微笑みに埋もれさせて声を掛ける。


「お目覚めですか、殿下」


 さあ、貴方の戦争はここからよ。

 果たして、私を見方につけることができるかしら?

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