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只今移動中

長くてすみませんすみませんごめんなさいああああああああああ

 流れていく景色を、サイネリアは窓枠に頬杖を突いて眺めていた。

 ガタンと大きく揺れて、クッションがあるといってもその下はただの木の椅子であるから、沈み込んだ瞬間に強かに尻を打ちつけた。いい加減この状況にも飽きて、(もとい)尻はもう限界に達していて、サイネリアは苛々と爪先で床を叩いた。


「……馬車は初めてみたいだな」


「ええ、まぁ」


 言葉少なにそう返すが、顔の向きは相変わらず窓の外の景色に向けて、正面が空いているにも拘らず何故か隣に座るカーネルを見ようとはしない。

 現在地、ノルン国首都グリフェン郊外。

 状況、カーネル及びサイネリア、ゴッカル及びノース及びボルマット入りの小瓶の、二手に分かれて移動中。

 心境、非常に不満。


「殿下、私がお運びしてもよかったのですよ」


 輝く微笑の背後から立ち上る不機嫌なオーラが見間違いであることを祈りながら、カーネルは冷や汗を垂らす。


「力の使いすぎは疲れるんだろう?」


「……」


 図星を指されて押し黙ると、ほらとでも言わんばかりにカーネルが肩を竦める。


「まあ移動が自由自在な貴女からすれば不便だろうが、たまにはその不便を知るのもいいだろう」


「……」


 再びそっぽを向いて溜息を吐く。


「(……こうなることも有り得たはずなのに、考えてなかったッッ)」


 悔しく思いながらも、今サイネリアがここに居るのはとても自然な流れのはずだった。







「兄上の葬儀をする。

 就任、戴冠式はその後だ」


「そうですな。

 ですが、いつまた動くとも……」


「この小瓶に入れておいたら大丈夫なんでしょう??」


「ええ、動いても非力な力では到底やぶれませんし」


「では、都に帰るとするか」


「あ、王子、カモフラージュに棺桶を持っていきましょう。

 大臣辺り、王子がボルマット王子を暗殺して帰ってきたとか言いがかりつけそうですよ」


「ああ……そうだな

 だが、棺桶に入れたところでどうする?

 確実に俺が殺したのではない、と言う証拠がなければ一緒だぞ」


「そうですな……。むーん……」


「あら、それならうちの骸骨君を持って行っては如何でしょう?」


「骸骨くん、ですか?

 なんです?それ」


「言葉の通りですよ、ノース殿。

 先日友人に蹴り飛ばされて少々分断しておりますが、偽造ならお手の物でございますよ」


「……どう言う意味だ?」


「殿下が都をお出になったのは何時でございますか?」


「一週間前だな、丁度」


「もうそんなに経ちましたかッ

 城の皆にはご病気だと伝えておりますが、見舞いにかこつけて、そろそろいらぬ輩が王子の面会を求めてくる頃ですな」


「うわぁ、面倒ですねぇ~」


「死体の状態が悪ければ、一週間前に城を出たカーネル殿下を疑うことなどできませんわよね?」


「……要するに、俺が兄上に接触できる可能性が無い時期の死体の状態を、再現するということか?」


「ええ、そこは魔女の領分ですわ。

 お任せくださいませ」


「……た、楽しそうですね」


「うむ、何よりだ」


「ああ、研究馬鹿なんだな、きっと……」






 と、言う訳で、何の役に立つのかと思っていた、死んだ後の人間になりきることが出来るという魔術の掛かった、母の作った骸骨君は、ゴッカルとノースの乗る馬車に縄で引かれている荷台の棺桶に納まっている。

 もしかすると、母はこんな時を想定して作ったのかもしれないな、などと考えて、やはり敵わないと苦笑した。


「なんだ?」


 サイネリアの肩が震えたのを目ざとく見つけて、先程まで不機嫌極まりなかったのにどうしたのかと不思議らしい。


「いえ、何でもありません」


「?

 そうか」


 言及することもなく、やっとこちらを向いたサイネリアの顔を満足気に眺める。


「ところで殿下」


「なんだ」


「私は飛んでゆけますが?」


「いや、知っているが」


「……」


「……」


 無言の間に火花の散る音がする。

 カーネルはどうしても譲る気は無いらしい。かと言っても、サイネリアもいい加減尻が痛い。窓枠に突いていた肘も、大きな揺れにずっこけて思い切りすって痛かったし、窓に近い位置に居たおかげでくねる山道に翻弄された上に額も窓にぶつけている。正直、もう体中痛いところだらけだ。


「ああ……」


 赤くなった額や時々浮かす腰にカーネルは察しがついて頷いた。


「ならこうすればいい」


「は?いきゃああ」


 思わず微妙な悲鳴を上げる。


「(ああ、デジャヴだわ……)」


 腕を引かれ、思い切り倒れ込む。横にいるのは当然カーネルで、その膝に頭をぶつけるかと瞼をギュッと瞑れば、身体がふわりと浮いて、座らされた。

 そっと目を開ければ面白そうに輝く紫の瞳に出会って、サイネリアは硬直する。


「っっっ」


「はは、軽いな」


 いやいやいやいやいや、そんな感想は求めてません必要ゼロですとにかく降ろしてぇ!

 言いたいことを内心で一言で叫んでしまった。


「こうしてれば身体は浮かないし、額はぶつけないし、手を壁に突いて踏ん張らなくていいだろう?」


 笑いながらそう言われて、サイネリアは言葉が詰まる。

 サイネリア一人だけでも空を飛んで付いて行けばいい話だとか、何でわざわざ隣に座っているんだだとか、言いたいことはあるのに、サイネリアは諦めたように言葉を込み込んだ。


「(ちゃんと笑ったの、初めて見たんですもの……)」


 サイネリアの諦めを悟って、カーネルは益々上機嫌になる。

 もぞりと動くサイネリアに逃げる可能性を危惧して一瞬力を込めたが、呆れた様にカーネルを見るサイネリアに少し疑問を抱きながらも好きにさせると、正面ではなく背中を向けるだけで、カーネルの膝からは降りなかった。


「(ああ、なるほど。

 照れているだけか)」


 背中を向けたのは確かに羞恥からだが、最初に嫌がったのは絶対それだけではないのに、カーネルは都合よくそう解釈して納得する。

 サイネリアの顔が見られないことは、非常に、非常に不満そうではあったが、これ以上を望んで逃げられては元も子もないと言い聞かせ我慢する。


「美しい髪だな……

 優しい月の色だ」


 サイネリアの後ろ髪を一房掬い取って口付ける。さらさらと零れ落ちていく髪は一本一本が細く、窓から入る光に煌めいている。

 腰上まで伸ばされた髪は下ろしたままで、女性としては少々はしたないと取られそうなものだが、サイネリアの髪は絹糸のように柔らかく風に靡く。そんな髪をはしたないなどと、思う訳が無かった。むしろ今この手に触れていることが奇跡のような、神聖な気持ちにさえさせられる。


「太陽の光を照り返して、まるで星のように瞬く」


 カーネルがお得意の麗句を囁いても、サイネリアからは何の反応もなかった。いつの間にかサイネリアの身体からは力が抜けていて、その身をカーネルに預け切っている。

 警戒するべき対象の、男、である自分に身体を預けるとはどうしたのかと考えたところで、その事実に肩を落とす。

 耳を擽っても無反応どころか、摺り寄せてくるような反応に、カーネルは確信を持ってサイネリアの顔をそっと覗き込む。


「すー……」


 とても静かな寝息に、カーネルは脱力しかける。

 

「大人しいと思えば……」


 が、悪くない。

 少し首が痛くなりそうだが、覗き込めば存分に彼女の顔を拝めるのだ。

 肩にサイネリアの頭がカクンと傾いで、下を見下ろせば女神の(かんばせ)が目に入るようになる。器用に動き、カーネルは昨夜と同じように恭しくサイネリアの額に口付け、昨夜と同じ言葉を囁く。昨夜囁いたそれよりも、敬いと、愛おしさを込めて。


「おやすみ、美しい魔女殿」


 夢うつつに暖かな何かに包まれる心地よさの中、額に落ちた一瞬の温もりと、ずっとあった髪を撫でていく何かの心地よさに、サイネリアはふっと微笑んだ。


 

激甘!!!!

え、そうでもない?

いや、私の書く話でこんなに甘いだなんてっっ

う、ううううう……な、何か涙でてきたぞ……


ん?あれ?読み返したら、何か長く……あれ??

いや、見ないことにしよう。うん。


読んでくださった皆様、ありがとうございました!(o'∀'o)ノ))

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