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第2章・5:人として残ったもの

「――GRRRRRRRR!!」


その咆哮は、

鋭く冥界を切り裂き、

地獄の根幹すら揺るがした。


苦痛の炎は、

周囲の火焔すら呑み込み。


巨体が動くたび、

大地は悲鳴を上げ、

亀裂が走る。


だが――


黄金の瞳を持つ男は、

微動だにせず、

ただ静かに立っていた。


……


――ザシュッ!!


凄まじい突進。


歪んだ爪が、

スローモーションのように

シュンの顔面へと迫る。


しかし――


圧倒的な静けさのまま、

シュンはそれを軽くかわした。


――CRACK!!


背後の山が、

粉々に砕け散る。


(……制御不能の怪物……)


テンザクは、

目を見開いたまま思う。


(……あの呻き……)

(……悪魔ですら、血の気が引く……)


だが。


シュンは、

ただ一歩も動かず――

真正面から見据えていた。


言葉は、不要。


それは――

明確な挑戦だった。


―――


――BOOM!!


不釣り合いな巨体の悪魔が、

シュンの目の前に立ちはだかる。


身長差は、

歴然。


いや――

屈辱的ですらあった。


悪魔は、

腐臭を帯びた息を

シュンの顔へと吹きかける。


「……汚ねぇ悪魔だな」


シュンは、

露骨な嫌悪を込めて吐き捨てた。


「見た目も最悪だが……」

「息は、それ以上だ」


「――GRRRRRR!!」


咆哮が、

タルタロスの内臓を揺さぶる。


だが――

シュンは、一歩も退かない。


「シュン、ふざけるな!!」


テンザクの声が響く。


「そいつは本当に危険だ!」

「早く、終わらせろ!!」


しかし――


シュンは、

完全に無視して笑った。


「……せいぜい、楽しませてくれよ」


「クソ悪魔」


―――


――ザスッ・ドン!!


一瞬。


シュンの裏拳が炸裂した。


信じられないほど軽やかに――

悪魔の巨体が、

宙を舞う。


――ザシュッ!!


間髪入れず。


飛ばされながら、

シュンの攻撃が連続で叩き込まれる。


拳。

蹴り。

肘。


そのすべてが――

速すぎて、視認できない。


悪魔は、

どこから攻撃されているのかすら

理解できなかった。


――ドン・CRACK!!


最後の一撃。


凄まじい振り下ろしが直撃し、

巨獣は――

山ごと叩き潰される。


岩も、

大地も、

悲鳴を上げて崩れ落ちた。


―――


鎖に縛られたまま、

テンザクは――

言葉を失っていた。


彼は、

シュンの強さを知っている。


だが――

この領域は、理解の範疇を超えている。


(……力だけじゃない……)

(……速さもだ……)


(……二倍……?)

(……いや、五倍……)


(……まさか……)

(……進化し続けているのか……?)


―――


闇の中で、

シュンの足音が響く。


一歩。

また一歩。


舞い上がっていた粉塵が、

ゆっくりと晴れていき――

そこに、恐るべき存在が姿を現す。


「……それだけか?」


冷たい声。


「クソ悪魔」


「楽しませろと言ったはずだ」

「だが――」


「俺に、

 触れることすらできなかった」


「……本当に、

 がっかりだ」


粉塵が完全に消えた時。


そこに広がっていたのは――

岩すら侵す、腐食する血の海。


瓦礫の中心で、

あの巨大で歪んだ悪魔が横たわっていた。


その光景を見て、

シュンは――

わずかに顔を伏せる。


苛立ちと、

わずかな無力感を滲ませ、

低く呟いた。


「……これじゃあ」

「救えないな……」


―――


――CRACK!!


次の瞬間。


地面を突き破り、

黒い触手が凄まじい速度で襲いかかる。


シュンは、

本能だけで回避した。


(……今のは……危なかったな)


再び構え直す。


――だが。


その直後、

異変に気づいた。


「……冗談だろ……」


眼前で。


あの粘性のある巨大な塊が、

ゆっくりと崩れ落ちていく。


そして――

その内部にあったもの。


無傷のエデンの身体。


だが、

彼の頬を伝うのは――

深紅の涙。


それは、

言葉にできない痛みの証だった。


シュンは、

振り返り――

指を鳴らす。


――パチン。


鎖は、

音もなく消え去った。


「……後は任せた、テンザク」


興味なさげに言い捨てる。


「死なせるな」


「……は、はい……!」


―――


テンザクが、

意識を失ったエデンのもとへ向かう中。


シュンは、

一人、歩き出す。


思考の海へ沈みながら。


(……人間である限り……)

(……お前は、弱い)


(……だが……)


(……お前を支配するのは、何だ?)


(……すべてを支配する力か……)

(……それとも、人としての心か……)


その口元に、

奇妙な笑みが浮かぶ。


シュンは、

それを手で隠した。


(……楽しみだ)


(……エデン・ヨミ)


―――


影の中へと消えていく、その時。


一滴の血が、

シュンの頬を伝った。


――無敵に見えた戦士は、

確かに、傷ついていた。

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