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第2章・1:昨日の灰

空を引き裂く断末魔の叫びの中で、

時間が、止まった。


歪んだ悲鳴が、

現実そのものを揺さぶる。


黒く染まった視界の前を、

トラウマの蜃気楼が通り過ぎていく。


家。

動物。

家族。


――すべてが、

痛みの闇に呑み込まれていく。


……


だが、その瞬間。


天上の声が、

静かに囁いた。


「――神よ、

汝の信徒を守り給え」


その言葉と共に、

再び――時が凍りつく。


神聖なる光が、

闇のすべてを覆い尽くした。


――そして。


その先に何が起きたのかは、

誰にも分からない。


―――


……ゆっくりと。


エデンは、

重いまぶたを開いた。


視界は、まだ滲んでいる。


記憶は曖昧だ。

だが――

あの叫びだけが、

脳裏に焼き付いて離れない。


それは、

一生消えない記憶だった。


(……クソ……)

(……何が、起きた……?)


(……じいちゃん……)

(……どこにいる……?)


――その瞬間。


再び、感じた。


祖父の血が、

顔に降りかかる感覚。


あの瞬間。

光を失っていく瞳。

あの――手。


悪夢は、

消えてなどいなかった。


「……うっ……」


エデンは、

耐えきれず吐き出した。


胃が、

記憶そのものを拒絶する。


顔色は失われ、

呼吸は、重く荒い。


「……あれは……」

「……本当に、起きたのか……?」


言葉と共に、

再び嘔吐する。


震える手で、

それでも――

エデンは顔を上げた。


そこにあったのは、

再びの地獄。


破壊の痕跡は、

もう存在しない。


――だが。


鉄の匂いが、

細胞の奥まで染み込んでくる。


何度も。

何度も。


惨劇が、

繰り返し再生される。


それが現実か、

幻か――

もう、区別がつかない。


「……じいちゃん……」

「……本当に、死んだのか……?」


涙に濡れた顔を、

両手で覆う。


「――クソォォォ!!」


抑えきれない感情が、

地面へと叩きつけられる。


皮が剥けるまで、

拳を打ち続ける。


「なんで……!」

「なんで、何もできなかった……!!」


「……なんでだ!!」


空が割れ、

雨が降り始める。


涙と混ざり合い、

地面へと落ちていく。


エデンは、

ただ崩れ落ちた。


――救いは、なかった。


―――


その時。


温かく、

それでいて力強い声が、

背後から響いた。


「……力があれば」

「本当に、何かが変わったと思うか?」


「……変わったに決まってる!」


エデンは、

顔を上げぬまま叫ぶ。


その答えに、

誰かが微笑んだ。


「力とは、

単なる強さじゃない」


「最も過酷な瞬間に立ち向かう――」

「揺るがぬ意志のことだ」


「エデン」

「この世界の残酷さを、

お前は受け止められるか?」


――名前を呼ばれ。


エデンは、

ゆっくりと顔を上げた。


そこにあったのは――

黄金のように輝く瞳。


淡い桃色の髪が、

静かに揺れている。


穏やかな外見とは裏腹に、

その瞳の奥には――

深い地獄があった。


「……やっと、目を見てくれたな」


小さな笑み。


「……だ、誰だ……?」


「……お前も、

あいつらの仲間か!?」


「違う」


即答だった。


「……嘘をつくな!」

「普通の人間が、

こんな場所にいるわけない!」


「……なぜだ……」

「……なぜ、こんなことを……!」


……


沈黙。


それが、

唯一の答えだった。


その時――

エデンの視界に、

一本の剣が映る。


――祖父の剣。


それに、

男が気づいた。


次の瞬間。


怒りと覚悟を宿し、

エデンは剣を掴んだ。


裂けるような叫びと共に、

その身を投げ出す。


「――死ねぇぇぇ!!」


―――


だが――

一瞬だった。


エデンの剣は、

何の抵抗もなく弾き飛ばされた。


彼は、

呆然とその光景を見つめる。


――それでも。


怒りは、

止まらなかった。


エデンは叫びながら、

素手で男の胸を殴りつける。


拳が、

何度も、何度も――叩き込まれる。


骨が軋み、

血が、彼の顔に飛び散る。


だが。


男は、

ただ冷たい視線で見下ろしていた。


「……落ち着け」


そう言ったが、

効果はなかった。


殴る。

殴る。

殴る。


痛みなど、

どうでもよかった。


――欲しかったのは、答えだけ。


……


やがて。


拳は、

次第に遅くなり。


力も、

失われていく。


地面は、

血と涙の海になっていた。


そして――

エデンは、力尽きて崩れ落ちる。


「……なんで……」

「……俺は、守れなかったんだ……?」


「……弱いからだ」


男は、

一切の遠慮なく答えた。


その言葉は、

残酷だった。


だが――

真実だった。


エデンは、

そのことを理解していた。


だからこそ。


男の目を見て、

震える声で問う。


「……じゃあ……」

「……俺は、どうすればいい……?」


「さあな」

「正しい答えなんて、存在しない」


「だが、選択肢は二つある」


男は、

淡々と言い放つ。


「ここで泣き続けるか」

「無力さに苦しみ続けるか」


「それとも――」


「俺と来い」

「強くなれ」

「そして、復讐しろ」


その言葉に。


エデンの頬を伝っていた

涙が――止まった。


「……どういう意味だ……?」


「お前が見たものは、始まりに過ぎない」


「お前の知らない世界が、存在する」


「お前の祖父が来た場所」

「奴らが来た場所」

「……そして、俺が来た場所だ」


――その瞬間。


世界が、

止まったかのように感じた。


「……つ、連れて行かれた……?」


震える声。


「……冗談だろ……?」


乾いた笑い。


「……嘘だろ……?」


「違う」


即答だった。


「お前の祖父は、死んでいない」


「奴らが――連れて行った」


その言葉は。


一瞬だけ――

エデンの瞳に、光を取り戻させた。


「……じいちゃん……」


幸せだった記憶が、

胸を締めつける。


「俺は、彼を知らない」


「だが、分かる」

「簡単に死ぬ男じゃない」


「ただし――」


男の声が、

重くなる。


「この先は、過酷だ」

「暗く、孤独な道になる」


「……構わない」


「……え?」


「孤独だろうが」

「血を流そうが」


「全部、どうでもいい」


エデンは、

真っ直ぐに言い切った。


「必ず、じいちゃんを取り戻す」

「どんな代償を払ってでも」


その瞳に宿る炎は――

かつて見た、祖父のそれと同じだった。


それを見て、

男は小さく微笑む。


「……いいだろう」


「だが、一つ条件がある」


「……何だ?」


「俺が、お前を徹底的に鍛える」


「その代わり――」


「神々の学校《GODS》に入れ」


「……神の学校?」


「……何を言ってるんだ……?」


「祖父を見つけるのは、簡単じゃない」


「だからこそ――」

「神を倒せるほど、強くなれ」


「……はは……」


乾いた笑い。


「……悪い夢みたいだ……」


「神? 力?」

「冗談だろ……?」


「……あれを見て、まだ冗談だと思うか?」


「……いや……」


エデンは、

ゆっくりと息を吐く。


「……ただ……」

「……少し、ワクワクしてるだけだ」


その歪んだ笑みに。


男は、

思わず一歩、後ずさった。


(……何だ、今の……?)

(……こいつ……呪われている……)


黄金の瞳が、

エデンを包む禍々しいオーラを捉える。


男は、

一歩近づき。


奇妙な笑みを浮かべ、

手を差し出した。


「……失礼したな」


「俺の名は――シュンだ」


エデンは、

迷いなくその手を掴む。


ゆっくりと立ち上がり、

答えた。


「俺は――」

「エデン」

「エデン・ヨミだ」


「よろしく頼む、エデン」


その背後で――


二つのオーラが、立ち上る。


一つは、

深淵のような闇。


もう一つは、

光のように白い輝き。


――

決して交わることのない、二つの力。


やがて――

衝突する運命を背負った存在たち。

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