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要らぬ詮索

 跪いて(こうべ)を垂れつつも、サイネリアは思うところがあった。


「(ヴィヴィッド家に代々渡されてきた報酬って、いくらぐらいかしら?)」


 サイネリアのお金好きは、ヴィヴィッドの“血”によるものが大きい。おそらくサイネリア本人も好きではあるのだろうが、本来魔女とは物欲が薄く、探究心が旺盛な学者肌や研究家の気が強いものだ。そんな魔女であるサイネリアがこうも金欲が強いのは、ヴィヴィッドと言う家系によるものだという。

 ヴィヴィッドと呼ばれる前、魔女が世界に散り散りになるずっと昔、魔女達が一つの家族であった時代。ヴィヴィッド家の先祖に呪いが掛けられたとも、その血の“性質”だとも言われるが、ただ確かなことはヴィヴィッドの家系は「金銭」というものに対する執着心があると言うことだけだ。

 母も、母の母も、その前も、ずっとそうだったと聞いている。「そんなものなのよ」そう聞かされてきた。幼い頃は、周りの魔女たちとは違い、「変だ」と思っていたが、時が経ち言い聞かされ続けて今では「そういうものなのか」と思っている。

 そんな血を持つ魔女の家系が今まで仕えてきた王家なのだ、絶対報酬があったはずなのだが母からはそんな話は聞かなかったし、魔女を嫌っていた王家に、そんな記録が残っている線も薄そうだ。金に執着する醜い人間達を見ると、自分もああなのかと自己嫌悪に陥る。それが嫌で、サイネリアはしかるべき報酬以外は貰わないと心に決めているのだ。よって、これは重要な問題といえる。


「で、魔女殿の望むものは何だ?」


 知れず考えに耽っていたサイネリアは、はっとして顔を上げた。


「ッッ」


 そして、思わず仰け反る。


「(近い近い!!)」


 思わず近くに迫っていたカーネルの顔を避けると、カーネルは首を傾げる。


「なんだ?」


「……御戯れは」


 サイネリアが困り果てて少し眉根を寄せると、カーネルはさらに顔を近づけてくる。仰け反りすぎて思わず後ろに手を突いて、これでもかとあからさまにカーネルから逃げようとする。サイネリアの反応から、おそらく男に対して免疫がないと分かっているだろうに、楽しくて仕方が無いとでも言うように瞳を輝かせてにじり寄ってくるのだ。

 ついにサイネリアは絨毯の上に尻をついてザカザカと後ろへ後ろへと後退していくのだが、優雅に後ろ手を組んだままカーネルは一歩一歩を簡単に詰めてしまう。


「(なんでそんなに優雅なのよっ)」


 キラキラとした光が見えるのは果たしてサイネリアの気のせいなのだろうか。

 トンッと、背中に硬い感触が当たる。狭くはないが制限のある部屋なのだから、いつかはこうなるとは分かっていても、考えたくはなかった可能性にぶち当たってサイネリアはぎゅっと眉根を寄せて瞳に力を込めた。


「……この美しさと魔女だと言う肩書きに、そんな筈もないと思ってたんだが」


 サイネリアを壁に追い込んで、相変わらず腕を後ろに組んだまま上半身を折って身を屈めると、サイネリアとカーネルの顔は目と鼻の先だ。

 思わずビクリを肩を揺らして身を強張らせると、その反応に少し目を見開いてサイネリアを怯えさせないようにそっと身を離す。


「……生娘?」


 処女だ。そうだ何か悪いのか。


「そもそも、魔女は知識欲以外の欲がとても薄いものですから

 まぁ……例外的に色欲の強い魔女もおりますが」


 ヴィヴィッド家のように、何らかの欲を持つのは、やはり家系だ。

 ヴィヴィッドが金欲ならば、色欲の魔女も存在するし、食欲の魔女も存在する。


「その一族毎に特徴があるのか?」


 気遣うように一歩後ろへ退いた瞬間、すかさずサイネリアは立ち上がり横へと四歩程度距離を取る。サイネリアのその反応にカーネルは気分を害した様子も無く、肩を竦めた。


「で、どうなんだ?」


 距離を取ることに一杯一杯だったサイネリアは、意識の外にあった質問を再度促されて口を開く。


「……ヴィヴィッドの一族は、金欲(きんよく)です」


 言いづらそうに目を逸らして、ボソリと呟く。

 だが、これで言いあぐねていた報酬を、察しのいいこの王子は理解してくれるだろう。


(きん)……

 黄金ではなく、通貨と言うこと?」


「そうです」


 もうここまで言ってしまえば腹も決まり、むしろ開き直ってそう答える。……やけくそとも言わないでもないが。


「そうか、どの程度の報酬が望みなんだ?」


 魔女が望む金額など見当もつかないのか、もしも巨額であったならとの心配からカーネルは国庫予算を頭に思い描く。


「私にもさっぱり……」


 困ったように首を傾げるサイネリアを見て、またいじめてしまいたい衝動に駆られたのは顔には出さず、カーネルもサイネリアに釣られて首を捻る。


「お国の帳簿に、残ってはいないかと考えていたのですが」


 望み薄だとは思うが一応口に出してそう言えば、カーネルは納得したように頷いた。


「確認してみよう。

 だが、それは全てこの件が片付いてからの話になると思うぞ」


 後払いだと言われて、サイネリアの肩は落ちそうになるが、今までもそうだったと思い直して頷いた。


「承知いたしました。

 この案件、迅速に片を着けましょう」


 ――お金!!

 燃える闘志はやはり下心満載であった。

やはり最近体調を崩しがちで、外にも満足に生けていない状態が続いています(´・ω・`)

どうか、更新の滞りはご了承戴きたいと思っております。

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