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突然の頼み

「サニー!!」


「何よ、どうしたのマリエ」


「その片手に持ってる不気味な色合いの液体を持つ貴方を買ってお願いするわ!!」


「なんだか妙な買われ方ね。

 何よどうしたの」


「私、私……」


 先程迷惑な程の勢いで扉を開けたというのに、今度は顔色を真っ青にして震え始める幼馴染に、ただならぬ空気を感じてそっと近寄って肩を抱く。


「どうしたの、何があったの?」


「私っ」


 カタカタと震えていた全身が、いきなりピタリと止まった。俯いて見えなかった顔を、急に上げる。


「人を、殺したの」


 目をギョロリと見開いて、顔色だけが真っ青なままに無表情に言い放つ。


「……え?」


 瞬きなど必要ないとでも言うように、目は見開かれたままだ。口だけが不自然に動く様は、まるで魚のようだった。


「お願いっ何とかして!!」


 と思えば、恐怖に震え上がる乙女へと変貌を遂げる。

 とりあえず、私は話を聴くことにした。


「話を聴くわ、どうぞ、上がって。」


「あ、ありがとう」


 恐る恐る周囲をキョロキョロを見回しながら、奇妙な形に歪んだ建物の内部へと足を踏み入れる。


「きゃあっ」


 先を歩いていれば後ろから悲鳴が上がって、すぐにカタカタカタと言う不自然な音が響く。


「マリエ、気をつけて頂戴。

 骸骨くんを蹴らないでよ」


「ご、ごめんなさい」


 慌てたように足元の少し先に転がった骸骨に謝る。全く、先ほど骸骨を床に置いたのがいけなかったのか。


「あ、そこにはトカゲの干物があるの、粉々になるから踏まないでね」


 骸骨を跨いで大きく一歩を踏み出そうとしたマリエの足元にある、実験用の私物を案じてそう言えば、またもや小さく悲鳴が上がる。


「あ、そこにはドラゴンの肝が」


「え!」


「あ、そこにはトカゲの目が」


「うそ!」


「あ、そこにはマンドラゴラの声を入れた水晶が」


「いやぁ!!」


 一歩を踏み出すごとに上がる悲鳴に溜息を吐いて、片手に握っている製作途中の液体の入ったフラスコを机のフラスコ置きに置いてから、短い呪文を唱える。


「浮くは易し、羽の如く軽い乙女よ」


「きゃああああ!!!」


 そう唱えた瞬間にマリエの身体が5cm程床から浮く。それはどんどんと上がって行き、70cm程の空中で、マリエの体はふわふわと揺れた。


「運んであげるわ。これじゃあ二階に上がるまでに私の大事な仕事道具を破壊されかねないもの。」


「ご、ごめんなさい……。」


 こくりと頷いてから、また前を進み始めると後ろにふわふわと浮いているマリエも進んだ分だけ付いて来る。


「それにしても、相変わらず凄いのね。サニーの家は……」


「魔女の館なんて、だいたいこんなもんよ」


 奥にある階段を登りながら、目の前にぶら下がっている蝙蝠(こうもり)の剥製を横にずらす。階段に転がる干からびたマンドラゴラを蹴り落として最後の一段を上がれば、不気味な一階とはかけ離れた、白に統一され、綺麗に整頓された部屋へと行き着く。

 ベッドには洗い立てのシーツが被せられ、白いチェアーには金色で唐草模様が施されている。絨毯は通気性の優れた山羊(ヤギ)の毛で編まれていて、四本足のテーブルの上に置かれた花瓶に飾られた花だけが、紫の淡い光で輝いている。白いカーテンの合間を縫って踊る太陽の光が部屋の中を開放的に見せていた。


「やっぱりコッチは綺麗なのね」


 苦笑するように呟くマリエを絨毯に降ろして、白い木で組み立てられ、ガラスの戸が嵌った食器棚からティーカップにティーポット、茶葉を取り出して、一階で沸かしていた湯をパチンと指を鳴らして出現させると、素早くお茶の用意をする。

 幾分落ち着いたのか、くっと目を閉じてソファーに腰掛けて手を膝の上で握っているマリエの前に、温かい湯気を立てる紅茶を差し出す。

 「ありがとう」と力無く笑ったマリエに、自分も腰掛けながら紅茶を口に運ぶ。器用に肩眉を上げて話を促すと、伝わったらしく、マリエはぽつりぽつりと言葉を零す。


「恋人の、バレンのことなんだけどね、今日、彼とお別れしたの」


「へぇ」


 内心、やっと別れたか。と思った。

 顔が良いだけの、いけ好かない男。


「彼に抱きついて、耳元でさよならって言ったの」


 「場所だとか、何で別れることにしたのかとかは?」と内心首を捻ったが、とりあえず話の腰を折ることはせずに頷く。


「そしたら、いきなり彼が『結婚しよう』って言い出して、私、咄嗟に無理だって言ったの」


 当然だ。良い判断だと思う。


「なんだか最近怖くって……。

 私が死んだら私の死体を食べるとか言うの、そしたら血と肉になるからずっと一緒だねって」


 わお、こりゃまたとんでもない気狂いだ。


「それで、怖くなって、お別れしようと思ったの。

 彼は冗談だと思ったみたいで、最初は笑ってたんだけど、だんだんと状況が分かってきたら、怒り出して……」


 女に捨てられるときの気が狂っている男の典型だ。あいたたた。


「それで、首を絞められそうになって、咄嗟に傍にあった瓶で彼の頭を殴ったら、動かなく、なっちゃ……っ」


 恐怖が甦ったのか、温かそうにカップを包んでいた手は、またもや色をなくして震え始める。


「彼が地面に倒れて、そしたら血が凄くて……

 こ、怖くなって、逃げ出したのっ

 で、でももしかしたら気絶してただけで、手当てすれば助かるんじゃないかと思って、戻ってみたら、息、して、なくて――」


 震えは彼女の手の中のカップの中身にまで伝わって、茶色い液体は不規則に波打っている。紅茶のカップをそっとソーサーに置くと、マリエの手をカップごと包み込む。


「分かったわ、なんとかしてあげる。

 “善き魔女”の名に懸けて、その頼み、聞き入れましょう」


 マリエはほっとしたように頷くと、深々と頭を下げた。


「お願いします。」


 こうして、メノン国唯一の魔女、サイネリア・パルケット・ヴィヴィッドこと、人々に世界中でも数少ない善良な魔女として認められた“善き魔女”は、幼馴染の愚かな願いを聞き入れるのだった。

若輩者ですが、精進していきたいと思っております。

つきましては、皆様からのご指摘、アドバイスなどをとても喜びます。涙を撒き散らしながら狂喜乱舞いたします。

どうか応援の程、よろしくお願いいたします(´・ω・`)

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