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第2章・2:境界

重苦しい空気が、その場を包み込んでいた。


破壊の名残は、

宙に漂う粉塵と、

足元で軋む瓦礫の欠片となって、

今なお感じ取れる。


その中で――

エデンは、

かつての日常だった世界の残骸を見つめていた。


混乱を色濃く残した瞳が、

腕を組み、静かに待つシュンへと向けられる。


(……これが、ただの悪夢で……)

(……目を覚ましたら、全部終わっていればいいのに……)


視線を巡らせながら、

心の中で呟く。


(……これが、じいちゃんの言っていた

「特別」ってやつなら……)


(……正直、普通のままでいたかった……)


その瞬間――

エデンは、自分の手を見つめた。


あの感覚を、思い出す。


(……一瞬だけ……)

(……世界を支配できるほどの力を感じた……)


(……でも……)

(……その後は、真っ暗になって……)


(……何が起きたのか、分からない……)


――それでも。


(……やりたいことだけは、はっきりしてる)


(……もう二度と……)

(……誰かを失いたくない……)


「……二度と……」


拳を強く握り締め、

エデンは小さく呟いた。


―――


少し離れた場所から、

シュンは静かに彼を見守っていた。


だが――

別のものが、視界に入る。


瓦礫の中で、

異様なほどの輝きを放つ一本の剣。


(……あの剣は……)


エデンは、

ゆっくりと歩み寄る。


そして、

低く呟いた。


「……今の俺には、

まだ持つ資格はない……」


「……でも、いつか……」

「……胸を張って、握ってみせる……」


そう言って、

剣を掴んだ――


――瞬間。


莫大なエネルギーが、

全身を駆け巡る。


「――あああああっ!!」


激痛。


エデンは、

そのまま地面へと崩れ落ちた。


冷や汗が額を伝い、

呼吸は、かつてないほど重い。


(……なんだ……今の……?)


「……冗談だろ……」


引きつった笑みで、

そう呟く。


だが――

脳裏には、確かな感覚が残っていた。


(……剣に、拒まれた……)


(……それだけじゃない……)

(……俺を裁くような視線が……)


(……まるで、

かつての持ち主たちみたいだった……)


「……大丈夫か?」


シュンが、

手を差し伸べる。


「……だ、大丈夫……」


その手を取り、

エデンは立ち上がった。


「今、感じたことは――」

「珍しいことじゃない」


「……どういう意味だ?」


「この世界にはな、

ただの武器じゃない遺物が存在する」


「それらには、

守護者が宿っている」


「持つに値するかどうか――」

「それを、裁く存在だ」


その言葉に。


エデンは、

俯いた。


「……俺……」

「……本当に、情けないな……」


シュンは、

何も言わずに剣を拾い上げる。


静かに鞘へ収め――

再び、エデンへ差し出した。


「いつか――」

「その剣に認められた時……」


「その時、

自分がどれほど強くなったか、分かる」


エデンは、

剣を受け取り。


今度は、

確かに――

自分の意志で握り締めた。


「……はい!」


―――



「……出発する準備はいいか?」


背を向け、

知っている世界に別れを告げるように、

シュンが問いかけた。


エデンは一度だけ振り返る。


そこには――

友の姿。

笑い合った時間。

そして、祖父の記憶。


すべてを胸に刻み、

短く答えた。


「……行こう」


その言葉に、

シュンの口元が、僅かに歪む。


「空間術式:ケルベロスの門」


――轟音。


地面が、

地震のように激しく揺れ始めた。


大地は裂け、

深い亀裂の奥から、

亡者の嘆きが響き渡る。


「……何だ、これは……?」


「慣れていけ、ガキ」


シュンは、

笑い混じりに答える。


やがて――

マグマの中から、巨大な門が姿を現した。


黒曜石で縁取られ、

獣の頭部が番犬のように並ぶ。


門扉には、

黄金で刻まれた冥府の神の紋章――

ハーデス。


シュンは中央へと手を伸ばす。


まるで王を迎えるかのように、

門は、容易く開いた。


――その瞬間。


凄まじい風が、

門の向こうから吹き荒れる。


肌を焼き、

肺を焦がすような、

拒絶の風。


シュンは振り返り、

静かに言った。


「行くぞ」


エデンは、

一瞬の迷いもなく――

一歩、踏み出す。


風は、

入るなと叫んでいた。


だが――

瞳の奥の炎は、それ以上に強かった。


一歩。

また一歩。


(……さよならだ)


(……世界)


最後の一歩で、

エデンはすべてを置いていった。


……


「そうだ、言い忘れていた」


門をくぐりながら、

シュンが軽く言う。


「――地面に、キスするかもしれない」


「……は?」


次の瞬間。


――ドンッ!!


エデンの身体が、

凄まじい力で地面に叩きつけられた。


重力が、

山のようにのしかかる。


「なっ……!?」

「何が起きてる!!」


身体は、

地面へと沈み込んでいく。


「ここは、お前の世界とは違う」


シュンは、

何事もなかったかのように歩く。


「重力がな」


「ちょっ……!」

「どこ行く気だよ!!」


だが、

シュンは振り返らない。


「おい! 無視するな!」

「頼む、助けてくれ!!」


深いため息。


そして――

シュンは、再び手を掲げる。


「空間術式:神域防護」


――不可視の球体が広がる。


重圧が消え、

エデンは荒い息を吐きながら、立ち上がった。


「……クソ……」

「……お前、完全にサイコパスだろ……」


「褒め言葉として受け取っておく」


皮肉な返答。


「褒めてない!!」


エデンが叫ぶ間に、

シュンは、ゆっくりと離れていく。


……


(……なんでだよ)


(……最初に出会った狂人の誘いを、

 なんで受けちまったんだ……)


埃を払いつつ、

愚痴が溢れる。


(……どうせまた、

 何も言わずに先行くんだろ……)


「……誰だと思ってやがる……」


苛立ち混じりに呟き、

顔を上げた――


――瞬間。


言葉を、失った。


荒廃した、巨大な景色。


溶岩の川が、

黒き断崖の間を流れ。


歪んだ獣たちが、

遥か彼方を闊歩している。


空は、

赤と紫に染まり。


不可能な高さの山々が、

視界の果てまで連なっていた。


「……な……」

「……な、何だ……ここ……」


背を向けたまま、

シュンが微笑む。


「ようこそ、エデン」


そして、

何の躊躇もなく告げた。


「――ギリシャ冥界へ」


エデンは、

声を失った。


ただ、

唾を飲み込む。


眼前に広がるのは――

燃える大地と、幻想の獣たち。


その瞬間、

彼は理解した。


――ここからだ。


彼の“道”は、

今この瞬間から始まった。

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