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出発

長くなってしまって申し訳ありません(´・ω・`)

「良い天気ですな」


「……そうでございますね」


 非常に気まずい気分を味わいながら挨拶を返す。

 サイネリアが闘志を燃やし始めた瞬間、すなわち二人の会話が一段落ついた瞬間、ゴッカル将軍とノーク(やっと名前を聞いた)の(やかま)しい鼾と歯軋りがいつの間にか止んでいるのに気がついた。

 かと思えば「お邪魔でしたかな?」とニヤニヤ顔のゴッカルにまだ眠いのかカクンカクンと頭が舟を漕いでいるノースがドアの隙間から覗いていて、いつから見ていたのかと問い詰めたい気分に陥ったが後悔しそうなので止めておいた。

 ……ノースの首が有り得ない方向にグラグラと揺れていたのは見ないことにしたが。


「この紅茶、良い香りですな」


「おいしいですねぇ~」


 向かい側のソファーに並んで座る二人はサイネリアが調合した、シルフの恵みにほくほく顔だ。その顔を見て、サイネリアも知らず笑顔になる。


「ようございました」


 にっこりと微笑むサイネリアに一瞬ゴッカルはポカンと口を開けて慌てて咳払いをし、ノースは目を見開き眉根を寄せて口をタコのように窄めて奇妙な顔をしている。なるほど妙な反応だ。これではいくら王宮勤めであろうが華のある浮いた噂などないはずだ。


「魔女殿」


 その空気を破るような少し緊張の混じった声音に、一同は共通の主に視線を置いた。

 自分が(もたら)した緊張が、予想外だったのか少し声音を緩める。


「ああ、いや、将軍たちは食事を続けてくれて大丈夫だ。」


 食事と言っても紅茶もどきなので、話を聞きながら口にする分には問題にもならないだろうと将軍たちはそのままシルフの恵みをちびちびと飲み足していく。


「なんでしょうか?」


 横のカーネルを見て少し首を傾げると、カーネルは少し咳払いをして疑問を口にした。


「兄上のことなんだが、今どんな状態だ」


 少し目を伏せてそう言うカーネルの膝に置かれて組まれた手は関節が白む程に力が入り、聞きたくない事に対する無意識の恐怖からは少し声が掠れ、冷静であろうと無理に作った無表情はしかし隠し切れなかった苦痛に少しだけ眉間に皺が寄っている。

 カーネルは、先程「兄弟」だと言った。それは王族にありきな歪んだ兄弟関係ではなかったのだろう。二人の間には確かな絆があり、カーネルはそれをとても大事に思っていたのだ。いや、今も思っているに違いない。そしてそれはすなわち、ボルマット自身に対する愛情と比例する。

 ボルマットが昨夜犯した愚行に、カーネルも受け止めがたい現実だと分かっているのだろう。それ故に痛む心だが、王族の義務として、何より兄を救う為、兄の状況を把握する必要があった。


「……ボルマット殿下は、もう既にお亡くなりになっています」


 サイネリアもカーネルを傷つけることを承知でその事実を口にする。


「そうか」


 目を閉じてその事実を受け止めたカーネルの手は、自分の爪が食い込んで鬱血した様に変色していた。

 その手にそっと指先を這わせると、カーネルはふっと目を開けて俯けていた顔を上げるとサイネリアを見る。サイネリアが少しだけ目を伏せると、カーネルは手の力を抜いて強く組んでいた手をやっと解いた。

 それを見てサイネリアはカーネルから指を引く。


「ボルマット殿下が昨夜動かれたのは、何らかの術によるものだと思います。

 一言もお言葉はお聞きしておりませんので意識がご本人のものか、それとも他の誰かのものであるかは分かりません。

 現在は小瓶の中でお過ごしですよ」


 サイネリアの最後の一言に首を捻ったカーネル達は、サイネリアが指した方向へと目を向ける。寝台の傍に置かれたデスクチェアーの上にポンと置かれている小瓶。

 その半分が不透明で、半分程中身が入っていることが分かる。

 カーネルはソファーから立ち上がってその小瓶へと近付いて行く。屈んでその中身を見ると、硬直した。


「……これは」


「どうかなさいましたか」


 カーネルの様子とサイネリアの発言に、ゴッカルとノースも立ち上がって小瓶へと近付いていく。


「これは……ッ」


「こんなことまで出来るんですねえ」


 三人の視線の先には、横たわったボルマットが居た。

 小瓶の中に、小さな、ボルマットが。


「生憎と狭い家ですから、これ以上はお客人にお貸しできるスペースはありませんでしたので」


 死んだ人間にベッドを貸すのも嫌だし、絨毯に転がしておくのも気味が悪いので、昨夜のうちに小さくして小瓶に入れておいたのだ。いつ動くとも知れないので檻の役目も込みである。


「兄上は、死んだのか」


 疑問ではなく、確認の声だった。自分自身が間違いなくそう認識しているかの、確認の言葉。

 サイネリアはソファーに座ったままで、見えるのはカーネルの背中のみ。その広い背中は、とても頼りなく見えた。悲しみの色に染まる。


「はい」


 自分自身の確認に返事が返って来たことが意外だったのか、カーネルが振り返る。サイネリアはカーネルの顔を真っ直ぐに見返す。


「殿下」


 何を言おうと言うのか、自分自身よく整理もついていないのに、勝手に口が動く。


「この国は豊かです」


 サイネリアの声に、ゴッカルとノースも振り返る。


「ですが、豊かである故に、大きくある故に、統治者が必要なのです。

 それはボルマット殿下であったのかもしれません。ですが、ボルマット殿下は、もうこの常世にあらざるお方。

 カーネル殿下、

 お治めください。」


 カーネルの喉が、渇きを訴えるようにコクリと動く。


「この国を、国の民を、この国の大地を、この国の、全てのものを。

 この国を統べり、お治めください。

 戦なく、餓えず、日々の糧のある国を、御造りくださいませ」


 酷な事を、言っているのかもしれない。

 兄の死よりも、まずお前にはやることがあるだろうと、そう言っているようなものだ。


「民がこの国に生まれてよかったと、誇りを持ってその今を生きられるように。

 (いず)(きた)る将軍殿の家族が、安心して子供を持てるように、

 何時(いつ)ぞや訪れるノース殿の恋が、身分や貧しさに(つい)えない様に、

 他国により決して、民が虐げられることの、ないように。

 雨風を凌ぐ屋根の無い暮らしを民に強いまするな。

 母の乳が無く儚い命が散ることを許しまするな。

 払えぬ税に首を撥ねられる農夫を作りまするな。

 決して、この国を、見離しまするな。」


 貴方には、この国の、四千万の命が掛かっている。

 この国のすべての重責を、背負う運命にある。もう後戻りなどできないのだ。もう王家の血は、正当な継承権は、もうカーネルにしか残っていない。もうこの国を支えられる器は、カーネル以外に、残ってはいないのだ。

 受け容れよ、己が過酷な運命を。


「本来の王が倒れたのは、カーネル様が王になるべくしてそうなったのかもしれない。

 そうならば、決してその命を軽んじますな、無になさいまするな。その命も、祈りさえも背負って、成し遂げて御覧なさい」


「兄上の死が、なるべくしてなったものだと?」


 身体の両脇できつく握られた拳が、怒りと遣る瀬無さにブルブルと震えた。


「そうでなければ、一体何になら納得がいくと仰られます?

 兄上の死には、何の意味も無い方がよろしいですか?その方が兄上を慕っている自分に、長く陶酔することができますものね」


 冷たく、残酷な言葉はカーネルを嬲る。

 そして、怒りという気力が、全身から漲ってくるのをサイネリアは感じた。

 なんと圧倒的な、恐ろしく、美しい……。

 やはり、カーネルの内に眠るものは、小さな器ではないと確信する。


「俺を、侮辱しているのか……?」


 静かに、低く響く声はサイネリアの鼓膜と心臓を、容赦なく震わせる。

 怒りの激しさに比例せず、ゆらりと立ち上る静かな炎が、カーネルの怒りと、哀しみの深さを表しているようで、サイネリアも負けじと瞳に力を込める。

 完全にサイネリアに振り返ったカーネルが、一歩一歩、絨毯に音が吸い込まれているのにも関わらず、サイネリアの心臓はその足音をまるで代わりだとでも言うようにリズムを刻んだ。大きく、激しく、そして重く。


「そうお取りになっても構いません。

 ですが、ボルマット殿下の死に意味があったのなら……」


 真っ直ぐに、己の前に立ち止まった主を(まなこ)に映す。

 さあ、貴方の時代の、初まりよ――


「それは、カーネル様。

 貴方の為であることでしょう」


 そう、貴方のせい、ではなく

 貴方の、為。

 肉親の絆で強く結ばれた、身体が弱く周囲より軽んじられ、内に持つ力故に敬遠された、孤独な人間だったであろう彼を慕い、これ程までにその死を悲しんだ、貴方を導くための。

 彼は、死によって、貴方を導いた。

 そう考えて。

 きっと、貴方なら、その死をとても大切に、するだろうから。


「……ああ、そうだな」


 サイネリアの琥珀に近い瞳は、雄弁に真意を語る。

 ふっと緩んだサイネリアの瞳に、カーネルは悟る。己のやるべきことを。

 

「(国を、すなわちこの国の全て。

 大地を、そして民を統べよ……か)」


 キュッと握っていた拳を解いて、力を抜くように首を上へと仰向ける。

 天井は、白かった。窓からの光は、まぶしかった。目の前の女神は、輝いて見えた。

 

「ふぅーー……」


 前へと頭を預けて、長く息を吐き出す。

 もう、下を見ることは出来ない。常に、前を、見ていかなければ。


(わたくし)達が、おります」


 優しく響くその声に、顔を上げると、とても優しく微笑む女神の(かんばせ)が飛び込んだ。

 ゴッカルとノースを振り返れば、二人の瞳は輝き、主の覚悟に心からの歓喜を訴えた。

 奮い立つ心は、カーネル自身の身をも震わせる。


「……さぁ、国創りだ」


「はい」


「承知ッ」


「了解しました!」


 穏やかな女神の支え、頼れる(おとこ)の返答、知識の宝庫の張り切り。

 バイオレットの瞳に宿った光、それは、きっと本来の色であろう。

今回は筆がノッてノッて。

物凄く長くなってしまいました……(´・ω・`)

やっとここからが私の書きたかった話への突入です!! ( ´艸`)★。、


ここまでお気に入りに登録してくださった皆様、閲覧くださった皆様、有難うございます+。・(Pд`。q)゜。+ 

とても励みになります ( ´艸`)★。、


では、次話にて!!(o'∀'o)ノ))

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