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「これで、大丈夫でしょう」


 額に浮かんだ汗を拭って翳していた手を引く。

 緊迫していた空気に終止符が打たれて、周囲からも脱力の溜息が漏れた。


「こんなことが……」


 呆然と横に立つ男を見上げて、再び目の前に横たわる人物へと視線を戻す。

 先ほどまで不規則に浅かった息はゆっくりと長いものへと変わっている。これで一先ず安心だろう。


「それにしても……」


 力の使いすぎで青い顔に、サイネリアは眼光鋭く男へと詰め寄った。


「殿下に護衛が二人とは、一体どういった了見です」


 立ち上がって、一人は先ほどからの男に、もう一人はオロオロと右往左往している若い騎士へと眦をきつくして睨みつける。


「それは……」


 言いづらそうに口ごもった男に、サイネリアは毅然と言葉を続ける。


「殿下はこの国の宝、その方に何かあれば貴方方の首が飛ぶだけでは済まされませんよ。

 国民は絶望し、国は乱れるでしょう。それに乗じて、この豊かな国を狙う輩に戦争を(けしか)けられれば如何なさいます。

 それはあってはならないこと、現にこうして殿下は命の危機に対面なされた。」


 サイネリアの台詞に、若い騎士は「ひぃっ」と声を上げた。なんとも情けないことだ。冷たい目で見遣ってから、上官らしいこの男をひたと見つめる。


「……仰る通りだ。

 申し開きの余地もない。だが……」


 チラリと大衆を見遣ってから、サイネリアはしまったと思った。恐らく、一般市民に聞かせられるような内容ではないのだろう。なのにそれを公衆の面前で言及してしまうとは……。


「とにかく、殿下をお運び致しませんと……

 私の狭いボロ小屋でよろしければ、ご案内いたします」


「あ、ああ。

 お心遣い、痛み入る」


 サイネリアは町人達に向き直り「どうか他言のなきよう、メノンの神のお導きに」と言うと、カーネル王子を抱きかかえた護衛の屈強な男と、ひ弱そうな若い騎士を連れて踵を返した。








「改めて名乗らせて戴く。

 ゴッカル・グラン・ガリオールだ」


 二階の私室で、サイネリアはゴッカルと名乗った護衛、ひ弱そうな騎士とテーブルを挟んで向かい合っている。


「あら、ガリオールといいますと……」


 聞き覚えのある名に思わず零すと、男はコクリと頷いた。

 しかし、図体がデカイだけに、窮屈そうである。主に、ゴッカルにソファーの大部分を取られ、端の方で縮こまっているひ弱(もうそう呼ぶ)がであるが。


「さすが、ご存知か」


「国民の誰もが知っている名ですわ。

 名門ガリオール家。代々、将軍を輩出している、爵位は伯爵のお(いえ)


「お察しの通り、私も恐縮ながら、将軍という地位に就かせて頂いている」


「わざわざ将軍ともあろうお方が、王位継承権第二位のカーネル殿下の護衛ですか?」


 普通、将軍自ら護衛などしない。あるとしても、国王ぐらいであろう。

 その息子の、しかも第二王子の道中の護衛など、一体どういうことだ。

 将軍とは、本来その国の主たる者に仕えるのだ。国であるなら国王に。これではまるで、国王に次いで第一王子までもすっ飛ばして、第二王子であるカーネル王子が最高権力者のようだ。


「……まさか」


 ハッとして目を見開けば、サイネリアの予感を肯定するかのように、将軍は頷く。


「国王が、崩御なされた」


「なっ!!」


 いくら辺境の町と言えど、国の主が亡くなったとあれば、噂の届かぬはずが無い。つまり、国王が亡くなったことを、国民に知らせていないのだ。


「まさか、第一王子まで……」


「いや、それが、分からない」


 組んだ手を膝に置いて睨みつけるような視線で以って、自分の組んだ拳を見ている。力の入りすぎで白くなった関節は、そのまま、この国の状況の悪さを表しているようだ。


「突然、消えた」


「消えた?

 行方不明と言うことですか?」


「自ら出奔なされたのか、はたまた何者かの手によるものか、判断がつきかねる」


「しょ、将軍、そんなことまで話してもいいんですか!?」


 ずっと黙っていたひ弱が突然立ち上がって、話の腰を折る。


「馬鹿者、黙ってろ!

 他国ではともかく、我が国では“善き魔女”と言われる」


「ですが、裏切り者ですよ!!」


 そう言って声を張るひ弱に、今度はサイネリアがカチンときた。


「随分なお言葉ですが、ヴィヴィッドの魔女を先に追い出したのは王族です。

 ノルン国に居る魔女は今も昔もヴィヴィッドのみ。そして、代々王家に御仕えしてきた。広い知識と長い年月による経験で王を支え、魔女の秘薬で命をお救い申し上げ、魔力で戦争を勝利に導いた。

 魔女の寿命は六百年とも、千年とも言われる。その長い時間を、全て王家に、国に捧げ、私の一家も今では私一人。

 先代の善き魔女に、先々代の国王は恋をなされた。愚かにも王は妃として迎い入れようとなさったが、寿命の長い魔女が王位に近くなれば、王が死んだとき、魔女が女王となってしまう。それを危惧した先代の魔女、私の母は王を固辞した。

 そして、怒った王は、ヴィヴィッド家の魔女の出入りを禁になされた。

 これが、私が母より伝え聞いた真相です」


「そんな……嘘だ……」


 呆然と呟くひ弱を睨んで、サイネリアはゴッカル将軍に「まあ」と言う。


「将軍はご存知なのでしょうね。

 いくら魔女と言えども、これだけ王家の事情を暴露するのですから。魔女が王家にお仕えしていたことを」


「ああ、知っている。

 王家に恨みがあると言うのは承知している、だが、どうしても今は貴方の、魔女の協力が必要なのだ」


 「頼む」と言って頭を下げる上官に腹を括ったのか、ひ弱でさえも頭を下げてくる。

 そして、サイネリアは、ふっと笑った。


「申し訳ございません、試しておりました」


「は?」


 ふふっと笑う。


「母より言いつけられておりました。

 王家が危機に瀕し、魔女の力を必要としたときは、迷わずお助けせよ、と。

 ですが、私も我が強くて。この目で、手を差し伸べる人物を見極めたかったのです。

 貴方方がこんなにも必死になって守ろうとなさっている方です、信じましょう」


「……恩に、着るっ」


 そう言って、一層深く頭を下げた二人組みに、カーネル王子の人格を垣間見た気がした。

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