英雄
追いつめられる。
もう逃げ道はない。
だけど今回もまだ謎が解けたという訳ではない。
運良く銃弾はあたらなかった。
追っ手をすり抜け、隠れながら来た道を戻る。
いつもなら銃弾が私の胸を貫き、あの行き止まりに失望したまままた振り出しに戻される。
銃弾が当らなったのは初めてだ。
逃げることへの罪悪感がよぎったが、生き延びたい思いと銃弾を貫く時の痛みの記憶が私を臆病にする。
振り出しの広場までやってきた。
私以外誰もいない。
いつもなら、気づけば理由もわからず追われ、追い詰められ、激痛と理不尽の中で戻ってきた場所だ。
いつもなら、必死の思いで突破してきたこの場所には、今は見張りの一人もいない。
こんなにゆっくりここを見渡したのは初めてだ。
広場の中央に置かれた銅像の土台に小さな扉があるのが見えた。
誰もいない。
そっとドアを開けて中へ入り、誰かに気づかれないように素早く閉めた。
暗闇の地下通路を予測していたのに、そこに広がっていたのは草原だった。
遠くに城壁が見える。そびえる時計台。
後ろを振り返るとドアだけがそこにあった。
そっとドアノブを回してみたが、もう開かなかった。
通りかかった羊飼いの少年が、私が門から出てきたのを見て駆け寄ってきた。
このドアが開いたのを見たのは初めてだ、あなたはドアの向こうから来た英雄だと騒ぎ始めた。
王の前に通され、ドアの向こうからの来訪者としてもてなされた。
この国では、ドアの向こうには神の国があるとされていた。
「あなたも神なのか」と王が尋ねたが、
「私は神をお守りする騎士のひとりに過ぎません」と答えた。
突然現れたドアの向こうを確かめるべくこちらに来たが、ドアはもう開かず戻れなくなったと伝えた。
ここは平和で秩序ある世界。
誰も私を追ってこないし、銃が向けられることもない。
そしてここでは誰もドアの向こうがどんな風なのか知らないのだ。
私は今や神の国から遣わされた英雄だ。
そして私は神が統べるすばらしき世界の「語り部」となる。
ドアの向こうは神のなどおらず、私はただ何度も追っ手に追われて命を落としてはまた生き返り、そして追われる日々を気が遠くなるほどに繰り返してきただけだった。
その謎を解くために運命に身を置き、何度も同じ日々を繰り返してきた。
だけどもう疲れた。
そのような日々などなかったものとしてここで生きよう。
私とともに追われる日々を繰り返していた友が、あの最後の日は、私が撃たれる前に私をかばって銃弾に倒れたことなど、起こらなかったことにして・・・
(了)




