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第3章・8:答えのない問い

少年の瞼が、

ぼんやりとした映像の中でゆっくりと開いた。


まだ視界は定まらない。

だが、その意識を現実へ引き戻す声があった。


「どうやら戻ってきたみたいだな、眠り姫」


皮肉のこもったシュンの声。


「目覚めたら美人なお姉さんがいると思ってたんだけどな……

どうやら世界は、まだ俺に厳しいらしい」


シュンの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


彼は背を向けながら言った。


「もう大丈夫そうだな」


「え?」

テンザクが少し戸惑ったように呟く。

「それだけか?

質問は? 尋問は?」


「それは別の話だ」


肩をすくめながら、シュンは続けた。


「重要なのは、

この小さなバカが正気に戻ったってことだ」


「でも……

あの不意打ちはどうするんだ?」


「それか?

どうでもいい」


「冗談だろ!?」


「今さら、

冷酷に刺してきた奴に感謝なんてできるかよ」


「そう言えば……」


「感謝すべきなのはお前の方だぞ」

エデンが言った。

「お前のそのバカ面、

もう少しで整形してやるところだった」


「クソガキ……」

シュンは笑いながら悪態をつく。


二人は、

起きた出来事にもかかわらず、

どこか不思議な温かさを浮かべて微笑んだ。


それを見つめながら、

テンザクの脳裏に一つの考えがよぎる。


(言葉とは裏腹に……

こいつらには、俺には理解できない信頼がある)


(言葉を超えて、

何かを共有しているようだ)


(……きっと、

二人にしか分からない何かを)


やがて、

場に漂っていた緊張は完全に消え去り、

三人は腰を下ろして、

溶岩が流れる混沌とした景色を眺めていた。


「で、どうだった?」

シュンは溶岩の川から目を離さずに聞く。

「体験は」


「死にかけた瞬間を除けば、

悪くなかった」


「ずっと覚えてるつもりか?」


「冷血な刺し傷は一生忘れねぇよ、ピンク頭」


「はいはい、好きに言え」


「でも……」

テンザクが興味深そうに口を挟む。

「どうして、あんなに時間がかかった?」


「どういう意味だ?」


「儀式に、

あそこまで時間がかかったのは初めてだ」

テンザクは真剣な表情で言う。

「途中、本気で死んだと思った」


「考えるだけ無駄だ、テンザク」

シュンが遮る。

「こいつは、

一直線な道でも迷子になるタイプだ」


「クソ野郎……」

エデンは不満そうに呟く。

「ちゃんと説明してくれてたら、

迷わなかったかもしれないだろ」


「どういう意味だ?」

シュンが問い返す。


「まず、

“一本道”って何なんだよ」


「着いたら、

クソでかい城があって、

門番が怖すぎるし」


「逃げようと思ったら、

反対側は終わりの見えない砂漠」


「城に戻ったら戻ったで、

今度は三十メートル近い巨人が

俺を真っ二つにしようとしてくる」


「極めつけは、

自分を“神”って名乗るバカに会った」


「……こういうこと、

先に言っとくべきじゃないか?」


……


「……なんでそんな黙ってるんだ?」


エデンが顔を上げると、

テンザクとシュンは、

呆然とした表情で固まっていた。


「……え?」

「どうしたんだ……?」


「……冗談だろ」

シュンが乾いた笑みを浮かべて呟く。


「え……?」


「エデン……」

テンザクは硬直したまま問いかける。

「お前……

一体、どこまで行ったんだ?」


「……え?」


……




「おい、おい……

一体、何が起きてるんだ?」


「お前らのその顔、

正直言って怖いんだけど……

何がどうなってるのか、説明してくれよ」


シュンは頭を抱えながら言った。


「……お前が今話したことはな、

どれもこれも、辻褄が合わない」


「どういう意味だ?」


「これまで何百年も続いてきた禅火ゼンカの儀式で、

今のお前が語ったような事例は一つも記録にない」


「長い通路だと言ったのは嘘じゃない」

シュンは続ける。

「だからこそ、儀式は通常、

数時間で終わる」


「じゃあ……

俺は、どこに行ったんだ?」


「……分からない」

テンザクが低く答えた。


「お前が目を覚ました瞬間、

俺たちはすぐに異常に気づいた」


「お前のエネルギーは、

正常に流れていなかった」


テンザクの脳裏に、

あの光景が蘇る。


制御を失い、

あらゆる方向へと噴き出す禅火の奔流。


……


「禅火のエネルギーは、

本来、身体の端から端まで

一定の流れを保つものだ」


「だが、お前のそれは違った」

テンザクは苦い表情で言う。


「砕け、歪み、

何度も身体の外へと噴き出していた」


「まるで……

お前自身のエネルギーが、

苦しんでいるかのようだった」


数秒間、

沈黙が場を支配した。


起きた事実は理解できても、

そこに理屈は存在しなかった。


「今は、

俺たちにできることは何もない」


シュンが結論を出す。


「どんな道を選んでも、

越えられない壁にぶつかるだろう」


「だからこそ――

今ある答えだけを信じて進むしかない」


テンザクとエデンは、

静かに頷いた。


「儀式で、

俺たちはすでに半分の時間を失った」


「だから、

ここからは本気だ」


「試験は目前だ」

シュンはエデンを見据える。

「今のお前の力では、

長時間の制御は不可能だ」


「試験を突破し、

祖父を取り戻したいなら……」


「この数か月で流した以上の血を、

さらに流す覚悟が必要になる」


「……その覚悟はあるか、エデン?」


「ある」


即答だった。


シュンは、

わずかに笑みを浮かべる。


「よし」

「じゃあ――

あのクソ共が、お前から目を離せなくなるくらい

派手に暴れてやろう」


「はい!」


疑問は増え続け、

答えはほとんどないまま。


それでも三人は、

歩みを止めなかった。


未知への恐怖よりも、

彼らの意志の方が強かったからだ。


そして、その瞳には

一つの使命が宿っていた。


――世界を、震え上がらせる。

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